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日経スペシャル「ガイアの夜明け」をご覧いただいた皆さまへ

4月19日(金)に放送された、「ガイアの夜明け」をご覧いただいたみなさま、誠にありがとうございます。

街の小さな銭湯の大きすぎる挑戦が、ガイアの夜明けという、これまた大きな番組に取り上げていただくという事実に、この半年間ずっと緊張が解けませんでした。多くの方にご覧いただき、応援のメッセージをいただき、本当に嬉しく、安堵の気持ちでいっぱいです。

昨日は、小杉湯原宿のスタッフみんなで放送を見ました。

終始ドキドキが止まらず、放送中は何度もXで「小杉湯」と検索してしまったり、見ているみんなの顔色を見てしまったり、とにかく、こんなにソワソワしたのは初めてでした。恐縮ながら、8年前に小杉湯を引き継いで以来、関わってくださる皆さんのお力もあり、たくさんのメディアに小杉湯・小杉湯関係者を取材いただきました。

ただ、今回の放送は、前例のないほど緊張と不安が入り混じるものでした。無事に放送が終わり、撮影・取材にご協力いただいた皆様への御礼、そしてこれまでとこれからの小杉湯・小杉湯原宿を共に作ってくださる方へのメッセージをしたためたく、筆を取りました。少し長くなりますが、ぜひご覧いただけると嬉しいです。

拝啓、東急不動産の奥くんへ


小杉湯原宿の話は、東急不動産の若手社員が小杉湯まで来てくれた日から始まります。従来型の商業施設が苦戦を強いられ、同時にコロナ禍が訪れ、このままではハラカドの成功も難しいという壁にぶつかった結果、真新しい商業施設のコンセプトが作られました。

非日常な商業施設にわざわざ足を運び、何かものを買うというトレンドは当面(もしかすると2度と)、戻ってこないかもしれません。その中で、非日常のわざわざ訪れる場所ではなく、「日常的に足を運びたくなる、暮らしに根ざした商業施設」を作ろうという動きが生まれました。

かつて原宿は、多くの文化人が昼夜問わず働き、まるで”棲みつくように”過ごした場所です。このハラカドも、「多くの人が毎日を過ごし、そこに文化が生まれるからこそ、消費につながるような場所」になれば、商業施設としての課題を打破できるのではないかと考えられました。その日常の代名詞として「地下に銭湯を作る」というアイディアが生まれたのです。

そして、大切な方からの紹介をきっかけに、東急不動産の奥くんと出会うことになります。奥くんというのは、東急不動産の20代社員で、彼がいなければ小杉湯原宿は企画書のまま散っていたかもしれません。少なからず、僕は彼と出会ったから、この企画書を現実のものにしたいと本気になったんです。

企画が走り始めた初期は、奥くんと何度も対話を繰り返し、社内の稟議資料を共に作り、同志のように電話で語り合い、気づけば少しずつ「商業施設の地下1階に銭湯を作る」ことが、現実のものになり始めました。

膨大な建築費、無謀なタイムスケジュール、設計の制約。思い返せば、諦める理由なんて、何百個もあったと思います。「文化」といえば高尚でもっともらしく聞こえますが、銭湯が十分に持続可能なモデルかといえば、少なからず小杉湯は違います。建築費がこれだけ高騰している時期に、作る予定では無かった場所に銭湯を作る。投資に対してリターンが見合わないのは誰でもわかることでした。

・銭湯の隣にイベントスペースを作り、1ヶ月⚪︎万で販売する
・企業のプロモーションに銭湯を貸し出し、1回⚪︎万で販売する

なんとか経済性を成り立たせようと出てくる案は、いつも「銭湯が消耗されている」と感じられ、文化を守るのではなく、文化を消費して短期的な収益を生み出すモデルとしか思えず、奥くんたちとぶつかった日も数えきれないほどありました。

契約を辞めようと思った時もありました。


だけど、奥くんも、関わってくれる東急不動産の社員の皆さんも、他のテナントの皆さんも、小杉湯という街の小さな銭湯に何度も何度も時間を割いてくださり、僕が見ている「小杉湯」以上の「文化」「日常」の豊かさを街に残すために、奮闘してくれました。

開業半年前にようやくビジネスモデルのたたきが出来上がり、暗中模索の長い長い3年間を経て、無事に小杉湯原宿は現実のものとなりました。

何が言いたいかといえば、僕はテレビに映っていたほど経営者として全く立派ではないし、あらゆる意思決定が重たく、苦しかったです。本音を言えば、何度も心が折れてたと思います。業界に大手を振って応援される取り組みでもないだろうし、今までにないビジネスモデルを作ることも得意ではない。テナントとして入居するなんてもちろん初めて。真っ暗闇を走り続けた感覚です。

そんな3年間をやり抜けたのは、間違いなく、奥くんの存在があって、東急不動産の社員さんがいて、小杉湯原宿のプロジェクトを支えてくれる全ての人がいたからだと本気で思っています。

身の丈に合わない挑戦を支えてくれたこと、挑戦して良かったと胸を張って言える機会をくれたこと、心から感謝しています。この場所が生まれたことで、小杉湯の価値に改めて気づき、次の100年も続くビジネスモデルが作れる光が見えました。

