法律策定にテクノロジを使おう
法案の間違いが多いと指摘されてます。報道では、霞が関のレベル低下とか、残業が多い中で処理できないとか、疲弊とか士気の低下など、精神論的な議論が論じられています。
これで、確認の読み合わせを2回やるとか、3人で読み合わせを行えとか人海戦術の解決に進むのでしょうか。
そもそも、大量の文書の処理とかは技術的な支援の仕組みがたくさんあり、海外ではLegalTechが盛んです。
国内でもLegalTech、RegTechなどが2年位前から注目されていますが、法定書類の作成支援などが中心で法律自体に入り込んだ議論まで進めていません。一方で今回の間違いは単純ミスが多く、AIで解決できるのではないかというAI万能論的な議論もあります。
問題の本質はどこにあるのでしょう
法律に関して、「法律をきちんと検索したい」という利用者や専門家による要望はもちろんあります。また、そもそも行政の内部でも「法律を正確に効率的に作りたい」「関連法令との整合性を効率的に取りたい」という要望は昔から根強くあります。しかし、法令の策定の仕組みは外から見えない仕組みであり、行政職員も法律ばかりやっているわけではないので、要望が顕在化しにくく、改革がなかなか進んできませんでした。
一方、社会が複雑化する中で、法律をもっとわかりやすくしてほしいという議論や、法律関連の世界にも改革が必要であるという議論があります。六法全書を持って歩いたり、判例の検索を苦労して行うような状況はいつまで続くのでしょうか。
世界で現在議論されているポイントは、デジタル時代に現在の法制度が追い付いていないのではないかという問題です。
法律の世界は、法案の検討から審議、施行まで年単位の時間をかけて進めています。しかし、デジタル技術の進歩は非常に早く、四半期ごとに新技術が発表され、1年で急速に普及していることもよくあります。
この技術の世界と法律の世界とのタイムラインのギャップを埋めていく必要があります。
さらに問題を難しくしているのは、既存の方法を新技術が置き換えてしまう技術のジャンプアップの問題です。
デジタル社会では、既存のやり方の延長で物事を考えることが難しくなってきています。特に、日本では法律は紙や対面を基本として作られているため、現在の社会の仕組みに合わないところも出てきてます。押印の見直しなどの広範なものは一括法で対応していますが、ネットで確認できるものを所定の書式での提出をさせるなど、多くの法律では紙を前提とした仕組みがたくさん残っています。
法律策定の段階でデジタル視点で見直しを行っていくことが求められています。
日本語の曖昧性の問題もあります。2017年9月に印に関する法律の調査をしましたが、各単語の出現回数は、印章(32)、印鑑(133)、印影(34)、押印(590)、押捺(14)、捺印(0)です。しかも、ほとんどの法律では、実印かどうかなどの印の定義をしていません。氏名も法律で記載が定められているものが多いですが、外字も含んだ戸籍の氏名なのか簡易な文字で示した氏名でよいのかなどの定義もありません。
デジタル化は、これまで人が曖昧に処理してきた項目の処理が難しいという課題もあります。
取り組みは始まっている
デジタル時代の法律に関する取り組みは世界各地で進んでいます。法律と執行ルールを組み合わせる方法、法律改定を頻繁に行っていく方法、法律策定プロセスでデジタル視点のチェックをする方法、法律策定にテクノロジを活用する方法などがあります。
法律と執行ルールを組み合わせる方法は各国で従前から使われてきました。法令に基本事項を書き、省令や施行令で環境変化に合わせた対応をしていく方法です。この延長にあるのがいわゆる通達行政と言われるもので、通達や事務連絡などの行政文書で法の執行に補助的な情報を与えています。さらには、ガイドラインにより補助的情報を与えている場合もあります。(国の行政機関が公表したガイドライン等の 実態把握のための調査研究)
エストニアなどの国では、法律の改定を頻繁に行うことで社会の変化に法律を合わせて行っています。
法律策定のプロセスや組織をデジタル化にシフトしていっているのがデンマークではないでしょうか。デンマークではデジタルに対応した検討をしたか確認した法律しか議会に提出することができません。そのためデジタル法制局があり、データ再利用をしているかなどの項目について年間約100本の法律の審査をしています。さらに、法律をモデリング手法で書いたり、法律企画段階でデジタル専門家の意見を反映するなどの取り組みを進めています。
さらに進んだ取り組みが、法律策定プロセスへのデジタル技術の活用です。法律を構造化、可視化するとともに、オントロジーと言われる用語の揺れに対応する技術を導入し、法律策定を効率よく、正確、しかも使いやすい形で作る取り組みが進められています。
2年前に、こうした海外の動向も踏まえた資料を整理しています。参考にご覧ください。
「デジタル時代の法律整備と活用」
さらに最新動向を踏まえてLegTechに関して新たなまとめをしているところです。ぜひご期待ください。
今後の取り組み
国内でも、デジタル社会の変化に対応した法律も含んだ考え方としてアジャイルガバナンスの検討が始まっています。2020年7月に「GOVERNANCE INNOVATION: Society5.0の実現に向けた法とアーキテクチャのリ・デザイン」報告書を公表し、2021年2月に「GOVERNANCE INNOVATION Ver.2: アジャイル・ガバナンスのデザインと実 装に向けて」報告書(案)を公表しています。
このように高速で柔軟なガバナンスを進めるためにもテクノロジの活用は欠かせません。
世界の最新動向をきちんと参照して、対面確認が不足しているとか過重労働とか体制や人の問題ではなく、法律策定から活用まで、デジタル社会の基盤を整備していきたいものです。