おやき

熱い蒸し器の中から、母が次々とお焼きを取り出してザルにおく。私はそのお焼きを 団扇で扇いで冷ましている。ここは長野県の北 新潟県がに近い北信地方だ。

8月14日朝。昨日の迎え盆で、ご先祖様がキュウリの馬に乗って里帰りをしてきた。ご先祖様の初めての朝食にお供えするお焼きを作っているのだ。

この近所、周辺では、8月14日の朝は お焼きを作るものと決まっていた。

作るお焼きは2種類。アンコと茄子にあぶらみそをはさんだもの。あんは母が畑で作った小豆でこしあんを作り、それに砂糖を入れ練って作ったもの。3cm位のお団子にしてお皿に盛ってある。

茄子は丸茄子。この辺りの人は、丸茄子を お盆のお焼きのために作っている。茄子は手頃な大きさのものは半分に、ちょっと大きく育ったものは、3つに切る。

そして、切った茄子に もう一度2つくらい横に、切り離さないように切れ目を入れる。、そこに、これも手作りの味噌と油を混ぜたものを挟み込む。 

味噌が多いとしょっぱい、少ないと物足りない。この味噌の入れ具合が腕の見せどころ。

母が朝早く、前もって仕込んでおいた生地で、あんこと茄子を包んで蒸すのだけれど、あんを包む生地を分けるときの母の手は、親指と人差し指の間から、くるっくるっと、同じ大きさの丸いきれいな球を生み出し、まるで魔法を見ているようだった。茄子を包む生地は、茄子の大きさに合わせて分ける。

団扇で扇ぐだけの手伝いしかできなかった幼い私も、だんだん大きくなり、茄子をきる、味噌を作る、入れる、包むと、させてもらえるようになる。

最初のうちは、生地の薄いところと厚いところが極端だったり、破れてしまったり、しょっぱかったり。何回もしていくうちに上手になっていった。

母とにぎやかに作っていると、父が時々 顔を出したりしたものだった。

そして、今年のお焼きの出来をはなしながら、囲む家族の食卓は、お盆という日でもあり、早朝から作って出来上がったということもあり、ワクワク感と満足感で特別な食卓で楽しいものだった。

その後、同じ長野県でも、地方によっていろいろなお焼きがあることを知った。そう、私の地域のお焼きは、焼いてないのにお焼きと言っていたのは、なんでかな。中身も野沢菜やかぼちゃなど それこそ、いろいろ。

今では、サービスエリアでも、あちこちのお店でも たくさんお焼きが売られている。故郷の近隣に住むおじさん、おばさんに作り方を聞いたら、今は時代に合わせて水の代わりに牛乳を入れたり、レシピも変化しているそうだ。

でも、私が一番食べたいと思うのは、母が作ってくれた重曹が入ったあのお焼きだなぁと、様々な情景と共に懐かしく恋しく思う 幻のお焼きなのだ。

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