流行らず、日常に馴染む場所を作りたい


小杉湯原宿は、分かりやすい派手な企画も、フォトスポットも、何もなく開業することを決めました。

原宿のど真ん中に銭湯を作る。
キャッチーで注目を集めやすい取り組みだからこそ、短期的に消費されることなく、長く長く続く場所を作ろうと思いました。

施設の制約と制限がとても多い中での設計だったため、最大限に広さを取っても、男女それぞれ9席ずつしかない小さな銭湯になったこともあり、開業直後の波と、話題性で、3時間待ちや整理券待ちの列ができてしまう可能性がありました。

一度でも「3時間待ち」になれば、もうそこは街の銭湯だと誰もみなしません。混雑したらどうするか、ではなく、混まない場所を作らなければいけないと思いました。また、小杉湯が作りたかったのはスーパー銭湯ではなく、街の銭湯です。街に根ざした場所だからこそ、神宮前の街で過ごす皆様と土台を作ることにしました。

そして、混雑防止以外でも、今回は短期間でオープンを迎えたため、まだ工事が残っており、営業時間と人数を絞らざるを得なかった面も大きいです。開業と同時に、全ての人に開放できないことを心苦しく思っています。

ただ、誰にも閉じない銭湯を作るために。

街の銭湯らしい規模で、穏やかな地下1階を守れるように。少し時間はかかりますが、もうしばらく一般開放をお待ちいただけますと幸いです。

開業して数日が経ちました


「高円寺みたいに上手くいくわけない」

この言葉を何度も何度も言われました。
そうだな、と思うし、苦しかったです。

高円寺ほど、住宅街でもないし、銭湯というカルチャーが馴染む場所な気もしない。若い人でごった返すか、インバウンド向けのSENTOになるんじゃないか。そんな場所はそんな場所で素敵だけど、小杉湯がこの場所に作りたかった(作らなければいけなかった)場所とは、かけ離れてしまう。

期待よりも不安が大きかったです。

4月17日(水)11時、小杉湯原宿プレオープン


ずっと待ちわびてくださった地域の皆様が、お風呂道具を持ってサンダルで来てくれる。家族連れで、お子さんの銭湯デビューを迎えてくれる。お風呂上がりに「いいお湯だった」と言ってくれる。お風呂の後、牛乳を飲んでほかほかした顔でボ〜っとしている。

豊かで穏やかで、そこには小杉湯のような風景が広がっていました。

びっくりしました。
あんなに思い描いて、願った風景が、こんなにもすぐに見れるなんて思わなかったんです。だから嬉しさよりも驚きが大きく、この場所が奇跡の均衡で成り立っていて、何がなんでも守り抜きたいという強い信念を持ちました。

小杉湯原宿を中心とする151坪のフロアは、「チカイチ」と名付けています。この「チカイチ」には、こだわってない箇所がないと断言できるほど、随所まで思いを込めています。

大切にしたことは、チカイチ来る人を絞らないこと。
お風呂に入る人も入らない人も。
仕事しにくる人も休みに来る人も。
一人でも友達と一緒でも。
どんな人も、どんな時でも受け入れられる場所を作りました。

その分だけ、起きる風景に予想がつかなかったのですが、こうなれば嬉しいなと思う優しい出来事ばかりが起きて、信じたものは間違ってなかったと、本当に嬉しい気持ちでいっぱいです。

設計、開発に関わってくださった皆様、何より顧問設計士「T/H」さん。いつも本当にありがとうございます。本当大切に大切に、この場所を育てていきます。

終わらない旅路が始まった


僕はこれまで、「銭湯文化」「日本文化」だなんて、「文化」を考えたことも、語りたいと思ったこともありません。

それは、大きな文化というものを見据えて何か取り組みしてきたわけではなく、両親が楽しそうに働いていた小杉湯を引き継がなければならず、それを4代目に引き継ぎたいという思いだけでやってきたからです。

ただひたすらに毎日営業することと。目の前にいるお客さんを思って場を作ること。その積み上げが、気づけば豊かな場所と時間につながりました。

小杉湯原宿は、木曜日を除き、毎日朝7時から23時まで営業しています。仕込み作業は朝4時から。締め作業は夜2時まで。22時間にわたる長い営業を、多くのスタッフによって支えてもらっています。

1年目の小杉湯原宿の目標はありません。まずは10年後まで毎日営業を続けること、やめないこと。その先の10年で、次の風景を作ることが目標です。

何十年と営みを続けている全てのお店に心からの敬意を込めて。
小杉湯原宿は開業しました。

末長く応援いただけると嬉しいです。
これからどうぞ、よろしくお願いいたします。

小杉湯三代目
平松佑介

小杉湯原宿

■「プレオープン期間」概要
期間:2024年4月17日(水)〜5月12日(日)
営業時間:7:00~12:00、18:00~23:00
ご入浴いただけるお客様:渋谷区神宮前1丁目〜6丁目エリアにお住まいの方、または、勤務地のある方

■「グランドオープン」概要
期間:2024年5月13日(月)以降
営業時間:7:00~23:00
ご入浴いただけるお客様:プレオープン期間の混雑状況を踏まえ、方針を決定いたします。

■入浴料金(税込)
大人520円 [12才以上]
中人200円[6才以上12才未満(小学生)] 
小人100円[6才未満(未就学児)]

WEB:https://kosugiyu-harajuku.jp/
公式X(旧:Twitter):https://twitter.com/kosugiyu_hrjk/
公式Instagram:https://www.instagram.com/kosugiyu_harajuku


写真:アベトモユキ

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