「いじめられている」と言ったら、先生、学校はどう動くの?学校の対応をオープンに

私の32年の都立高校教員人生で忘れられないのは、ある土曜日でのことです。1年生から担任が3年間持ち上がりの学校で、2年生の夏休み明けの9月初旬のことです。9月最初の授業で自分の担任しているクラスには「夏休みの思い出」という題で作文をしてもらいました。授業終了と同時に400字詰め原稿用紙を後ろから集めてもらいました。集めた作文を職員室で読みました。友人と遊びに行ったこと、バイトでのこと等がありましたが、1枚だけ頭を傾げた作文がありました。内容がわからないのです。どうも何かが自分に襲いかかってくる、それを誰かが見ていると言うようなことが書いてあるようでした。後でほかの先生にこの作文を読んでもらったところ「この内容でいじめがあるとは俺は読み取れないよ」と言ってました。

まだ土曜日の授業があった頃です。天気のいい晴れ渡った日で、校庭からは部活動の声が聞こえてきました。職員室では落ち着かないので空き教室の隅で二人で話しました。

「夏休みどうだった、面白かった」と話しかけました。彼は話し出しました。目立たない生徒で、成績も中ぐらい、部活動も入ってない帰宅部の生徒です。最初に彼が話した夏休みでの内容はもう忘れました。しかし打ち解けてきたかなと思った頃に「この作文だけど、よくわからないんだけど、何か嫌なことでもあるの?」と聞いてみました。こちらの正面を向いてこずに、斜めに座っていた彼が窓の外を見つめ黙った。

「大丈夫か?」「大丈夫ですよ」「なんかあるんじゃないか」「いえ何もありませんよ」「そうか」ここで終わっていたら何も起きなかったことで記憶に残ることでもなかったかもしれない。

私が気になったのは、私の目を見て話してこないことだった。いじめがあるなしにかかわらず、この際だから少し話して、目を見て話せるぐらいの関係になろうとして自分の高校時代の話も語り、ぎごちないながら彼から笑いを誘い出せるようになってきた。

2時間ぐらいたっただろうか、そろそろ終わりにするかと思い、最初の話題を振った。「本当に嫌なことないのか」と聞くと、急に目をそらしわっと泣き出した。高校2年生の男子が声を上げて泣き出した。両手で顔を覆い、体を前にかがめて泣いた。

「嫌なことがあったんだね」と聞くと両手で顔を覆ったまま頷いた。彼にもプライドがあるだろうから「いじめられてたんだね」とは言わず、嫌な思いを全部話してもらった。1時間ぐらいかけて聞いた。次々に話した。小学、中学時代から嫌な思いをすることがあったが、先生には言ってこなかったと話した。

「1年半もの間、担任として気づかないでいたのは悪かった」と謝り、「必ず何か学校として対応するから。見て見ぬふりはしないから」と言って帰ってもらった。時計を見て3時間話したとわかった。

メモを見ながら思った。なぜ話してくれるまでに2時間もかかったのか?何故小学、中学時代には先生に言わなかったのか?話してみて先生や学校がどういう対応をしてくるのかが全くわからず、怖かったのではないか。「チクッタナ」とさらに何かされるのではの心配、不安、諸々。

学校はいじめが発覚したらこういう対応をしますと校長が入学式で新入生、その親に言うべきだ。親もいる場でいじめに対する学校の対応、解決策を言うべきだ。その時に話した解決策が絶対万能というわけではないが、場面場面で変えてもいいが、親も生徒もこの学校ではいじめがあると、どういう対応をするかがわかれば、話してみようという気になる。不安を多少解決できる。

これで、今の先生は何をやってるんだ?
孫を安心して学校に送り出せないじゃないか
に答えられるだろうか





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