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元タイムパトロール・シリーズ

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店主と女性バーテンダーの会話

「初めてですよね。今の人」会計を済ませた客が店を出るや、女性バーテンダーが店主に訊ねた。「少なくとも、行きつけというほど、来てはいないと思うけど」 「十一年前に一度。八年前と、五年前にも。忘れたころにやって来る」 「よく覚えてますね。でも、それじゃ、行きつけとは言えないんじゃないですか」 「お客さまの気持ち次第だよ。行きつけと言ってくださるだけ、ありがたいじゃないか」 「そうですね。それにしても、変な客に絡まれていましたね」 「タイム・パトロールがどうとか」 「どう見ても正気

元タイムパトロールの堕落

「がっかりさせるなよ!」 バーの片隅でグラスを抱えていた男が、出し抜けに立ち上がって、大きな声をあげた。怒鳴りつけられた方は、声のする方向を見ようともしなかった。声の主はひょろりと痩せて、顎ばかりが頑丈な初老の男性で、髪に白いものが混ざりつつあるものの、奥まったところで爛々と輝くぎょろりとした目が、若い頃の情熱を宿していた。 「がっかりさせるなよ。ずっとあんたを追っかけて来たんだぜ。あんたには何かあると思ってさ。それが、泣き言を言って、女をベッドに引きずりこもうってのかい?そ

さらば、タイムパトロール

私はタイムパトロールです。二十六世紀から来ました。皆さんが期待されている通り、私の時代にはすでにタイムマシンが発明されています。それにしては、未来の人たちがタイムマシンに乗ってやってこないことを、訝しく思っている方もいるでしょう。しかし、SF小説にあるように、過去を変えることはどんな事態を招くか予想ができませんので、厳しく制限する必要があります。過去の人々と接すること自体、ほとんど禁止されています。そう、それを取り締まるのが私の仕事というわけです。仕事は楽なことばかりではあり