今日のブルース⑦スリーピー・ジョン・エステス「台所のネズミ」(1952年)
(1952年サン録音)
台所のネズミの行儀が悪いから
ヤマネコを呼んでおいたぞ
ネズミは食べものを根こそぎ持っていく
ぼうず、だからってそれを戻すんじゃない
他人様の情にすがって生きるようになり
オレは食べものを買わなくなった
それでもネズミは食べものを持っていく
ぼうず、だからってそれを戻すんじゃない
昨夜横になって
となりのボブと話してたんだ
ネズミのやつ、食べものを投げつけやがった
ボブおじさん、電話切らずに待っててくれな
現物支給をもらってくるからな
家の中でお父さんが守ってもらえるように
小さなパトカーを呼んでおいたぞ
ネズミがうちの食べものを投げつけてくるんです
お父さんの一日はどうなってしまうのかね
台所のネズミの行儀が悪いので
ヤマネコを呼んでおいたぞ
やつらが食べ物をぐちゃぐちゃにするさまは
まったくひどいもんだったからな
(1963年『スリーピー・ジョン・エステスの伝説』収録ヴァージョン)
<1コーラス目はほぼ同じ>
61年、62年のネズミもやっぱりひどいもので
台所のネズミの行儀が悪いので
やつらが食べものをめちゃくちゃにするさまと言ったら
ひどいもんだったよ
ネズミたちはオレからポーク・チョップを奪い
残されたのは、豚の背脂とうずら豆
昨夜、家に帰ってくると
10時半ぐらいだったか
昨夜、家に帰ってくると
10時半ぐらいだったか
ネズミたちが言うのさ ジョン
食べものを探してるんなら
出直してきたほうがいいぜ
オレはかわいい女房と腰を下ろし
ご近所さんとあれこれ話し合った
ネズミたちは食べ物を全部食っちまったから
新しい湯船でごそごそやりはじめた
オレには障碍者手当で育てている
子供が五人いる
オレが「働き手」のところにチェックを入れなきゃならないのも
忌々しいねずみどものせいなんだ
毎月だいたい8日ごろ
毎月だいたい8日ごろ
オレは雑貨屋で必要な食料を手に入れる
援助用のクーポンで
スリーピー・ジョン・エステスはテネシー州ブラウンズヴィルを拠点に戦前から活躍したブルース・マンで、ハミー・ニクソン(ハーモニカ)、ジェイムズ・ヤンク・レイチェル(マンドリン)との鉄壁のアンサンブルは、音楽的にもっと語られてしかるべきである。というのも、この人について語るとき、人はなぜかビビビビびんぼうについて語って、すべてを語ったつもりになってしまう傾向にあるからである。たしかに、戦後、「再発見」されたときのエステスは貧乏から全盲になり(これも因果関係決めつけすぎだと思うが)、ギターを売り払ってブルースもやめ、若い奥さん(えっ!)と五人の子供を抱えて、生活保護で生活していたという。確かに、悲惨な現実には違いない。でも、若い奥さんいたんだ・・・それに子供が五人ということは・・・エステス、意外と元気♡
スリーピー・ジョン・エステスの妻
しかし、現実が悲惨であればあるほど、それをひっくり返す笑いを求めるのがブルースというもの。にもかかわらず、再発見後のエステスに関しては、ひさんひさんの大合唱で、「涙なしでは聞くことができない」とかいうコピーもあって、ブルースの逞しさが見えてこない。ぼくも何となくそんなものかと思っていたんだけど、今回は歌詞をじっくり読んでみたら、とんでもないことに気がついた。これはネズミに食べものを奪われる歌ではない!この曲が収録された「再発見」後のアルバム『スリーピー・ジョン・エステスの伝説』について書かれたものを読むと、「ネズミにすら食料を奪われる悲惨な生活」などと書かれていることが多いんだけど、よく考えると、何が「すら」なんだか、意味不明です。ネズミは人間の食糧をかじるものではないですか?
