【VIOLET】感想

私は本来一回観ただけのものに感想をつけるのは超苦手だ。第一印象と何回か観たあとでは感じることが違うし、私は初見でものを見るのが苦手なのもある。
でも、今はそんなことも言ってられなくて、同じ舞台に何回も通うのは少々憚られるし、なによりVIOLETは三日間しかやらないし座席も半分、プラチナチケットだなぁとも思う。
とりあえず、この有難い機会に立ち会えたことを記録に残しておこうと思う。

実は当初の公演日程の時はチケット取らなかった。別の演目に鬼リピ予定だったし、仕事の都合もある。
なので、時期がずれたことで観ることができたのも縁だなとは思った。

VIOLETも縁が繋がる物語。
たまたま同じバスに居合わせた人たちが相互作用で変わる物語。

しかし、だ。
単純に出逢いは人を変えるハッピー♪で片付けて良い話なんだろうか?
私は見終わったあとに、この物語を理解するのはかなり難しいなと感じた。

簡単にあらすじを書くとこうだ。

父親のミスで顔に大きな傷をおったヴァイオレットが、現在医療では治せない傷も治せると信じてテレビ伝道師に会いに行く三日間の物語。
そのバスのなかで出会った人たちとの交流でヴァイオレットは変わる。

けっこう単純(笑)
単純なんだけど、なかなかに理解が難しい問題が詰め込まれていて、一回観ただけでは飲み込めないことも多い。

そして、おそらくこのコロナ禍のなかで上演時間が二時間休憩なし、ソーシャルディスタンス演出という制約があるなかで、描ききれなかったものもあるのではないかなぁとも思った。
テンポが良かったぶん、感情が流れていきやすい。

これは是非是非、完全版をいつか上演してほしいと願う。

それにしても、よくもこれだけの歌うまオバケさんがこの状況で集まれたなというくらいに、みんな歌の力が凄かった。
しかも、楽曲の複雑さが鬼レベル。
私なら入るタイミングさえわからないんじゃないだろうか。
カントリー調とかブルース調とか、旋律の面白い曲も多かった。
友人から教えてもらったのだが、完全版よりは数曲少ないらしい。飛ばした曲がどんなのだったかは気になるところ。

私が観た回のヴァイオレットは唯月ふうかちゃん。
メインのキャストはフリッツに吉原光夫さん、モンティに成河さん。
この三人が物語の軸。

今回、キャストのメイクが普通だった。
普通というのは、ヴァイオレットの傷メイクやフリッツの黒ぬりメイクをしていなかった。
なので事前にあらすじと登場人物は頭にいれておかないと、初めは混乱しちゃうかも。
少し前に演劇的ルッキズムの問題が話題になっていたが、あれは実際のところどうなのだろうと思っていたので、無しの状態を体験できたのは収穫。
役者が上手ければ気にならないし、むしろメイクがなくてもそう見えてくるもんだなと思った。
もちろん、メイク以外の身体特徴が作用しているのもあると思うんだけど。光夫さんのあのデカさとか。
フリッツがバスに乗り込んできたときに、島田歌穂さん演じる品の良さそうな老婦人のフリッツの避け方とかでもわかるようにはなっていた。

ふうかちゃんは元々のお顔が可愛いのだけど、あまりの拗れ具合に、段々と顔まで醜く見えるようになる。
一生消えない傷をおった年頃の女の子だから気持ちはわからなくもないが、とにかくヴァイオレットの痛々しさが酷い。
鬱屈した思いが、わりとブーメランとなって自分に戻ってきていることに気づかない。
でも、気づかないんだなぁと思える私は、本当に痛い傷を受けたことがないからそう思えるのであって、本当の痛みを持つ人の心の底からの叫びをちゃんと聞き取れる力がないのかなぁとも思ったりするのだ。
結局、それは同じ目線じゃなくて上から見てしまっているのかもしれない。

