データ戦略はどう作られたか
2020年12月21日に公表されたデータ戦略は、10月23日に第一回タスクフォースが行われ、実質的には12月8日の案の公開までの1か月半で作成された。この検討は「データがつながることで新たな価値を創出」することを目指すなど、価値や信頼というものに重きを置いて整理されている。価値は、ただ単にデータが共有、連携されて新しいサービスを生み出すだけでなく、品質が高く、ガバナンスの利いた信頼できるデータを共有することにより実現することを目指している。
データ駆動社会に向けたサービスというよりも、そのための基盤作りを目指している。
また、今回の戦略は、アーキテクチャの導入、並行した成果物によるクイックウィン、国民との対話、グローバル視点等、随所に工夫がされている。githubまでは行けなかったが、デジタル時代の戦略推進には示唆が富むものではなかっただろうか。(海外の最近のデジタル戦略はgithubを使うものも多い。)
ウォーミングアップ
2020年1月に政府内の会議としてデジタル社会構築TFがデータ戦略策定を目的に設置され、6月26日に「デジタル社会構築タスクフォース_データ環境整備についてのとりまとめ」が公表されている。これがデータ戦略のスタートラインとなっている。
日本は、「統合イノベーション戦略」、IT戦略である「世界最先端デジタル国家創造宣言・官民データ活用推進基本計画」等にデータに関する取り組みはあるものの、データ駆動社会に対してデータを軸にどのように考えていくかという整理が必要であった。
この検討を進めている間にも各国のデータ戦略の取り組みは加速しており、先進国でデータ戦略を持たない国は日本くらいになってきていた。
シンガポール 2018-06 Government Data Strategy
オーストラリア 2018-12 Data Strategy 2018-20
米国 2019-06 Federal Data Strategy
カナダ 2019-08 Data Strategy Roadmap for the Federal Public Service
欧州委員会 2020-02 A European strategy for data
英国 2020-09 National Data Strategy
米国のアクションプランは2020年末を目途に進めており、データに関する先進国のデンマークのデジタル戦略は2020年末を一つの区切りとしている。このように、各国の取り組みは2020年末が一つのマイルストンとなっていた。
準備開始
新型コロナウイルス感染症対策などにも稼働が割かれる中で、国内外の状況の整理が行われるとともに検討体制の準備が行われた。
7月3日にCIO補佐官によるデジタル・ガバメント技術検討会議データ連携タスクフォースで、マインドマップを使ったワークショップが開催され、海外や国内の状況も踏まえた全体像の検討が行われた。
そうした中、7月17日に公表した「経済財政運営と改革の基本方針2020」において、「ベース・レジストリ」の構築に向けた工程を年内に策定すると、データ戦略ではないものの、その一部について2020年末を目途に取り組みを進めることが公表された。
9月中に民間有識者も入れたデータ戦略の検討会議を開始しようとしていたが、9月16日に菅内閣が発足し、デジタル庁の検討が始まったことなどもあり、デジタル・ガバメント閣僚会議のデジタル戦略タスクフォースは10月23日に開始された。年内に戦略を作るとなると、11月末に案ができていないと間に合わないぎりぎりの設置であった。そこから、12月21日公表までの奮闘が始まる。12月21日公表と言っても、実質的には12月8日までにタスクフォースの案を作り上げるので、実質的に一か月半で検討を進めることとなった。
短期間で十分な検討を行うための工夫
10月23日から全3回で議論を行う予定で計画された。そうはいっても3回目は取りまとめなので、実質的に議論できるのは2回だけになる。そこで、一回目に骨子を出して、2回目に作りかけであるが報告書案を提示して議論することとなる。資料の事前送付はもちろんするし、予定が取れる有識者とはできる限り事前打ち合わせをして多くの意見を取り入れられるようにした。
それだけではない。オープンな議論を心掛けた。タスクフォースの会議が終わると、ちょうど開始していたデジタル改革アイデアボックスで意見募集を行い、誰でも意見や疑問を言えるようにした。そこで担当者が疑問への回答をしたりしているし、指摘された意見は検討に反映している。例えば、データへのアクセスの範囲が分かりにくいという意見があったので、2回目以降の資料ではその部分を明確化している。また、主要データを保有する各省庁との意見交換も並行して行っている。
結局、会議は全3回の予定であったが様々な意見があったので、4回目の会議を追加開催(メールでの持ち回り開催)し取りまとめをすることとなった。
「会議 → アイデアボックス → 会議 → アイデアボックス+各省意見交換 → 会議 → アイデアボックス+各省意見交換 → 会議」と、かなり密度が濃い流れで検討が進められた。
内容的にどうなのか
内容は読んだ人の評価に任せるが、初めて作ったスタートラインとしてはカバー範囲と内容として十分なのではないだろうか。抽象的で具体論がないという意見もあるが、今回は第1次取りまとめであり、今後、2021年夏に向けて深堀をして、第2次取りまとめとして具体論を整理していく。
今回の戦略検討の特徴は、アーキテクチャがフルに活用されている点である。戦略からハードウェアであるアセットまでアーキテクチャを定義して各層で検討を行っている。今後、分野横断で具体論を検討していくには重要な視点である。詳細アーキテクチャの整理には、アーキテクチャ記述言語であるArchimate®を使っている。
更に、戦略として整理するとともに実成果の検討も並行して行われている。今後、3月末に向けてデータ品質管理ガイドやコード一覧、データ講座等、次々と成果が出てくる。このような成果が実感できるクイックウィンを考えた戦略推進が今の社会には求められているのではないだろうか。
どこを見て戦略を検討しているのか
データ戦略の目標は2030年を考えている。その理由は、2つある。
1つ目の理由はデータの整備には時間がかかることや、システム更改などのタイミングで無理なく整備していくためである。
2つ目の理由は、世界の動向である。世界のデータ戦略は、おおむね2030年を目標にしている。つまりは、2030年の世界は、データやデータ活用環境が整備されているのが前提になるということである。その時に、日本も同様にデータやデータ環境が整備されている必要がある。
また、この戦略の特徴はグローバル視点であることがあげられる。これまでの戦略は、各府省が実現できることやりたいことの積み上げで作ることもあったが、この戦略は、当初からグローバルな取り組みを研究し、2030年のグローバル連携を常に視野に置きながら検討している。そのため、やらなければいけないが、現時点で誰が担当するかが明確ではない抽象的な論点も記載している。
グローバルに考えると、世界の戦略と日本の戦略の差異の明確化、つまりは日本の特徴を明確にすることが求められる。今回のデータ戦略の特徴は、「品質と信頼」ということがポイントとなるが、今後その検討を深化させていく必要がある。また、グローバルに考えると良い点は論点が明確化することである。日本語はどうもあいまいで冗長なので、戦略の文書にするとどうしても論点が見えにくくなる。そこで、戦略策定の終盤には並行して英語化を開始して、抜け漏れのチェックも行っている。それらをもとに英語版サマリーを戦略策定後にすぐに作っている。
2021年は、各国の戦略が出そろったところで、今後の国際協調の在り方も具体的に進んでいくものと考えられる。まさにスタートラインに立ったところではないだろうか。
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