そう考えて、1963年、『伝説』に収録されたヴァージョンと、1952年にサン・レコードで録音されながらお蔵入りになり、77年になって日の目を見たヴァージョンの歌詞を比較検討した結果、「ねずみ」とはエステスの5人子供たちのことで、障害のある身で、食べ盛り、わんぱくざかりの子供たちの食べものを確保しなければならないエステスが、のっぴきならない状況を愚痴りながらも、子供たちの成長を温かく見守る歌(ないしはコント)、という結論に至りました。この歌には、ネズミにやられる歌では説明がつかないところがたくさんありすぎ、ねずみ=子供と考えることで、そのすべてが説明できるからです。疑問点とその答えをあげましょう。
①mountain cat / a 42 squad car
唐突に登場するヤマネコやパトカー。これは子供に言うことを聞かせるための脅し文句でしょう。日本で言えば、鬼がくるぞとか、吉本入れるぞみたいなやつです。a 42 squad car の「42」というのは、1/42スケールのミニカーのことを言ってるんじゃないか(この大きさがミニカー業界ではかなり一般的)。だとすると、「お行儀が悪いと、お巡りさんに捕まえてもらうぞー」とか言いながら、どこかから手に入れたミニカーを差し出しているわけで、エステス父ちゃん、大甘です。ヤマネコも同様に、口では怒りながら、縫いぐるみを差し出していた可能性もある。他にも、子供に自分のことを「ジョン」と呼ばせているらしいところなど、各所に甘々ポイント有。
②それを戻すんじゃない。
お父ちゃんの愚痴を聞いて、子供が口に入れた食べものを皿に戻そうとしています。今さら戻してどうする!とエステス父ちゃんの的確なつっこみ。目が見えないのに、子供の行動は筒抜けです。そして、二人はご丁寧にもこのボケを2回くり返して笑いの効果を高めています。子供の方もこれがボケとツッコミであるということに気づいている可能性もある。
③workin' on my brand-new tub.
ネズミが新しいバスタブで何をするというのでしょう?これもネズミ=子供たちと考えれば、問題解決です。食事のあと、ぐちゃぐちゃに汚れた身体を洗うために、シャワーを浴びたのです。本当のネズミなら、人間に叩き潰される前に逃げ出します。
④「働き手」のところに☑をつけなきゃならないのが、なぜネズミたちのせいなのか。そりゃあ、お父ちゃんはガキどものために働いてるのよ。
⑤ねずみに「ぼうず」"boy"と語りかけているのはなぜか。そりゃあ、息子ですもの。
これでも、まだあなたはこれが、ネズミに食べものを奪われた貧乏人の悲惨な歌と思いますか?貧乏には違いない。しかし、貧しさを嘆き、子供たちのわんぱくぶりに手を焼きながらも、そこに幸せを見出した男の姿が見えてきませんか?本当のブルースというのは、後者のような歌だと思います。なあぜって・・・
エステスには若い奥さんがいたんだもの!(←しつこい)
You know the rats are mean in my kitchen
I have ordered me a mountain cat
You know the rats, they carried away my groceries
Ooh, oh, boy, don't ever bring none of it back
I done stopped buying groceries
I going eatin' out of people's sack
Now the rats carried away my groceries
Ooh, oh boy, don't ever bring none of that back
I was lying down last night
I was talkin' with my next door, Bob
I was lying down last night
Ooh, old Bob will hold, I'm bringin' you a truck
I'm gon' call a 42 squad car
For protect me in my home
I'm gon' call out 42 squad car
For protect me in my home
You know the rats throwin' my groceries
Oh, oh boy, what gon' my day come
Oh them rats is mean in my kitchen,
you know I done ordered me a mountain cat
Oh them rats is mean in my kitchen, I've ordered me a mountain cat
You know the way they 'stroyin' my groceries, man I declare it's tough like that.
You know them '61 and '62 rats, sure have treat' me mean
Oh them '61 and '62 rats, sure have treated me mean
You know they took me off of pork chops, they done put me on fatback and pinto beans.
Hey I came home last night, somewhere 'bout half past 10,
Oh I came home last night, somewhere 'bout half past 10,
You know them rats said "If you lookin' for groceries, poor John you better go and come again.
You know I was sittin' down with my baby, I was arguin' with my next-door [neigh]'bor
Oh I was sittin' down with my baby, you know I was arguin' with my next-door 'bor
You know them rats done ate up all my groceries, they done started workin' on my brand-new tub.
You know I got five 'pendent children, on my disability check,
Oh I got five 'pendent children, on my disability check,
You know I got to go check on my workers,
boy on account of them doggone rats.
Every month, somewhere round 'bout the eighth
Every month, boy somewhere round 'bout the eighth
You know I go to my grocery store, I get me a right grocery bill straight
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