アネモネと借金

そういえば、という書き出しで書いていいものか、悩みどころだが、私には借金がたんまりある。買って二ヶ月でお釈迦にした車代を合わせると、ざっと百万はくだらない。数えるのが恐ろしいので、酔った時、肝試しで数えることがある。しかしやはり恐ろしいのでうっかり酒が進んでしまい、朝になるとアルコールが抜けるのと同様に、数字の方もすっかり脳みそから消え失せている。

なぜここまで借金が増えてしまったのか。正直なところ、本当に理由がわからない。気がついたら、月に八十万の請求が来ている。「キャッシング限度額は貯金」。いつか私が吐いた"迷"言だが、毎月足りない分はキャッシングの一回払いで返している。果たしていつ手数料の蓄積が、限度額に追いつくのか。昔話のうさぎと亀の競争が頭の中に思い浮かばれ、愉快だ。

特に今月から晴れて社会人となった後輩諸君には、はっきりと申し上げておきたい。キャッシングでNISAをやるようなバカにはなるな。そして無論「キャッシング限度額は貯金」、これは全くの誤りだ。
「言われなくてもわかってるよ」という声が幻聴のように聞こえる。そうか、それなら問題ない。あなたの金銭感覚は社会にそぐう立派なものだ。これからも大事にして欲しい。

さて一方で、私の金銭感覚はいかがなものだろうか。
「お金って紙だから、経験に変えていきたい」
パリの老舗靴店レペットで、石田ゆり子が残した名言である。
その通りに違いない。二十代で使う十万円と五十代で使う十万円では、訳が違う。ちなみにこれは私の持論だ。間違ってはいないはずだが、説得力が石田ゆり子と比べると毛頭ない。

新卒二年目、毎月二十万程度の手取りを頂戴し、賞与は年に二回頂戴する。
せっかくなので毎月の支出の方も書いておこう。
家賃は五万、通信費は格安スマホを利用し、同居人のWi-Fiを拝借しているため、ほとんどかかっていない。最近は光熱費が高くて困る。一.五万は見積もっておいた方がいいだろう。それから、イマジナリー・カーにも一.五万。夢を見せてくれて、どうもありがとう。その他生命保険費、通っていない英会話教室の月謝、煙草代、などがある。
こう書き連ねると、だいたい十万以上は固定費で差し引かれているようだ。
残りの十万に達さない金はどこへ消えているのだろうか。アルコールでゆるんだ脳みそをほじくりかえしたとて、万華鏡を覗いた時のサイケデリックな映像が流れるだけだ。

そろばん上ではひどい生活だが、今日もテーブルの上には花が飾られている。色とりどりのアネモネが目端に眩しい。
金がなくなることよりも、テーブルの上から花が消える。そのことの方が、私にとってはよっぽど恐ろしいのだ。

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