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【磯ZINE発売、4つ目の磯ップ物語】

先日、ネット販売にて磯ZINEが販売されました。

文筆家ワクサカソウヘイさんが作った磯についての雑誌です。

 磯とはもちろん、あの磯です。海岸沿いにある岩場のことです。磯は驚くべきことに磯ならではの生態系があったりします。磯の中だけで世界が作られているのです。とてもニッチな世界ですが、とても魅力的です。

 磯ZINEには、ワクサカさんの磯ZINE創刊声明文、磯コラムや、ダ・ヴィンチ・恐山さんの磯小説、竹内佐千子さんの磯漫画、宮田珠己さんの磯随筆など、磯という磯尽くしの内容となっています。

僕は磯周りのことを題材にした童話、磯ップ物語を3編書かせてもらいました。

 何をもって童話なのかはわかりませんが、僕が童話だと思ったものを童話だとする戦法をとっているので、これは童話です。たぶん、おそらく、絶対。

 装丁は稀代の装丁家川名潤さんです。視神経を震わすほどカッコいいです。

表紙はこんな感じ。

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紙版とデジタルデータ版があります

ぜひこちらからお買い求めください!
https://isozine.base.shop



磯ZINEには載せていない、4つ目の磯ップ物語を作りました。

よかったら読んでね。



磯ップ物語「スベスベマンジュウガニと太陽」


 磯の岩場から見ると、小さな太陽が海から顔を半分出しています。その太陽はこれから登るのか、はたまた沈むのか、わからない様子です。

 ごつごつとした岩が重なり合った磯の隙間でウゴウゴと何かが動いています。
ツルルン。
 そんなすべすべな音とともに、その隙間から顔を出したのはスベスベマンジュウガニです。


「風が気持ちいいなあ」


 このスベスベマンジュウガニは、冗談のような名前ですが本当の名前です。甲羅が名前のとおりスベスベしていて、可愛らしい見た目をしているのですが、体の中にとても強い毒を持ったカニです。


スベスベマンジュウガニはこんなカニ。

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 磯に住むみんなは、スベスベマンジュウガニが毒を持っていることを知っているので彼のことを攻撃しようなんて思いません。それどころか彼を怖がっています。


 スベスベマンジュウガニはチョコチョコと横歩きをしながら磯を散歩します。すると岩のふちに、小さなフジツボの三兄弟がいました。彼らは兄弟仲良くおしゃべりをしていました。スベスベマンジュウガニは元気よくあいさつをします。


「やあ、おそろいで。何を話しているんだい?」


 フジツボ三兄弟はびっくりして、体の殻をギュッと閉じてしまいました。スベスベマンジュウガニは哀しそうに泡をブクブクさせましたが、慣れているのでそそくさとその場を立ち去ります。


 少し歩くと潮溜まりのふちで、ナマコさんがゆったりと日向ぼっこをしていました。スベスベマンジュウガニは今度は驚かせないように、遠くから声をかけます。

「おーい、ナマコさん、いい天気だねえ」


 ナマコさんは声のする方にゆっくりゆっくり顔を向け、声の主がスベスベマンジュウガニだとわかると、らしからぬ素早い動きで潮溜まりの底へジャボンっと沈んでいきました。


「そんなに早く動けるんだねえ」


 スベスベマンジュウガニはそうつぶやいて、哀しそうに泡をブクブクブクさせました。でも慣れているので、そそくさとその場を立ち去りました。


 もう少し歩くと同じカニの仲間であるイソガニくんが手のハサミを上下にフリフリ、ダンスを踊っていました。それを見たスベスベマンジュウガニは楽しくなって一緒にハサミをフリフリさせながら言いました。


