Society5.0のRAはどう検討されたのか
最近、Society5.0リファレンスアーキテクチャ(RA)が参照されることが増えてきましたが、どう作ったのかという経緯をまとめてみました。
Society5.0リファレンスアーキテクチャへの挑戦
Society5.0リファレンスアーキテクチャは、総合科学技術・イノベーション会議(CSTI)の分野横断的な基盤の検討を行うシステム基盤技術検討会で2016年1月13日に検討を開始しました。初回に各参加者がアーキテクチャに関する考え方等を紹介するところから始まり、実務者会議等の検討も経て第8回に集中的に議論が行われています。
2017年3月30日の最終回では、リファレンスアーキテクチャの重要性は合意されたものの、汎用的なアーキテクチャではなく、産業戦略的なアーキテクチャが必要などの意見も多く、リファレンスアーキテクチャの整理には至りませんでした。
以下の資料のP34に結果が整理されています。
https://www8.cao.go.jp/cstp/tyousakai/juyoukadai/system/10kai/siryo1-2.pdf
アーキテクチャの論議をすると皆さんそれぞれの思いがあり、なかなか統一の議論にならないことが多いですが、様々な分野をつなぐための汎用的なアーキテクチャを作る議論でしたし、大きな差異があるわけでもないので、ある程度の割り切りがもあってもよかった気もします。
Society5.0リファレンスアーキテクチャの整備
戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)第一期は11分野取り組みが行われましたが、「ルールができたのか」、「システムができたのか」、「どこに問題があるのか」など、成果や課題を一覧的に見たいという要望がありました。
そこで、やはりアーキテクチャを使って構造的に管理したいということになり、データ標準化で協力を開始していたIT総合戦略室と協力して、アーキテクチャの検討をすることになりました。
IT総合戦略室は、データ標準に関する知見を持っていただけではなく、エンタープライズ・アーキテクチャを15年位前に政府に導入した知見、2017年3月に公表されたばかりのEC(欧州連合)が推進する行政サービスのアーキテクチャのEIF(European Interoperability Framework)の知見、欧州産業界のアーキテクチャであるRAMI(Reference Architectural Model Industrie 4.0) の知見、米国産業界を中心としたアーキテクチャであるIIRA(INDUSTRIAL INTERNET REFERENCE ARCHITECTURE)の知見が既にありました。
さらに、CSTI、IT総合戦略室だけでなく、主な国内大手ITベンダのアーキテクチャ専門家にも加わって、ディスカッションしながら作ったのが、Society5.0リファレンスアーキテクチャです。
実は早くできていたリファレンスアーキテクチャ案
Society5.0アーキテクチャは、2018年4月9日に「分野間データ連携基盤の整備に向けた方針」の中で地味に公表されています。
素案は、2017年の9月下旬に作られた、以下のインタオペラビリティ・フレームワークの案です。
それまでは右図にあるように、全体がつながるイメージしかなかったものを、アーキテクチャ的に分解して整理しています。ここで、データを取り巻く機能の層がコの字型になっています。データ自体を考える層が必要なのはもちろんですが、それを取り巻く様々な機能が提供されています。従来のアーキテクチャでは機能層は1つの層にまとめてしまうものがほとんどですが、ここでは、あえてデータとハードの間にデータ・ハンドリングの機能層を定義しています。データの活用と収集を分ける意味もあったのですが、別の層として定義した最大の理由はエッジコンピューティングを意識していることです。スマートシティや工場を考えると、センサーで情報を取得し、そこで自律分散的にアクチュエーターが対応をする場合があることから、そのような構成も表しやすくしています。
さらに、CSTI、IT総合戦略室が国内大手ITベンダとで検討し以下のように整理をしています。
特に、白い上位三層はビジネス層に含まれることが多く、どのように定義するかが難しかったのです。当時は、欧州のインタオペラビリティの議論の中で、技術的に課題解決したプロジェクトが、次のステップとして法律や組織についての検討に着手していることが増えていました。また、国内でも個人情報2000個問題などが提起されていました。そこで、ルールと組織の層を追加することとしました。また、何を目指して推進していくかも明確にした方が良いことから、その上の戦略やビジョンも層として明記することとしました。
2017年10月に行われた政府内部の会議ではすでに以下のように使用されています。ここの説明を読めばわかるように、インタオペラビリティ(相互運用性)を強く意識して設計されていることが分かります。
このアーキテクチャの理念は何なのか
よく、このアーキテクチャの理念や特徴は何ですかという話になります。これに対しては、特徴がないのがこのアーキテクチャの特徴です。強いて言えば、インタオペラビリティの重視が特徴と言えますが、そもそもアーキテクチャを作る目的には、システムやサービスの可視化、構造化、インタオペラビリティの確保がありますので、あえて特徴とは言っていません。
各アーキテクチャと比較することで、平均的なアーキテクチャになるようにあえて仕上げています。このように平均的にすることで、各分野のどのアーキテクチャともインタオペラビリティをとりやすくなっています。
Society5.0リファレンスアーキテクチャを、理念もあいまいなつまらないアーキテクチャで、詳細構造もなく、これはアーキテクチャではなく分類に過ぎないという人もいます。でもそれで悪いのでしょうか。アーキテクチャを作ることやきれいに定義することが目的ではなく、アーキテクチャはあくまでも手段にすぎません。検討を迅速かつ確実にするためにまず決めて、そこから成長させていってもよいのではないでしょうか
アーキテクチャとして大丈夫なのか
このアーキテクチャの検討過程がわからず、アーキテクチャとしての検討の深さや専門性などに不安を感じる人がいます。
前述した、現在の主要アーキテクチャを検討したのはもちろんのこと、ZachmanフレームワークやTOGAFの取り組みも見ていますし、ISO/IEC/IEEE 42010:2011 Systems and software engineering — Architecture descriptionもわかったうえで検討を進めています。
ただし、海外のアーキテクチャのようにビューなども持っていないし、解説書がないなど、アーキテクチャとして不十分な点があります。一方、スマートシティやデジタルガバメント分野のように、このアーキテクチャを積極的に活用した事例も出てきています。
微妙に違うバージョンがないか
実は、Society5.0リファレンスアーキテクチャにはバージョンがあります。2018年4月9日に「分野間データ連携基盤の整備に向けた方針」の中で公表していたものを、微妙に変えたものが以下の図になります。強いて言えばv1.1でしょうか。大きな変更点は、左側の「セキュリティ・認証」の枠が上まで伸びた構造になっています。
当初の検討では、「セキュリティ・認証」は機能の一部として定義されていたのですが、推進する過程で戦略まで伸びた枠になっています。このようなものも踏まえ、今後は、導入事例のフィードバックを得ながら、ドキュメントの整備やメンテナンスを進めていくことが重要だと思います。
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