#短歌月九ネプリ 第一回『歌人、集う』 三首選
2019年1月始動の短歌ネプリ企画「月九」。縁あって(というか申し出て)俺も参加させていただいております。一年間よろしくお願い致します。
三首×九名=二七首から、毎月三首選んで歌を引いていきます。自作も含め、客観的に選します。同じ人から三首、だけはさすがに控えます。
良いと思った順です。どうぞ。
鳩めっちゃきそうだ いまが夜じゃなくスパムメールがパンだったなら
/ 御殿山みなみ「nightmagic」
「いまは夜だよ」「スパムメールはパンになりえねえよ」「どうせならSPAM」「ふたつも仮定すんな」「鳩はいうほどパンに来ない」「この話なんだったんだよ」
めちゃくちゃ読者にツッコませてくれる歌ですね。良い歌です。別に昼読む人もいると思うんですけどね。この歌読んでるときは夜になるんですよ。「いまは夜だよ」って言わなきゃいけない。
鳩、来ないんですよね。全然。だって、今は夜だしスパムメールはパンじゃないから。起こりえないことの話をこの人はしていて、つまりなにも言ってない。だけど、起こりえなくもないんじゃないか。とりあえず、俺らの想像力の中でだけならそういうことが起こっちゃってもいいんじゃないか。いいんじゃないの?みたいな。そんな明るさがありますよね。それを発生させる魔法のような歌たちが「nightmagic」。良いタイトルですねえ。
上履きの裏側の溝を砂で埋めながら校舎を燃やし続けた
/ 近江瞬「集団避難訓練」
学校の避難訓練に参加する「僕」の心情を描いた一連。この歌はその最後の一首です。
あれって、上履きのまま外に出ますよね。校庭に。そのことをまず"思い出させる"。一連としてもそうですが、ノスタルジーをくすぐってくるのがこの歌の魅力のひとつ。読者の年代によって手触りに違いはありましょうが、それでも普遍的な景かと思います。
「校舎を燃やし続けた」というのはもちろん想像の上でのことでしょう。たぶん、消防署のおっちゃんとかが講釈をくれるあの時間の、暇つぶしで思い描いたんでしょう。まあ、そういうこと、でやるやつですもんね、あれ。この人、正しいんです。そういうこと、を本当にやってるんだから。偉いんです。正しくて偉いのに、こんなに不穏。という捻れがある。それは、この人が意識の底で抱いている破壊願望が透けて見えるから、そして、この歌を読む俺らにもそれがあることあったことに気付かされるからでしょうね。学校、燃やしたいですよね。
〈どしどし〉をお便り募集以外でもドストエフスキー、使いたいよね
/ 西村曜
〈どしどし〉、お便りをお待ちしているとき以外使われてるの見たことないな。の発見が鮮やか。たしかに。
で、この歌はその発見に終わらないんですね。ドストエフスキー。は?
ドストエフスキーの和訳で、けっこう「どしどし」って出てくるんですよね。たぶん。きっと。そうなんですよね。そういうことで話を進めます。「ドストエフスキー どしどし」でググったらそんな感じだったし。
(Google 検索画面より)
(人をどしどしで殺すな)
この歌の主体は、どしどし、て使いたいよなあ、と思ってるわけですね。で、実際いっぱい使ってるドストエフスキーがおるから、同意を求めると。使いたいよね、と。そういう文脈ですね。筋は通ってます。いや、通ってねえよ。使ってるのドストエフスキーじゃねえよ。翻訳家だよ。池田健太郎さんだよ(たぶん)。
と、俺がこんなに言っても無駄なんですよね。この人、別にドストエフスキーの返事待ってないんです。待ってても返ってこないんですけど。そんな話ではなく、もう、この人の脳内ではドストエフスキー頷いてるんですね。うんうん、使いたいよな。俺、使ってるもん。使ってこうぜ! みんな!とドストエフスキーがめっちゃ同意してるんです。この人の脳内で。めっちゃ楽しそうだな。
この歌は、この、話通じない感、が面白いんですよね。話通じない歌は良い歌です。
というわけで三首選でした。お読みいただきありがとうございます。
次選ちょっとだけ。
ポスティングバイト募集の広告をポスティングする僕のささくれ
/ 池田明日香
ポスティングバイト募集の広告をポスティングする、構造の発見が非常に面白いですね。無限ループ感。
DVを、右ひじ左ひじ交互に見て、でやったらウケるかな? すんな
/ 平出奔「関節大集合」
DV、やっちゃだめですね。すんな ←正解。
以上です。ありがとうございました。
それでは、一年間よろしくお願い致します。
平出奔
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