データマチュリティってなんだよ(Data Maturity)
AIの台頭などにより、データにやっと光があたりはじまめました。データが組織の重要な資産と理解され、その活用や管理に関する取り組みが急速に進められています。
データを使いこなすためには、各部門のリテラシー向上や専門家のスキルアップなど、これまでは個々の人材に対するアプローチが行われてきました。しかし、組織として連携できているのか、人材を活かせているのかといった観点ではどうでしょう。
データサイエンティストの作業時間のほとんどがデータのクレンジングであるとかの無駄は誰もが感じているところですが、これらを組織的に解決していく体系的な取り組みがありませんでした。
もしデータサイエンティストに、分析に必要なデータが、高品質で、利用制約が明確な形で提供され、適切なツールが提供されれば、高度なデータ分析ができるようになるでしょう。さらにその結果を経営判断に使ったり、他部門と議論するのに使うことで、データの価値が最大化され、経営や事業運営に貢献することができるようになります。
このように、経営にとって重要なデータの価値を組織全体で最大化する仕組みがデータマチュリティです。
2015年頃から海外で注目され、強力に推進されています。
※2024年8月27日追記
データマチュリティについて、また新しいwordを持ってきてという人もいますが、海外ではそんなに突飛な話題ではありません。IT村で語られるだけでなく、経営雑誌でも取り上げられています。
Data Maturity: Finding A Path To A Data-Driven Future(forbs,2022)
The Data Dilemma: Is Data Maturity Inhibiting Your Growth?(forbs,2024)
Democratizing Transformation(HBR,2022)
The High Cost of Misaligned Business and Analytics Goals(HBR,2024)
マチュリティ・モデルとは
マチュリティ・モデル(成熟度モデル)は、組織などで行われる業務やシステムを細かい機能に分解し、順次その機能を実現していくことでステップアップしていくモデルです。成熟度モデルの中にはいくつかの柱が設定されており、その柱ごとの成熟度を測ることで、自己成長の目安にしていきます。
情報システムの世界では、システムの品質を図るCMM(Capability Maturity Model)が有名で、評価する各柱について、「初期レベル」、「反復可能レベル」、「定義されたレベル」、「管理されたレベル」、「最適化されたレベル」の5段階でモデルを構成しています。
データマネジメント・マチュリティ・モデル
CMM以来、成熟度モデルは様々な分野に展開されてきており、データ分野では、CMMを推進していたCMMI(現在はISACA)がデータマネジメントの成熟度モデルとしてDMM(Data Management Maturity Model)を2014年に体系化しました。
「データマネジメント」という名前の通り、データ管理に焦点を当てたテクニカルなモデルになっています。今はDMMの要素はCMMの一部に取り込まれ推進されています。
データの知識体系であるDMBOKも、第15章にデータマネジメント成熟度アセスメントを取り上げていますが、やはりデータ管理に焦点を当てたマチュリティモデルを取り上げています。
オープンデータ・マチュリティ・モデル
オープンデータを推進するためにもマチュリティ・モデルが使われています。
2015年にオープンデータ推進団体であるODIが、オープンデータ・マチュリティ・モデルを公表しました。これは、テクノロジよりも利用に焦点を当てて評価の柱を作っており、それぞれの柱で詳細機能のレベル評価をしていきます。
インタオペラビリティ・マチュリティ・モデル
欧州委員会は、データを含む、サービスのインタオペラビリティの成熟度を測る仕組みとしてIMAPS(Interoperability Maturity Assessment of a Public Service)を2020年から推進しています。様々なサービスを組み合わせて最終サービスを提供をすることが増えてきていますが、そのような、System of Systemsの評価やモニターを効率的に実施することができます。
経営視点でのデータマチュリティ・モデル
各国政府は、その国における最大のデータオーナーであることから、社会全体の規範になりうるデータマチュリティに積極的に取り組んでいます。
米国政府
米国政府は、民間でのデータマチュリティの取り組みを参考に、2017年にNISTがThe Federal Government Data Maturity Modelを公表しています。このモデルでは、カルチャーや人材、ガバナンスなど、これまでの取り組みに比べ、より組織マネジメントに近づいてきています。
以下の縦軸が評価軸、横軸が成熟度です。
