米新政権 戦後の復興へ (簡易版)

(サマリー)                            今週誕生する新政権は、まず内政から。数千万人が命を落とし、2000万人が食い扶持を失った新型コロナ感染という歴史的一大事から早く復興すべき大規模な政策を打ち出し、新常態の時代の基礎作りをする。そこには米国民の(イデオロギーの多様性とは別の)再団結を促し、そして自由主義国家群の再団結を念頭にした外交を進めようとする、そういう順序になるのではなかろうか。もちろん、自国内にも様々な思惑が残り全体一致というわけにないかない。ただ、ドナルドトランプと感染症によって痛手を負った国の現在は、皮肉にも新政権にとって好ましい再建スタートのタイミングになかろうか。建国の歴史が短いけれど世界で最も柔軟で力のある民主主義国への期待も込めてそう記しておきたい。


1月6日、米連邦議会の内外でトランプ支持者と言われる人々がデモ、乱入、暴力、そして参加者の死亡をもたらしたことは確かに民主主義の冒涜で、米国が大きな恥をかいたことになる。それを事実上扇動したのが現職大統領である一方で、副大統領、共和党議員、そして司法に関わる多くの有力者が「即座に」暴動を止めさせ、新大統領を認め、閣僚は辞表を出し、ひいてはボスの解任に向け行動を起こしたことで、筆者はアメリカ合衆国の自浄作用の強さを再認識した。今日の最速の声明発表手段であるSNSを通じ、他多くの外国首脳がトランプと暴徒に対する最大級の非難声明を出したことは、民主主義社会にとっては朗報と認識して良いと思う。トランプも同日中に選挙敗北を認めるに至った。                       2017年からトランプ「大統領」の下で「働いている」行政官僚も共和党議員・閣僚も、75百万票取った事実の咀嚼途上にいた。ところが、ボスの就任期間中にはほぼ忠実に従っていた彼らもようやく①共和党というチームの尊重と②個人個人の国に対する忠誠を選んだことでトランプ(彼が以前もこれからも議員でないことは重要)という人間を切ったと考えれば、これもアメリカ合衆国の真の強さと価値の確認であったと評価したいと思っている。そして11月以降、民主主義国における合衆国憲法の設計の正当性を再三見ることが出来た。大統領の任期内解任が実現するかは不明だが、その手続きが「修正25条」としてきちんと存在していることも久々に思い出させてもらった。                                今後、ドナルドトランプという元大統領・個人の存在に熱狂的に賭ける人々は確実に減りはせよ、増えることはないだろう。産業界や学界、軍隊や州政府に至るまで、「大統領がトランプでなければ厳しい」という観念はそもそも無かったし、これからも生まれもしないのではないか。        これからも、1月6日の暴動扇動をしたトランプには想像を超える代償が求められるはずだ。アメリカをなめるべきではない。            そして、「成果がなかった」オバマ、直感と議会無視で多くの秩序を破壊したトランプの後に大統領となるジョーバイデンのチームが彼の言う「build back better」を着実に推進することが出来れば、共和党は共和党が信ずる社会思想と社会構造で固まる政党として引き続き使命を果たすものの、トランプ自体は歴史上の一人の登場人物として消えていくかもしれない。では、チーム・バイデンに課された仕事は一体何だろうか。

以前のレポートでは、合衆国の強さのひとつを「国をみんなで発展させ続けている」とし、ひとつの現象として政治、学界、民間企業の間で人材が自由に移動していることとした。 今回も新大統領チームのため、ひいては自国のために様々な識者やシンクタンク、或いは大学が政策提言をしていて、更に具体策に長けていることには深く感銘する。            Covidのパンデミックにおいて先進国最悪の感染症対策・経過・死者数を誇る米国民はいないだろうが、ここからの再生(build back better)にも過去の検証がきちんと出来ていて議会でも恐らく揉めないはずだ。おおよそで表現すると以下の3点であろう。                               (A)パンデミック初期の経済対策(Cares法)は相応にすべての階層の国民を救済した。対策は大規模で、しかも迅速でないとNGだというのは2008年の金融危機時の学習効果である。                              (B)金利を低位に抑えている状況下では、今後も救済が途切れないように「何度も長く」やり続ける。                    (C)雇用を戻すために効率の良い方策を進める             例①雇用対策は州政府・地方政府主導のほうが早くて柔軟という検証あり、例②失業手当給付に際しては再就職のモチベーションが上がるように制度設計する、                              例③(労働産業構造が変化しているため、立ち直りが困難な業種からの)職業を替えることを推進するための受け皿を作り、且つ経済回復に相乗効果を出す、などだ。                           実際、支援の額は失業率低下に沿って、あるいは景気回復度に少なくしていくことは、懸念される歳入不足対策としても合理的だし、州ごとに失業率とメディケードの補助金を連動させるなど機動的で効果的なセーフティネット支出が出来るのではないだろうか?                  外交については別途で書こうと思うが、新政権はまず内政からだ。まずはコロナ感染の鎮静化、コロナ禍で失業した2100万人中まだ労働に復帰出来ていない900万人の就業への仕掛け作り、そしてイノベーションの更なる活用を促す法律や規制の整備を通じて国民の自信とAffordabilityを上げようと努めるのではないだろうか。医療保険やフードバンク、デジタル難民支援などセーフティネット強化は民主党の十八番であるし、必要以上に格差拡大や人種問題が取りだたされたトランプ時代の後継として新政権が取り組まなければならない難問ではあるものの、バイデン政権は向こう1-2年間は、民主党色を過剰に出して議会での共和党との軋轢を生まないような温度を好むかもしれない。そして、これも時代のタイミングとして、だが、Build Back Betterのアメリカが世界中の自由主義国によって「望ましい」と歓迎されるであろうことは大きいはずだ。共和党員・議員としての思想やイデオロギーを保ちながらも、共和党議員が「良い国」作りに貢献すること自体に反旗を翻すのは難しいだろう。しばらくは大丈夫であろう、を予測シナリオの真ん中に置こうと思う。

(上記は細かい因果関係や根拠等の記述を省いた簡易版ですので知識層諸氏の物足りなさについてはご了承の上、個別にお問い合わせ下さますようお願い申し上げます。)



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