コクシジウム症(緑便について)

緑便についての考察

前回の記事で、「参考文献には書いてありませんが、慢性タイプの分かり易い目安は緑便ではないでしょうか。緑色をしていますが、これも血便です。」と記しました。

分かり易いので緑便をコクシジウムの目安として記しましたが、緑便は他の重要な疾病でも特徴として挙げられています。
例えばニューカッスル病という疾病も緑便を病徴としていますが、この場合は法定伝染病ですので全羽淘汰となり、農家が対処できるレベルを超えてしまいます。つまり、気づいたところで手の出しようがありません。
他の疾病に比べれば、日常的な存在でかつ農家が対処できる範囲内という意味で、緑便をコクシジウム症の目安として記しました。
今回は、その緑便がナゼ緑色なのかを考えてみます。


緑便が緑色である理由

緑便が緑色である理由は、腸内の出血が何らかの感作を受けたものと言われますが、その機序ははっきりしません。以下、私の質問に対する獣医師、学者、農家の返答をいくつか挙げてみます。
①赤血球中の鉄分と腸内細菌の代謝物が反応したメトヘモグロビンの色
②赤血球中の鉄分と飼料中の硫黄が反応した鉄硫化物の色
③胆汁の色
④鶏の赤血球には核があるので球形だが、消化液により変形し、レンズ効果で緑色に見える

①のメトヘモグロビンの色という説明は、血液中の鉄分と亜硝酸・アミン類・サルファ剤などが反応して引き起こされるメトヘモグロビン血症からの連想です。
ヒトの皮膚や粘膜が青紫色になった状態をチアノーゼと言いますが、その代表的な疾患がメトヘモグロビン血症です。ヨーロッパでは、井戸水や野菜に含まれる硝酸によって、乳児がメトヘモグロビン血症を引き起こして死亡した例があります。いろいろと反論したいところですが、例の一つにはなります。
また、検死解剖をされている医師のインタビュー記事で読んだのですが、動物は死亡した後に放置すると緑色になってゆくのだそうです。死亡すると細胞が崩壊してゆくので、腸内細菌の代謝物と血液とが混ざって、反応するんじゃないかとの事です。
こういった、いくつかの例を合わせると①の説明も、一概には否定できないところです。

②の飼料中の硫黄とは、含硫アミノ酸に含まれているものです。含硫アミノ酸は、メチオニン、シスチン、システインとして飼料中に配合されています。硫化物と言っても硫化鉄は黒色ですし、実験で行うような燃焼を伴うものではないため、反応と言えるほどの反応が起きるかすら分かりません。ただ、コクシジウム症になると便からは硫化水素のニオイがします。これは私だけではなく獣医師などとも意見が一致する特徴であるため、②の説明も一概に否定できない所です。
アミノ酸でいえば、トリプトファンも代謝されてインディゴになる事を念頭におく必要があります。インディゴはデニムの染色に使用されるインディゴブルーです。未消化の飼料が黄色をしている事もあるので、混合されて緑色に見える可能性は残ります。

③は、解剖を経験した農家の方が、証拠は無いまま直感的に答えて下さったものです。
新米の私に聞かれて、その場を取り繕うために適当におっしゃった感じでした。
それでも、私が一番可能性を感じる下記の説明に、少しカスっているのが不思議です。

④は、コクシジウムを専門的に研究されていた方の見解です。
専門的に研究されていた方でしたし、保健所のセンセイも同意されている事なので、長く信じていました。
しかし、光の屈折ならば緑色だけでなく他の色も出て良いようなものですが、まだ見たことがありません。
下記の説明に出会った今は「王様は裸だ」と言った子供の気持ちです。

可能性を感じる説明

これら①~④の説明を超えて可能性を感じるのは、ビリベルジンとビリルビンの色という説明です。
ビリベルジンとビリルビンとは赤血球の生分解でできる色素で、アザや黄疸の色として現れます。
鶏の体内では日常的に作られていて、例えばビリベルジンは卵殻の色に利用されています。
血液の生分解過程を追うと、赤血球の中のヘモグロビンがヘムとグロビンに分解され、そのヘムがさらに鉄とプロトポルフィリンに分解され、そのプロトポルフィリンがさらに分解されて生成される緑色の色素が「ビリベルジン」です。ビリベルジンがさらに分解されて生成される黄色の色素が「ビリルビン」です。さらにビリルビンがアルブミンやグルクロン酸などと結合・抱合したものが胆汁の成分になります。ビリというのは胆汁という意味です。このビリルビンには強い抗酸化活性があり、体細胞を酸化から守ってくれていますが、代わりに酸化されたビリルビンは再びビリベルジンに戻ります。
このあたりの働きを知ると、傷つけられて漏れ出た血液が腸内で緑色になったとか、胆汁がそのまま出てきた、というような受動的な話ではなく、疾病と闘うための能動的な生体反応としての緑便という気配がして可能性を感じます。
因みに人間の場合は、ビリルビンがさらに分解されると無色のウロビリノーゲンとなり、さらに分解されると黄色色素のウロビリンと褐色色素のステルコビリノーゲン・ステルコビリンが生成されますが、これが尿と便の色になります。
鶏の場合は、尿が尿素ではなく尿酸なのでこの経路がありません。白色の固形物質として便とともに排泄されます。

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