「楽しいダンスだね。僕も踊れるんだよ。どうかな?」


イソガニはおっかなびっくり答えました。


「そ、そ、そうだね。いいダンスだね。あ、用事を思い出した」


「用事?」


「そ、そ、そうだよ。ウミウシくんと遊ぶ約束していたんだ。そ、そ、それじゃあ」


スベスベマンジュウガニは慣れています。泡ブクブク、ブクブク。


「そうなんだ。よかったらウミウシくんによろしく伝えて」


「わ、わ、わかったよ」


 イソガニくんはシャカシャカと足を動かし、もの凄い勢いで向こうへ行ってしまいました。


 スベスベマンジュウガニは慣れています。泡ブクブク、ブクブク。
慣れていましたが、なぜか目から大粒の涙がこぼれました。涙ボロボロ、ボロボロ。


「きっと僕の中に恐ろしい毒があるからだなあ。みんなと仲良くしたいなあ」


すると、どこからか声が聞こえました。


「泣かないでおくれ」


スベスベマンジュウガニは辺りを見回しました。しかし誰の姿もありませんでした。


「ここだよ、ここ」


声の主を見つけました。それは海の端っこから顔を出している太陽でした。涙をハサミでぬぐって言いました。


「これはこれは太陽さん、ごきげんよう」


「君はとても強い子だね」


「いえいえ、そんなことありません。よく泣いてしまいます。」


「よく泣く子は、よく笑う子だよ。よく笑う子は好きだ」


「ごめんなさい。最近は、あまり笑ってません」


「君は毎日毎日、めげずにめげずに、仲間たちにあいさつをしてるね」


「はい。でも、あいさつしかできないですけど」


「大丈夫。君の体の中には恐ろしい毒があるかもしれないけど、心の中にはまっすぐな優しさがあるからね」


「そうでしょうか?」


「そうだよ。いつかみんなわかってくれるはずだよ。大丈夫。」


「・・・そうだといいな」


太陽は暖かいオレンジ色の光を発しながら、突然スベスベマンジュウガニに質問をしました。


「私は、これから登るのかな?それとも沈むのかな?どっちだと思う?」


スベスベマンジュウガニはどこか晴れ晴れしているように答えます。


「登ると思います」


「なるほど。正解はね・・・あ!」


太陽は何かに気付き、沈黙してしまいました。


「太陽さん?太陽さん?どうしましたか?」


トコトコカサリカサリズズズズズ。


 何やらスベスベマンジュウガニの後ろの方から音がしました。スベスベマンジュウガニは振り返ります。


 そこには、フジツボ三兄弟、ナマコさん、イソガニくん、そしてウミウシくんが、モジモジしながらバツが悪そうにお互いの顔を見合わせていました。
スベスベマンジュウガニはその光景に驚きながら尋ねます。


「みんな揃ってどうしたんだい?」


みんなはモジモジしていましたが、代表してフジツボ三兄弟の次男坊が言いました。


「スベスベマンジュウガニくん、ごめん!」


「え?急にどうしたんだい?」


「実は僕たち、君と太陽さんの会話を聞いたんだ」


「え?聞いてたの?」


「太陽さんとの会話だからね、それはもうみんな聞こえるよ」


「ああ、そうだったんだ」


「僕らは、君のことを知ろうともしないで、勝手に怖がっていたよ。本当にごめん」


フジツボ三兄弟の次男坊がそう言うと、みんなも声を揃えてあやまりました。


「ごめん!」


 スベスベマンジュウガニは、こういうことに慣れていませんでした。なので何と言っていいかわからず泡をプクプクさせました。
フジツボ三兄弟次男坊は言いました。


「よかったら、これからみんなと遊ばない?」


スベスベマンジュウガニは慣れていませんでした。泡プクプク、プクプク。


「どんな遊びがしたい?」


スベスベマンジュウガニは慣れていませんでした。

泡プクプク、プクプク。

泡プクプク、プクプク。

涙ポロポロ、ポロポロ。


仲間のみんなはスベスベマンジュウガニが泣いているのを見て驚いてしまいました。


「ごめんごめん、泣かせちゃった。ごめんごめん」


「違うんだ。これは違うんだ。嬉しくて泣いちゃったんだ」


「・・・おいおい、まぎらわしいぜ。お前さん、なかなかおもしれえやつじゃねえか」


本日初めてウミウシくんが言葉を発しました。


 そのあとは、みんなで仲良くイソガニくんのダンスをずっとずっと踊っていました。スベスベマンジュウガニはずっとずっとこんな時間が続けばいいのにと思いました。



太陽の質問の答えがまだでしたね。


正解は、これから沈むところでした。

でも、磯の仲間たちが楽しく踊ってるところを見て、太陽は登ることにしました。


おわり





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