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飼料(原料)

今回は飼料原料をご紹介します。
養鶏の土台となる部分なので、考え方や原料の特性などについての体系的な記事にしたいところです。
ところが、いざ書き始めると余りに広範なものとなり、あれもこれもとキリが無くなってしまいました。
という訳で今回は、インスタグラム投降のまとめ記事で、原料のご紹介のみ掲載いたします。

原料そのものは、コメやムギ、コメヌカ、ダイズ、カキガラなどで、珍しいものはありません。
大切なのは何を使っているかよりも、どう使いこなすか、あるいは意味を理解して使っているかです。

コメあるいはムギ

主にエネルギーを供給してくれる穀物類で、秋から夏はコメ、夏から初冬はムギを使用します。
コメはエネルギー値が高く、ムギは酵素活性によりフィチン態のリンやアミノ酸の利用率が高まる特性があります。
トウモロコシは、開業時に使用していましたが、現在は使用していません。

米ヌカ

穀物の一部ですが、飼料としては糟糠類(ソウコウルイ)と分類されます。
穀物類と合わせて70~80%配合します。
主にエネルギーとリンの供給を担いますが、エネルギーとして穀物類は炭水化物、糟糠類は脂質が中心です。
脂質はリン脂質で、エネルギー源であるとともに細胞膜の材料でもあるので、非常に重要な栄養素です。
脂質に含まれる不飽和脂肪酸の比率が、リノール酸4に対しオレイン酸6で酸化に強い事や、ビタミンB群のビオチンを大量に含んでいる事など、卵の質を支えてくれる大切な飼料です。

脱脂ダイズ粕(ダッシダイズカス)

大豆から食用油を絞った残り粕で、タンパク質を供給してくれます。
ヒナ導入時の20%配合から始まり、成長や性成熟や食下量の増大に合わせながら、約10%に落ち着きます。
基本的なアミノ酸バランスに優れています。
必須アミノ酸のうち、不足しがちなものを制限アミノ酸といいますが、第一・第二制限アミノ酸であるリジンとメチオニンを豊富に含んでいます。

IPハンドリング品(Identity Preserved Handling)を使用しています。
IPハンドリングとは、分別管理と証明書添付が義務付けられた管理システムの事で、現状では①非遺伝子組換え②収穫後農薬不使用を意味します。
ただし、今後の景品表示法の運用によっては、こういった表示が使用できなくなる可能性があります。
防カビ剤としてエトキシキン0.03%未満が添加されています。

カキガラ

主にカルシウムを供給してくれます。
配合は3%から始まり、11~13%程度に増やして行きます。
産卵開始前のヒナに与え過ぎると肝障害がでたり、リンとのバランスがあったり、粒度によって利用率が変わったり、産卵後半に吸収率が落ちたりと、意外に気を使う飼料です。
日常の飼料給与(エサやり)のタイミングは、卵の殻の形成と鶏の血中カルシウム濃度を同期させる事に配慮して決めています。

カキガラのカルシウムは、各種のミネラルやアミノ酸からできたコンキオリンというタンパク質と結合しているために、鶏の体内での利用率が高いとされています。
これまで、炭酸カルシウムや貝化石、リン酸カルシウムなどを試してきましたが、県内産である事と上記の理由により、カキガラに落ち着きました。

塩素とナトリウムを供給してくれます。
それぞれ必要量があり、他の飼料原料に含まれる量との合算はしますが、いわゆる食塩として0.3%配合しておけば問題ありません。
塩化ナトリウムとして、そのまま血液の成分になったり、細胞などの材料になったりします。
機能としては、ダイズ粕などに含まれるカリウムと協働して、体液の浸透圧調整や酸塩基平衡の維持(酸性とアルカリ性とのバランスどり)なども行います。
ナトリウムは、細胞への栄養素の運搬と取込み。塩素は、塩酸の形で胃液の材料になるなど別々の機能もあります。
不足すると、産卵や成長の阻害をしたり、落ち着きがなくなって尻ツツキの原因にもなりますが、多くても少なくても軟便を引き起こすなど、ちょっとだけ気を使う飼料です。

