見出し画像

米国のデータ基盤はガバナンスへシフト

オープンデータは定着しガバナンス重視

米国のデータ戦略は、オバマ政権においてオープンガバメントの一環としてオープンデータ政策が強力に進められましたが、トランプ政権になると、オープンデータは着実に進めつつもガバナンス重視の方向へと向かっていきました。
2018年3にPMA(President's Management Agenda) が公表され、変革のためのキードライバーとして「 IT近代化」、「データ」、「人材」の3つを挙げてました。データはCross-Agency Priority (CAP) Goal: Leveraging Data as a Strategic Assetとして重要政策の一つと位置付けられ、分野横断の「政策」、「人」、「プロセス」、「プラットフォーム」のドライバーを視点としたFederal Data Strategy(FDS) が2019年6月に策定されました。

画像1

FDSでは、「倫理的ガバナンス」「自覚のあるデザイン」「学びの文化」の3つの柱による10原則を示し、また、「データの価値を高め、社会での活用を促進する文化の醸成」「データのガバナンス、管理、保護」「効率的で適切なデータの活用」の3テーマに分類された40の実践項目が示されました。
これらを着実に推進するために2019年12月にアクションプラン2020 が公表されました。40の実践項目のうち優先順位が高く実現できるところから取り組みを開始しています。

画像2

各項目は4半期で成果が管理され、公表されています。

画像3

色を見ればわかるように、おおむね計画通りに進んでいます。

アクションプラン2020でどこまで進んだろうか

各省庁は、データガバナンス体制、意識、職員スキルやプライオリティデータの整理状況、データ・インベントリの整備状況の現状調査を行いました。ここでわかったのは、各府省の状況(成熟度)が、かなりバラバラであるということです。

コミュニティ活動的な分野では、各府省にCDO(Chief Data Officer)が設置され、その合議体であるCDOカウンシル ができたことが大きいです。ここで政府横断での情報共有や政策の検討が進められていきます。

FDS4画像4

また、AIのためのデータ整備やデータモデルを検討するチームがあり、パイロット・プロジェクトを実施しています。

IT支出透明化の透明化は重要施策に位置付けられ、そのためのデータモデルの整備が進められています。この取り組みにより、予算審査の効率化や執行状況の管理、開示が、USAspendingITdashboardでこれまでも行われてきました。

FDS5画像5

FDS6画像6


これらは予算要求時から入力するデータモデルが決まっているので容易に実現することができますが、このようなIT支出透明化をさらに進めるために、FDSの一環でIT支出透明化成熟度モデル を整備しました。エクセルに必要項目を入力するだけで、その組織の成熟度を測定して可視化してくれます。

FDS7画像7

画像8

FDSの一環で地理空間データの取り組みも加速していおり、関連して地理空間データ基盤戦略計画(NSDI) の改定が行われています。また、この一環として、標準データに準拠したNational Geospatial Data Assets (NGDA) dataを集約したGeoplatform.govの提供を開始しました。このサービスは、Web Map Service (WMS), Web Feature Service (WFS), and Web Map Tile Service (WMTS)で構成されています。

FDS9画像9


Data.govを中核としたデータ環境整備がすすむ

Data.govというと、米国政府のオープンデータのカタログサイトというイメージが強いと思います。しかし、現在のData.govは米国のデータ政策の中核を担っています。データに関する政策情報のほとんどはここで集めることができます。

画像10

特に注目する点は、resources.data.govです。このページで、データ政策、法令、ツールスキルガイド、事例、標準など、あらゆる情報を手に入れることができます。

画像11

また、オープンデータ以外の政府のデータのインベントリもこのサブドメインに含まれます。連邦政府職員等、承認された人のみアクセスコントロールの上で活用することになります。オープンデータのカタログと同様にCKANを使っているので、オープンデータと政府内限定データを同じ操作性で活用することができます。(アクセスコントロールには、政府統一の認証システムであるLogin.comを使用しています。)

画像12

データカタログにおいて重要なことはデータが検索できることです。そのため、各部門がデータ登録時に容易にメタデータをつけられるように、メタデータ作成の支援機能も提供しています。

画像13

もちろん、職員認証でログインするので、各部門はいつでもデータの追加をすることが可能です。

ガバナンスの仕組み

すでに記述しましが、各府省にはCDOが配置されCDOカウンシルが設置されました。このような強いリーダーシップが必要です。さらに、ガバナンスを進めるためにOMBに2019年11月にFederal Data Policy Committee (FDPC)が設置されており、毎月会議をしてデータポリシーの議論を進めています。今後はデータに関する規則などの見直しも進めていく予定です。
また、データ人材は当初からの重点ポイントであり、データスキルカタログを定義しました。またデータサイエンティストと名乗るための基準なども整理しています。アクションプラン2020でも各省におけるデータ人材の充足状況や理想とのギャップも行われています。中でもマインドセットの展開も重要な要素です。

データを扱うには倫理感も重要なので、データ倫理を確立するためデータ倫理フレームワーク も整備しました。データ倫理信条を以下の7条に定義しています。

Data Ethics Tenets
1 - Uphold applicable statutes, regulations, professional practices, and ethical standards.
2 - Respect the public, individuals, and communities.
3 - Respect privacy and confidentiality.
4 - Act with honesty, integrity, and humility.
5 - Hold oneself and others accountable.
6 - Promote transparency.
7 - Stay informed of developments in the fields of data management and data science.

また人材モデルを示すだけではなく、その知識や経験を補完する仕組みも重要になります。そこで、各府省がデータの信頼性やプライバシー確保を実現するために、ガイダンスやテンプレートを集めたデータ保護ツールキットを提供しています。統計データから個人を再特定されるのを防ぐ工夫など、様々な事例が集められています。

画像15

データを使いこなすにはデータの品質管理も重要になります。そこで、データの「使いやすさ」「合目的性」「完全性」を軸にした品質管理フレームワーク を整備しました。

画像14

FDS以外の取り組み

2020年12月に米国政府のデータ標準体系であるNIEM が3年ごとの定期メジャーアップデートでバージョン5になりました。FDSでは、NIEMも含む政府内のの各データ標準を検討していくこととなっているので、今後も注目していく必要があります。

アクションプラン2021へ向けて

2020年12月に公表されるはずで、調整が遅れ1月末と言われていましたが、3月になってもまだ公表されていません。ただし方向性は示されています。アクションプラン2020でファンダメンタルな部分はできたのですが、各省庁の成熟度のばらつきが課題であり、2021は基盤部分をさらに強化しながら成熟度の向上を図り、全体の底上げを図っていく方向と言われています。

米国データ戦略

おわりに

欧州がアーキテクチャ的に推進しているのに対して、米国のデータ戦略の進め方は、ガバナンス体系をしっかり作り、人を育成して投入するという異なるアプローチをとっています。また欧州はセマンティックスやデータのタクソノミーの議論が盛んですが、FDSでは議論されていません。ヨーロッパで盛んに議論されているデータ交換基盤も、40の実施項目に入っているものの現時点のアクションプランに入っていないなどの違いもあります。
一方、社会全体でデータ人材が豊富などことや様々な民間ビジネスが提供されていることから、枠組みができれば取り組みは早いと考えられます。

lこれまでのデジタルガバメントの取り組みも必要ですが、人材の量と質を高めていくことは重要ですね。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?