見出し画像

夏休み!今のうちに予習をしておこう。インボイス「後」の電子帳簿保存法など

 昨年よりインボイスセミナーの講師を都内各地でさせていただいていますが、2023年8月の直前期になりましても、事業者の方にとって準備状況は十人十色。ただ増加傾向なのがインボイス「後」の電子帳簿保存法への関心だと感じています。
 そこで「予習」的に電子帳簿保存法やデジタル領域についてnote記事にまとめてみました。インボイスの「後」を知る・・・ためにもぜひ最後まで読んでいただけますと嬉しいです。


1.電子帳簿保存法に入る前に、ざっくりデジタル領域の説明

1-1.インボイス後の税制改正も気を抜けない!

 2023年10月1日からの消費税法改正による、インボイス制度の導入。このインボイス制度のインパクトが強すぎて、後に控えている電子帳簿保存法の改正や電子インボイス等、DXまで見据えた「デジタル化」対応が霞んで見えますが、実は相当厄介です。デジタル領域含め広く見ていきましょう。

図①:何かと話題になる、2023年10月からのインボイス制度ですが・・・。
図②:実は、2023年10月のインボイス「後」のデジタル対応が相当厄介です。

1-2.デジタル用語の説明。デジタイゼーションとデジタライゼーションは全く違う!目指すのはどちら?

 翻訳するといずれも「デジタル化」。でも両者は大きく異なります。

デジタイゼーション (Digitization):単なる電子化。例えば、紙の請求書を「デジタル化」すること。
デジタライゼーション (Digitalization):その意味合いの幅は広く、「デジタル処理」を前提とした業務処理、データの利活用。例えば、請求書データをファイルに出力することなく債権処理や財務処理に連動させること。

デジタイゼーション (Digitization)とデジタライゼーション (Digitalization)
図③:デジタイゼーションとデジタライゼーションは全く違います。

 より進んだデジタライゼーション (Digitalization)。それは「個別」が対象ですが、もっと進化したDX(デジタルトランスフォーメーション:Digital Transformation)「組織横断/全体」が対象になります。最終的に、日本の国や自治体全体がデータでつながるのが、いわゆるDXの構想になります。

1-3.勉強不足のITベンダーのセールスに要注意!

 例えば、紙の請求書を「デジタル化」する、単なる電子化しかしていないのに勘違いして「DXしています!」という業者をご覧になられたことがあるのでは・・・要注意ですよね!

図④:勉強不足のITベンダーのセールスに要注意!

1-4.凡例紹介(法令等の略称について)

 以降、法律系”風”にインボイス制度後の「電子帳簿保存法」の改正などを紹介していきますが、それっぽく法令等の略称の説明をしていきます。次に掲げる法令等を引用し、カッコ書き()の番号は各税目の条文になります。(例:消費税法第32条第1項第1号=消法32①一)

・消法・・・消費税法
・消令・・・消費税法施行令
・消規・・・消費税法施行規則
・消基通・・・消費税基本通達
・電帳法・・・電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律
・電規・・・電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律施行規則
・電基通・・・電子帳簿保存法取扱通達
・インボイス通達・・・消費税の仕入税額控除制度における適格請求書等保存方式に関する取扱通達の設定について 他

【凡例紹介(法令等の略称)】

2.電子帳簿保存法改正の背景とは

2-1.電子帳簿保存法改正をざっくり解説

 実務内容に入っていきます。書店で目を引く『電子帳簿保存法』の解説本。これはシステム運用の話に広がり、大ボリュームの法律解説・・・いったい何がポイントか掴みにくいのでは?そこで図解を用いて、入門部分のポイントを簡潔に解説していきます。
 まず結論ですが、2024年1月1日より全事業者は、電子取引を紙で保存できなくなります!しかも単に紙をスキャナで取り込んでデータ化してもダメで、データ保存の検索要件が必要になります。

図⑤:2024年1月1日より全事業者は、電子取引を紙で保存できなくなります!

 次に、電子帳簿保存法の改正の経緯を見てまいりましょう。令和3年度税制改正により、2022年1月1日以降に授受した電子取引データの保存について、紙出力が認められない予定でした(電規4③)。
 しかし実務上の大混乱が予想され、令和4年度税制改正により、2年間の宥恕措置が整備されました(電規4③読み替え等)。つまり2年間延期になった訳です。よって、この2022年1月~2023年12月の2年間の間に、宥恕規定における「やむを得ない事情」を規定することで、改正電子帳簿保存法の対応準備が必須となりました(電通達7-10)。