ビタミンミネラルプレミックス

総合ビタミンと総合ミネラルで、0.1~0.2%を配合しています。
ビタミンとミネラルの働きは、新陳代謝や抗病性や免疫機能や補酵素の他、多岐に渡ります。
例えばビタミンEだけをみても、強力な抗酸化作用によって生体膜の安定に必要なだけでなく、免疫刺激としても自然免疫系ではマクロファージの能力増加、獲得免疫系では抗体産生の増加に有用です。さらに骨形成時に必要な日光の代替作用も持っています。
そしてその作用が、異性体と呼ばれる型の違いによって効果が変わるという難しさを抱えています。
こうやって一つ一つを押さえるのは大変なので、鶏専用に設計・配合されたものを総合剤として使用しております。
一番気をつけているのは「不足より過剰が怖い」という事です。
0.1~0.2%の「~」が重要です。

DL-メチオニン

制限アミノ酸である、メチオニンを供給してくれます。合成品のため天然には存在しないD型の異性体も含んでいます。
0.05~0.15%の範囲で、だいたい0.1%ほどを配合しております。
まさとうは、自然~、有機~、とお約束する農家ではないので、必要と認める飼料は与えます。
一応、1980年代の文献に、脱脂大豆粕とゴマの絞り粕を2対1で配合すれば充足できると記されていますが、近代育種によって性能を高められた現在の鶏の要求量は満たせません。
アルファルファという牧草で補う事も出来ますが、遺伝子組み換え品が大半である事と、多く配合すると卵に血液が混じる血斑卵の原因となるため使用していません。
また、イワシや白身魚の魚粉・フィッシュミールや、ナタネの絞り粕ならば要求を満たせますが、卵の生臭みの元となるので使用致しません。
さらに、コーンスターチの副産物であるコーングルテンミールならば、生臭みもなく要求量も満たせますが、3トンが1ロットで茨城県の鹿島港着けという、取扱量・飼料費・国内輸送費のどれをとっても身の丈にあわない条件であったため、満面の笑顔で断念致しました。

だいたい以上の原料を配合して飼料としています。

まとめ

今回は、特殊な原料は必要ないという事を見て頂くためのご紹介です。
ここに挙げた原料をやり繰りしながら飼料設計をしています。

たったこれだけの原料を混ぜるだけなのに意外と頭は使っています。
例えば、原料ごとの成分分析値ならば仕様標準に記載されています。
鶏に必要な栄養成分ならば、鶏種ごとの飼養マニュアルに生育ステージ別で示されています。
それらを足し合わせれば、エサの設計は出来そうに思います。

しかし、マニュアルはケージ飼育を想定したものなので、そもそも誤差を含んでいます。
雛会社も毎年少しずつ改良を加えてくるので、年に一回というペースで導入すると、性格も性能も前回と違う鶏が入ってきます。鶏の改良が毎年であるのに対して、マニュアルの改訂は数年に一度であるため、誤差はさらに広がります。ロットごとの特性は飼育しながら把握してゆくことになります。

原料の成分分析値も、それらすべてが鶏の体に吸収利用される訳でもなければ、同じ成分でも由来した原料によって利用率が変わります。これらは養鶏ハンドブックや論文などから実験値を拾ってきます。
それぞれの栄養成分も、産卵前期と後期では鶏や卵に違った影響をもたらします。
ここに落ち着くまでに、あれこれと良さそうな原料を試しては却下してきた経緯も合わせなければ、理解が深まらない事もあります。

本来の飼料設計というのは、線型計画法という方法で行います。
現在では設計プログラム自体は、エクセルで作ることが出来ます。
気付いたり学んだ事を、その都度プログラムに反映させるためにも、表計算シートは自分自身で作り上げてきました。

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