ヴァイオレットが会いに行くのは胡散臭い"テレビ伝道師"というやつで、畠中さんがまたとてもぴったりすぎて笑っちゃうくらいだったのだけど、私は元々この"誰かを救うことを商売にしている輩"が大嫌いで、そこに救いを求める人の気持ちが全く理解できないのだ。
なんでこんなのに騙されるんだろうかと謎でしかない。
しかし、これも、私の悩みは私が頑張ればある程度解決できるレベルのものしか体験したことがなくて、奇跡に頼るしかないほどの大きな悩みがないからかもしれない。
たぶん、私はそれなりに恵まれているのだろう。

旅をするなかで黒人兵士のフリッツも白人兵士のモンティもヴァイオレットに牽かれ始めるんだけど、正直この辺りの心情の変化が私にはわかりにくかった。恋愛脳弱め(笑)
ただね、吉原光夫さん演じるフリッツがそりゃあもういい男に見えてくるんですよ。あの歌声だし。
私、今はあんまり泣かないようにしてるんですが(涙拭くのに顔をさわらなきゃいけないの、なるべく減らそうと思って)、フリッツの歌には泣きましたね。
包み込むような大きな温もり、あれはすごかったな。

劇中ヴァイオレットが何回か、ただひとつの愛が欲しい(的なこと)を言うのですが、それは元々は亡くなったパパのことで、パパは娘に傷を追わせた負目からヴァイオレットを直視しないし、ヴァイオレットはそこに距離を感じるしで上手くいってない関係だったんだけど、パパは不器用なだけでちゃんとヴァイオレットのことは愛してたんですよね。
それに気付けたことが、ヴァイオレットの自己肯定に繋がったと思うのだけど、この辺りも少し駆け足でわかりにくかったのはちょっと残念。
この不器用なパパを演じていたspiくんの繊細な感じがめちゃ良かった。

あと、結局モンティはなんだったのか?っていう問題(苦笑) 遊び半分が本気になったのだろうけど、ヴァイオレットの振り方が酷いだろって思っちゃうんですよね~。
結局、ヴァイオレットは自分のコンプレックスを棚にあげて、姿の良いモンティに好かれた自分の承認欲求のための人物ならかわいそうだなぁと思うんだけど、ここも一回観ただけじゃ噛み砕けなかった部分。
で、私がモンティ何やったん???と思っている間にエンディングきて大団円って感じだったので、少々モヤモヤは残らなくもないです。

っていうか、この演目はきっと"するめ舞台"ですよね。何回か観て味わいたいやつ。
五公演しかないの無理だわ。
もう一回いうけど、完全版で再演希望です。

素晴らしい舞台だったと思うのと同時に受け止めきれてない自分もいて、そこは私が"本物の傷をもつ人"への理解が乏しいのかなぁと思ったり、でも安易にわかるような気持ちになること自体が相手には実はとても失礼なことなのかもしれないし、自分の傷との向き合い方もだけど、他人の傷との向き合い方を考えさせられることになりました。
正直なことをもうしますと、私はそんなにできた人間ではないので、もし大きな傷のある女の子が目の前に現れたら、一瞬もギョッしないで普通に接することが出来るかっていう自信がない。
もちろんあからさまな悪意をぶつけるほどのバカではないですが、その小さな積み重ねも相手には大きな重荷になっていくかもしれない。
誰も傷つけないってのは、実は傲慢な考えなのかもなと思わなくもない。
他者への善意とか優しさって難しい、難しいことを忘れたら押し付けになるのかもしれない。

印象的だったのがカーテンコール。
客席の拍手がすごかった。板の上の気迫も凄かったけど、客席の気迫も尋常じゃないレベルでした。
そりゃこちらも気合はいってますから(笑)

そんな客席を演者のみなさんが嬉しそうに眺めていて、舞台の上と下が繋がった瞬間だったと思います。
これがあるから劇場に行くことをやめられないのかも。
一席空きでマスク姿の観客が並ぶ客席ってどんな風に見えてるんでしょうね。

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