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夜明け前  (もじもじ1)

2008年の夏、経済産業省の中で電子政府について熱く議論がされていました。

「1994年に行政情報化推進基本計画ができて、さらに2001年にe-Japan戦略の中で電子政府が推進されてきたのに、なんなんだこの状況は」

「何が解決し、どれだけ便利になったのか」

「今の体制で、本格的な改革ができるのか」

「行政CIOやCIO補佐官を入れたが、機能していないのではないか」

「英国では、NPM(New Public Management)の次に、Power of Informationという新しいフェーズに入り始めているぞ」

ということで、政府と自治体を含んだ総合的な見直しが必要という結論に至りました。

CIO補佐官って何だっけ

CIO補佐官は、2003年に始まったIT専門家を府省に配置する制度です。当時は、各府省に2002年からCIOが配置され、各府省情報化統括責任者(CIO)連絡会議があったのですが、そのCIOはITに詳しいわけでもない人も多く、充て職的にCIOとなっている人も多くいました。そこで、CIO機能の強化のために経済産業省は2003年5月にCIO補佐官を採用しました。

それを参考に、政府の電子政府推進のために新規に作られた「電子政府構築計画」で、「各府省は、2003 年12 月までに、府省内の業務・システムの分析・評価、最適化計画の策定に当たり CIO 及び各所 管部門の長(業務改革関係部門、情報システム統括部門)に対する支援・助言等を行う CIO 補佐官を配置する」と政府全体に展開することにしました。

その方針は自治体でも参考にされ、多くの自治体にCIOやCIO補佐官が設置されました。

その結果として、CIO補佐官によるガバナンス強化などが推進される一方で、レベルの低いCIO補佐官も散見されるなどの問題も起こっていました。

CIOの知見集めると次への突破口が見えるのではないか

そうした中で、経済産業省は、府省や自治体の優秀なCIOとCIO補佐官を集めた「行政CIOフォーラム」と民間のトップCIOによる電子行政を検討する場として「CIO百人が考える電子政府研究会」を設置し、2週間に1回のペースで現在の課題と将来の方向性を議論することにしました。(CIO百人が考える電子政府研究会の「百人」は意気込みであり、実際には十数人で開催w)

開始時の議題設定

事前に用意した議論の土台は、過去の整理が中心で特に調達や推進力に課題を持っていました。

行政CIOフォーラム論点

このように、整理した中で大きな基軸として出したのが左下にある「行政情報の利活用」と中央の上にある「「環境」という絶対的な評価軸」の導入です。

「行政情報の利活用」は英国で2007年に取り組みが始まったPOI構想(Power of Information)の影響を受けています。(レビューレポート政府の応答)それまで英国では、民間の経営手法を公的部門に応用した新しいマネジメント手法としてNPM等を通じて顧客接点などを改善してきました。その次の構想として、行政の情報を公開し、内部活用するとともに、国民との対話、協働を通じてサービスを構築していくという、情報を軸に行政を見直そうという考え方です。TEDでのTim Berners-Lee のオープンデータの講演やオバマ大統領のオープンガバメント政策が2009年、オライリーのオープンガバメントの出版が2010年であり、このPOIの影響を受けたと言われています。

また、「環境という絶対的な評価軸」は壮大な考え方でした。その当時の電子政府の評価が、申請数等を測る等のわかりにくい指標であり、指標がついていないものもあったので、それを環境(CO2排出量)等で測れないかという考え方です。これは、当時、世界でも考えられている例がなく、超先進的でしたが、結果に至りませんでした。しかし、いま世界のデジタルガバメントは、環境指標やgreenの指標とともに語られることも散見されることや、いまだにデジタルガバメントの成果指標が進歩していないことを考えると、重要な観点であったと思います。

文字問題が議題として浮上

さて、何時になったら文字の話になるかということですが、当初の議題に文字の問題は入っていませんでした。「行政CIOフォーラム」の中でベンダーロックイン等を議論していた時に、自治体CIOから提起された課題として外字問題がありました。他の自治体CIOも口々に共通の最重要課題として指摘し、集中的に議論することとなりました。また、その時期にフォーラムに参加していない自治体の人にもヒアリングしたのですが、「情報化の最大の課題を1つ挙げるとしたら何ですか」と聞くと、必ず「外字が問題」であると答えが返ってくるほど重大な問題でした。

その時の課題は以下の通り。

・文字によりベンダロックインされる

・外字を使う住民の窓口対応が大変

・コストがかかる

・システム間でのデータ交換で文字化けが起こる

提言としての取り纏め

行政CIOフォーラムの議論の結果は取りまとめられ、2009年3月に開催された官民CIOが集まるCIO百人委員会で報告されました。

行政CIOフォーラムまとめ

行政CIOフォーラム2

報告のポイントの6番目の最後に、基盤として「文字の標準化」が加わりました。ほかの課題に較べて地味なテーマであるため、提言に入れるかどうかで意見が分かれましたが、委員の意見が多かったこともあり提言されることとなりました。

現在の文字政策の立ち上げまでの経緯はここまでです。

次回は、これを受けた取り組みについて歴史を振り返ります。

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