さらに2020年に作られた米国政府のデータ戦略のFederal Data Strategyでデータマチュリティが重要項目の一つとして取り上げられました。
ここで、データやそのインフラのマチュリティのアセスメントを各省庁で行うように求めているので、2020年にSocial Security Administration Analytics Center of Excellenceが 、Advanced Analytics Capability Maturity Model (A2CM2 )を公開しました。
データの分析に力を入れたモデルです。
さらに、労働省(DoL)も社会保障庁のA2CM2を参考に、データマチュリティ・モデルの作成を行いました。このモデルでは、Analyticsを一つにまとめ、簡素化しています。
DoLは評価のフォローアップもしており、分析軸を変えたうえで2022年には以下の自己評価を公表しました。各要素の成熟度を色で表しています。
BCG等と協力し、同じ調査軸で連邦政府全体のThe Federal Data and Digital Maturity Index Surveyを実施しています。混ざす目標との距離はまだまだあります。
さらに2024年に、日立が、技術よりのデータマチュリティの調査をしており、この結果からも米国のデータマチュリティの取り組みも道半ばなことが見て取れます。
オーストラリア政府
オーストラリアは、早くからデータマチュリティに着目した国の一つです。デジタル戦略The Data and Digital Government Strategyのミッションの「データとデジタル基盤の」中で以下の様に記述しています。
さらに、戦略の中にGrow APS maturityの章をもうけ、積極的に取り組みを進めています。
戦略の進捗を示す状況レポートでは、機会「Oppotunity」のセクションのトップに以下を挙げています。
さらに、「効果」のセクションで以下の様に記述しています。
この戦略を推進するため、財務省がData Maturity Assessment Toolを提供しています。このアセスメントの効果は多岐にわたり、以下の様に整理されています。
そして成熟度の測定は、以下の7つのフォーカスエリアを設定しています。
Data Management – Strategy and Governance
Data Management – Architecture
Data Management – Operations
Data Management – Risk
Data Management – Quality, Reference and Metadata
Data Management – Integration
Data Analytics
英国政府
英国政府もデータマチュリティに積極的です。民間のData orchardの測定方法を参考に、CDDO(Central Data & Digital Office)がフレームワークを作り、政府全体にデータマチュリティのフレームワークとアセスメントを展開しています。
インド政府
住居・都市省が、スマートシティや行政機関のデータ活用の総合力を評価し成長していくために、2019年にData Maturity Assessment Frameworkの第一回調査が行われました。
都市やサービス全体でのマチュリティと、その重要部分であるデータマネジメントに対する調査で構成されています。
この調査は、2020年にCycle2が行われています。マチュリティモデルが簡素化され、都市やサービス全体に以下のピラーで調査が行われています。
その後も、民間と協力したデータマチュリティ調査を実施しています。
Data orchard
英国のデータ推進の民間団体Data Orchardは2017年にデータマチュリティのフレームワークを発表しています。これは、英国政府のデータマチュリティモデルの基礎になっています。
googleとデロイトのデータマチュリティ調査
Googleとデロイトが協力して、小売業向けのデータマチュリティ調査を提供しています。
データマチュリティの取り組みの今後
各国、政府が中心となり、データマチュリティのフレームワークを作り、そのアセスメントを進めているところです。この考え方は、政府機関向けに整理されていますが民間企業にもそのまま準用することができます。実際にデータマチュリティのコンサルを提供する企業も出てきています。
まだ、様々なデータマチュリティモデルが出てきたばかりですが、その結果を待つとともに、部分的に取り組めるのでぜひ試してみてください。
一方、日本国内のデータマチュリティの取り組みはどうかというと、デジタル庁の前身のIT戦略本部のころからデータマチュリティの考え方や取り組みは認識していたのですが調査にとどまってきました。
しかし、データ駆動社会が加速し、企業のあらゆる部署でデータが使われる今だからこそ、データマチュリティを本格的に検討する時期になってきたのではないでしょうか。
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