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映画・ドラマ・小説の感想

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観たり、読んだりした感想を書きます。
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#読書

読了後にある爽快感:小説「木挽町のあだ討ち」読書感想

 第169回直木三十五賞・第36回山本周五郎賞、受賞作。  オチはなんとなく知っていた(知りたくなかったのに、youtubeのある番組を見て知ってしまっていた💦)のだけど、最後までとても面白く読めました。というのも、芝居小屋の人々に話を聞いて回っているその人は一体誰なのか?という謎を知りたかったから。  オチ自体は、物語を読み進めていけば「もしかして、、、」と考えられるような構成になっていて、素敵だなと思った。  また、芝居小屋の人々がそれぞれ抱えている過去、心に抱えてい

小惑星テロス衝突直前のミステリー: 「此の世の果ての殺人」読書感想

 「此の世の果ての殺人」を読みました。第68回江戸川乱歩賞受賞作です。  私は犯人が誰かということを、割と早めに気付いてしまいました。が、物語がどうやって終わりを迎えるかという過程を楽しませてもらえたというのが正直な感想です。  とはいえ、作者の荒木さんは23歳のときにこの作品で乱歩賞を受賞されました。私が23歳だったころを振り返ると、彼女のような成果を上げるのは難しいと感じます。すごいです。  もうひとつ印象的だったのは、物語の終わり方でした。主人公がこの世の終わりに叶

一冊で多くの異世界を旅する:「遠い野ばらの村」読書感想

 誕生日に友人が贈ってくれた「遠いのばらの村」という童話の短編集を読みました。この本には九つの不思議な物語が収録されていて、どのお話も主人公が異世界と現実を行き来するか、主人公のもとで動物が話す物語が描かれています。楽しい世界である一方で、時には怖い、切ない、あるいは悲しい場面もあるのが特徴的だと思え、面白かったです。  友人が特にすすめてくれたのは、「初雪の降る日」という話でした。  小さな女の子が道に石けりの輪を見つけて遊んでいるうちに、雪を降らせる白ウサギたちによって

作家の晩年と人生哲学を探る:「死をポケットに入れて」ブコウスキー読書感想

 作家、チャールズ・ブコウスキーの「死をポケットに入れて」を読んだ。  ブコウスキーが亡くなったのは1994年3月9日。この作品は、1991年8月28日から1993年2月27日までの間に書かれた33日分の彼の日記である。しかし、実際は日記というよりもエッセイのようだと訳者あとがきには書かれている。確かに読んでいると、書くことについてやこれまでの人生について振り返っていたり、短編小説を読んでいるような面白いエピソードもいくつか書かれている。  文庫本としては、薄い230ペー

緻密さとエンタメ性と深淵が交錯する古典ミステリー:『グリーン家殺人事件』レビュー

 作家、中山七里先生がおさえておきたい古典ミステリー10選の中に選ばれた1冊「グリーン家殺人事件」を読んだのでレビューしたいと思う。  ちなみに、おさえておきたい古典ミステリー10選は、「中山七里のミステリーの書き方」(ポッドキャスト)の第一回で紹介されている。  「グリーン家殺人事件」は古典ミステリーとはいえ、読んでいて古臭さを感じさせない一作だった。  物語の舞台は、仲違いしている金持ち家族が住む館。そこで家族が一人ずつ殺されていく連続殺人が起こる。使用人も含めて、全

禁域の山で起こる謎と恐怖のエンタメ体験:バイオ・ホラー小説「ヨモツイクサ」レビュー

 バイオ・ホラー小説「ヨモツイクサ」(知念実希人 著)を読んだ。  フタを開けてみると、これはホラー、ミステリー、サスペンスの要素が融合した一冊だ。それぞれの要素が興奮と好奇心を刺激し続け、読めば読むほどこの物語の世界に引きずりこまれる。ホラーのエンタメ本を探している方にはぴったりの一冊だと思う。  今日はネタバレを避けて、「この小説のここが面白かった!」と感じた五つをご紹介。 kindleで読める無料お試し版もあります↓ ①怪奇現象の鍵を握る人物は誰かの謎  物語の