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代名詞“they”がメリアム・ウェブスターの「2019年Word of the Year」に

今年も残り少なくなってきましたが、今回の投稿では、アメリカで最も権威のある辞書サイトのメリアム・ウェブスターが2019年の「Word of the Year」に代名詞“they”を選んだという米ABCニュースの報道(2019年12月11日付)に注目し、その要点について以下にまとめました。

メリアム・ウェブスターは自社サイト「Merriam-Webster.com」での検索率が2018年と比べて313%上昇したことを受けて、人称代名詞の“they”を2019年の「Word of the Year」に選んだ。

ピーター・ソコロフスキー編集長は、この結果に対する驚きを隠せないでいる。世界中で開催されているファッションショーで男性、女性両方の部門に出演している、カリフォルニア北部生まれでジェンダーニュートラルのモデル、オスロ・グレイスが2018年1月にランウェイに登場したのを受けて、“they”の検索の急上昇が始まった。

4月には、南アジア系アメリカ人初の女性下院議員(ワシントン州選出民主党議員)であるプラミラ・ジャヤパルが、LGBTQの権利を擁護する法案を支持し、委員会の公聴会でジェンダー不一致の自身の子供について話している最中に感情的になる場面があり、この時にもやはり検索件数が急上昇した。

10月には、アメリカ心理学会(APA)がアカデミック・ライティングの最新のスタイルガイドに単数三人称代名詞として“they”を明記した。APAのジャスパー・サイモンズ編集長は、「ライターは可能な限り、人が自認しているジェンダーを表わす代名詞を使うようにすべきです。単数代名詞“they”は、ジェンダーが不明な時にライターが勝手にジェンダーを決めつけるのを避けるための方法です」と述べている。

さらに、アメリカ方言協会も2015年にすでに“they”を「Word of the Year」に選んでおり、“he”と“she”の使い分けを拒否する人たちの間でこの代名詞の使用が広がっていることを認めている。

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以上が、米ABCニュースの記事の要点です。

ちなみに、2008年刊行の『英語の歴史 過去から未来への物語』(寺澤盾著)に、代名詞“they”について、次のような記述があります。

最近注目を集めているのが、「単数のthey」(singular ‘they’)と呼ばれる用法である。これは、Everyone loves their mother when they are a child.のように、単数のeveryoneをtheyで受ける用法をさす。この用法は、本来複数形のtheyで単数代名詞を受けるため、一部の文法家からは「数の一致」の観点から好ましくないとされてきた。
                                                     (中略)
アメリカ英語では、単数のtheyが徐々に定着しつつある。一方、イギリスで出版されている『ロングマン現代英語辞典』でも、たとえば、形容詞gratefulの定義を見ると、‘feeling that you want to thank someone because of something kind that they have done’となっており、単数代名詞someoneを受けるのにtheyが使われている。言葉の権威ともいえる辞書でも、単数のtheyが用いられはじめているということは、この用法が今後市民権を得て、さらに拡がっていくことを予感させる。


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