図⑥:2022年1月~2023年12月の2年間の間に改正電子帳簿保存法の対応準備が必須です。

 では電子帳簿保存法の改正によって、どのような影響を受けるのでしょうか?ココが一番大切です。

2-2.電子帳簿保存法の概要。電子取引のみが義務化されます

 電子帳簿保存法の区分について見ていきましょう。①~③の区分に分けられ、全ての事業者にとって義務化されるのは「③電子取引」のみです。①と②は義務化ではないということですね。
①電子帳簿保存:電子的に作成した帳簿・書類をデータのまま保存(電帳法4①、電規2①
②スキャナ保存:紙で受領・作成した書類を画像データで保存(電帳法4③
③電子取引:電子的に授受した取引情報をデータで保存(電帳法7

図⑦:電帳法の各制度の適用で、強制適用は「③電子取引」のみです。

2-3.電子取引とは?(電帳法2①五、電通達2-2)

 ところで「電子取引」とは何でしょうか?この判別ノウハウは経理実務担当者にとって実務運用上、様々なケースを経験して蓄積するしかないですよね。ただ外せないポイントがあります。

「紙を媒介する取引か否か?」

 つまり、紙を媒介しない取引のみが「電子取引」に該当し、紙を媒介する場合は電子取引ではない、つまり「電子取引保存義務は無い」ということです。

図⑧:電子取引の判別は「紙を媒介するか否か」を判断基準にします。

 では、電子取引の判別の簡単なテストをしてみましょう。コンビニで買い物し、代金決済を交通系ICカードで行った場合を見てみましょう。この場合は、電子取引に該当するでしょうか?
「”電子決済”と呼ばれているので、電子取引ではないかなぁ・・・。」
「ハズレ!!代金決済を交通系ICカードで行った場合でも、明細は紙で出てきて、店員さんから渡されますよね。よって、電子取引にはなりません。」(電通達2-2、一問一答(電子取引)問4

図⑨:交通系ICカード決済でも「紙が出る」限りは、電子取引になりません。

3.難しいけど結構大事!「電子取引の保存2要件」とは?

 これから「電子取引の保存2要件」の細かい資料を見ていく前に、用語の意味をイメージしていきましょう。まず所得税(源泉徴収に係る所得税を除く。)及び法人税に係る保存義務者は、次の2つの要件(真実性の要件可視性の要件)を電子取引は満たさなければなりません(電規4①)。
 ん?下図⑩で、消費税・所得税・法人税を横並びで見ますと、消費税だけ泣き別れています。そうです。電子取引の取引情報に係る義務は所得税(源泉徴収に係る所得税を除く。)及び法人税に係る保存義務者のみに掛かってきます(電帳法7)。

図⑩:電子データによる保存方法。消費税のみ書面保存OKと泣き別れています。

 では電子取引の保存要件を見ていきましょう。
真実性の要件:データ改ざんの恐れがないか?(電規4①一~四
可視性の要件:誰もが確認できるデータか?(電規4①柱書、電規2等

図⑪:所得税(源泉徴収に係る所得税を除く。)及び法人税に係る保存義務者の保存2要件。

3-1.真実性の要件とは?(電規4①一~四)

 真実性を確保するためには、①~④項目のうちいずれか1つをクリアする必要があります(電規4①各号)。①取引先(送信者)にタイムスタンプを付与してもらう(電規4①一)。②自社(受信者)でタイムスタンプを付与する(電規4①二)。③記録の訂正、削除をした場合に履歴が残るシステムで保管する(電規4①三)。④自社独自の事務処理規程を定め、その規程に沿った運用を行う(電規4①四)、とされています。
 上の①~③はタイムスタンプ等の装置が必要で、システム導入による対応になり(電規4①一~三)、システム導入によらない場合は、④の訂正削除の防止に関する規定を作成する方法(規定作成)が考えられます(電規4①四)。

図⑫:電子取引データの保存に際し「真実性の要件」を満たすため、改ざん防止措置が必要です。

3-2.可視性の要件とは?(電規4①柱書、電規2等)

 可視性の要件(電規4①柱書、電規2等)とは、誰もが確認できる要件をいいます。見読可能性ということで、整然とした形式、明瞭な状態でデータが格納され、速やかにプリントアウト出来る状態のことをいいます。具体的には電通達4-6(システム概要書の備付)電通達4-7(見読可能装置等の備付等)電通達4-14(検査機能の確保)等があります。
 ちなみにこの検査機能の確保の要件ですが、当初の規定では保存義務者が、その判定期間に係る基準期間における売上高が1,000万円以下である場合であって、税務職員の質問検査権に基づく電子的記録のダウンロードの求めに応じることができるようにしているときは、この可視性の要件(電規4①柱書、電規2等)全てが不要としていました。
 さらに令和5年税制改正において、2024年1月1日以後に行う電子取引については、「その判定期間に係る基準期間における売上高が5,000万円以下である事業者」に範囲が拡大されました。つまり実務上の負担を考慮して、規定が緩くなっています。

