小説 これで働かなくてすむ サン・ハウスの「説教ブルース」②
「ブルースってやつは教えられねえんだよ」
つれない返事を聞いて、胸がつぶれる思いがした。ブルースは悪魔の音楽だと耳を塞いでいた自分が、掌を返したようにその秘儀を知りたいという。厚かましいと思うのが当然だろう。しかし、イエスの声を聞いたパウロのように、オレはウィルソンのブルースを聞いて馬から落ちた。ブルースのためなら、死をも厭わない覚悟がある。
「おいおい、何があったか知らねえが、死んじゃあ、ダメだ」
ウィルソンが言った。オレだって、死にたくはない。しかし、教会を追い出されたうえ、ブルースも教えてもらえないとなると、どうしたらいいのか。このギターも宝の持ち腐れだ。せめて、生きたままブルースに葬られ、ブルースに殉ずるよりほかないではないか。
「宝って、このぼろギターのことか?」
いかにも愉快そうにウィルソンは笑った。とにかく、死んじゃあ、ダメ。地味に生きろ。生き残ったやつが勝ちだ。オレが言ってるのは、そういうことじゃねえ。首をかしげるハウスににじり寄り、ウィルソンが言う。ギターは教えてやる。だが、ブルースは教えらんねえ。ブルースは自分だけのものだ。ブルースが欲しいなら、自分で見つけるんだな。ハウスが目を細めていると、家族のひとりがウィルソンに何か耳打ちした。
「あんた説教師かい!」
おいおい、説教師がブルースやっていいのかよ。何、やめたのか。早くねえか。なんだあ、馘になったぁ!?酒と女でやらかしたってぇ!ハハハハ、こいつは傑作だ、ハハ、ハハハハ!酒乱の女たらし説教師か!ハハハハハハハ。お前、もうブルース見つけてるじゃねえか。ハハハハハ、こりゃあ、いい!安心しろ!お前のブルースはもうしっかりここにあるよ。あとはそれを表に出すだけだ。どうやって出すんだって?
「まかせとけ。オレが教えてやる」
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