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【映像の仕事】MA

映像の仕事ついて書くのは楽だと分かったので、シリーズとして書いて行きたいと思います。とは言え、これは映像の仕事入門ではありませんので。私はこんな感じでやってますけどね〜って程度のものです。

MAという工程がありまして「マ」と読みます。「明日のマの準備できた?」「マまでに音源もらえよ」などと使います。MAはナレーションの録音をしたり音素材をミックスする作業のことを言います。MAの語源は諸説ありますが、昭和初期の時代に音響機材の精度も低く「ま、いいか。」「ま、こんなもんか。」「ま、許してよ。」と妥協することが多かったようで、そこからこの工程は「ま」と呼ばれるようになり、最近では格好つけてローマ字表記で「MA」と書いているそうです。

一方で、MAを「エムエー」と呼んでいる人たちもいるようでして、最近ではそっちの方が主流なのかも知れません。

このMAという工程は音全般の仕上げの工程になります。MAは広告の仕事で使われる言葉でもありますかね。映画やアニメでは同じような工程を「ダビング」と言ってます。

昨日書いた「シナハン・ロケハン・ロケ」でもロケハンが嫌いと書いてしまいましたが、私はMAも嫌いなんです。MAが嫌いな理由は演出している一部始終を全て見られているからです。

私が監督席に座り、声優さんなんかに対してディレクションしている様子を、私の後ろに座っているクライアント、代理店、制作会社のスタッフ全員に見られてるんです。背中で強烈な視線を感じるのです。しかも音を扱う場ですから、シーンと静まり返っています。

さらに、セリフの良い悪いの判断はプロも素人も大して変わりません。ちょっとしたセリフの引っ掛かりやニュアンスの違いは素人でも分かります。それは私たちが毎日毎日膨大な量の人の声を聞いて、その微妙なニュアンスを感じ取ってコミュニケーションしているからです。だからみんなプロの耳をしているんです。

だから私がテイク2をOKテイクと判断したとしても、後ろの席から「テイク4の方が良かったね」などというつぶやきが聞こえてくるんです。それでもう一度一通り撮ったテイクを全部聞いてみて、「あ〜やっぱテイク4の方が良さそうですね。テレビのスピーカーで聞くと想定すると、こっちの方が良い気がしますね〜」みたいに言って自分を正当化つつテイクを変える訳です。なんなら「さすがですね」ぐらい言いますよ。あ〜面倒くさい。正直どっちでも変わらないんです。でも、みんな耳はプロと同じなので自分なりの正解を持ってしまうんです。もうこういうのも面倒くさいから、テイク1から全部のテイクを聞いて挙手制で多数決で決めればいいよ、とすら思ってしまいます。

一方で場馴れした人たちは、こんなもん延々とやってても決まらないから監督が決めればいい、と思ってたりもします。

そうやってナレーションやセリフを録ったら、次はそれらをミックスする作業に入ります。ちなみに音は「録る」と書き、映像は「撮る」と書きますね。ミックスというのはそれぞれの音のバランスを調整することです。

ナレーションやセリフなどの声の素材、音楽、効果音を映像の流れに沿って音量や音質を調整していくんです。例えば、音楽が大きく盛り上がるところに、ナレーションの大事な部分がぶつかってしまった時に調整したりもするんです。「キャンペーン中!」の「キャ」の部分に、ドラのジャーンがぶつかってしまったら「ャンペーン中!」に聞こちゃいますから。

ミックス作業は割とミキサーの孤独な作業の時間なので、スタジオの外に出て出来上がるのを待つんです。ミキサーというのは音をミックスする人の肩書です。よくあるのが、ミックスを待つ間にMAルームの中で大きな声で話をしてしまう事です。私もしばしばやってしまいます。ミキサーが出刃包丁を持っていたら何が起きるか分かりませんよ。日本が銃の所持が許されてない国で良かったとすら思います。意外とミックス作業で何が行われているかを知らない人が多いんですよね。ミキサーが全神経を集中させてスピーカーから出てくる音を聞きながら調整しているのに、そのスピーカーの音量に負けない声量で話してますからね。すみませんと思うことが多いです。

そして今まで何度も何度もあったんですが、クライアントの方々は必ず「ナレーションが小さくないですか?」と言います。そして音楽のボリュームを下げて欲しいと言います。その作業は簡単に出来てしまうんですが、テレビのオンエアで見た時に、突然音楽が小さいCMが流れる印象になってしまうんです。ヘコむと言いますか。地味なCMになります。それを言葉で言っても分かってもらえない時は、その時作っているCMの前後に全然関係ないCMをくっつけて見せたりした事もありました。

あとよく説明するのが、セリフを立てたかったら音楽を下げるしかないということです。セリフも大きく音楽も大きくしたいというのは、原理的に無理なんです。「金払うからやってくれよ〜」と言われても無理なんです。10使えるとして、セリフを6にしたら音楽は4なんです。セリフを8にしたら音楽は2なんです。音楽を8にしたらセリフは2なんです。そういうイメージです。

そうやって音を完成させる作業のことをMAと言うんです。

ちょっとウィキペディアで調べ直したんですけど、MAを「ま」とは呼ばないみたいですね。おかしいな…

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