 なお検索対象となる記録項目の要件も満たす必要があります。

 ①取引年月日 ②取引金額 ③取引先

図⑬:可視性の要件は、税務職員の質問検査権と大きく関わってきます。

 可視性の要件を満たすには、何か特別なシステム導入が必要になるのでしょうか?通常、パソコンのWindowsのフォルダ管理機能でも対応可能です。フォルダを階層ごとに管理し、例えば、第1階層に年月別、第2階層に取引先別のフォルダを準備し、各ファイル名に金額を付けてフォルダ管理することで、検索操作で探したいファイルに辿り着けるということです(検索対象となる記録項目:電通達4-34)。

図⑭:検索対象となる記録項目につき、何か特別なシステム投資が必要という訳ではありません。

4.電子インボイスの仕組み

4-1.電子インボイスの導入部分をざっくり解説

 2023年10月から始まるインボイス制度において、インボイスの保存(消法30⑨、消令50①)はデジタルで保存することが出来ます(スキャナ保存:電帳法4③)。これらデジタル保存の仕組みの一部を標準化したものが「デジタルインボイス」になります。そしてデジタル技術上、デジタルインボイスを実現可能にさせる標準仕様をペポル(Peppol)と呼ばれています。また仕入税額控除するための要件(電子インボイスの保存:消規15の5)となっています。
 
 デジタル庁の説明資料によりますとペポル(Peppol:Pan European Public Procurement Online)とは、電子文書をネットワーク上でやり取りするための「文書仕様」「運用ルール」「ネットワーク」のグローバルな標準仕様と説明されています。電子メールを引き合いに説明します。
 
 まず、電子メールの仕組みを見ていきます。新しいスマホを購入したとか、メールアドレスが変わった場合にしなければいけないのが、メールソフト(メールアプリ)のアカウント設定です。その時に出てくるのが、SMTPとPOP。この2つの用語の意味が分かれば、電子メールの仕組みも、イメージが付くのではないでしょうか。下図⑮で「擬人化」してみました。

図⑮:SMTPとPOPで電子メールの仕組みを見ていきます。

・SMTP(Simple Mail Transfer Protocol):メールを送信する仕組み。
・POP(Post Office Protocol):メールを受信する仕組み。

【SMTPとPOPの説明】

 次に、電子メールの仕組みを電子インボイス≒デジタルインボイス(※)にあてはめて見ましょう。下図⑯のマトリックス図をご覧ください。
※・・・「電子インボイス」と「デジタルインボイス」は厳密には異なりますが、いったんは同義と捉えて読み進めていただければと思います。

図⑯:電子メールと電子インボイスを比較することで、ざっくりイメージが掴めるのでは。

 第1に、電子メールのフォーマットは標準化されています。つまり「件名」「差出人」「宛先」「本文」など必要な構造が標準化されていれば、電子メールを送受信することが出来るということです。同様に電子インボイスも、ペポル(Peppol)と呼ばれる国際標準仕様で標準化されていれば、電子インボイスのやり取りが出来るということです。厳密には、日本向けは一部修正され「JP PINT」といわれています。
 第2に、電子メールのSMTPとPOPのメールサーバの働きに似た動きを、電子インボイスでは「アクセスポイント」を使って行われます。

 電子メールとの相違が分かったところで、改めて「デジタルインボイス」を実現するペポル(Peppol)を見ていきましょう。下図⑰では、ペポル(Peppol)は「売主」「売主のアクセスポイント」「買主」「買主のアクセスポイント」「4コーナモデル」と呼ばれる仕組みを採用し、売主と買主は各々のインターフェース(パソコン等の操作画面)を見ながら処理可能で、無理のない業務運用が出来るわけです。
 なお電子インボイスのやり取りは、電帳法の電子取引(電磁的記録:電帳法2三)と同じ内容になります(消法30⑦⑨)。

図⑰:ペポル(Peppol)は売主・売主のアクセスポイント・買主・買主のアクセスポイントと「4コーナモデル」を採用しています。

※補足(電子インボイス・デジタルインボイス)と参考文献

 やや細かいですが、「電子インボイス」と「デジタルインボイス」は厳密には異なります。
 消費税法で規定されているのが電子化されたインボイスということで「電子インボイス」と呼ばれます(消法30⑦)。これに対して、デジタル庁などが推進しているインボイスを「デジタルインボイス」といい、「標準化され構造化された電子インボイス」のことです。すなわち「電子インボイス」のうち、ペポル(Peppol)を基礎に日本で標準化(「JP PINT」で標準化)されたインボイスを「デジタルインボイス」と呼ぶのが一般的になりつつあります。
 つまり「電子インボイス」の一部が「標準化・構造化」され「デジタルインボイス」と呼ばれるということですね。

【参考文献】
このnote記事の参考文献は以下の通りです。
・酒井克彦『税理士のための税務調査・電子帳簿保存法ガイドブック』税務経理協会、2023年5月。
・税理士法人山田&パートナーズ『改正電子帳簿保存法ハンドブック』大蔵財務協会、2022年5月。

<以上となります。最後まで読んで頂き、ありがとうございました。>

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?