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幸せの核に近づくための自分メモ #26

※本記事はRPG『クロノ・トリガー』のネタバレを含みます。





名作にもほどがある——いや、こういう扇情的な書き出しは好きでないけれども、まずそれを伝えたかった。

先月、鳥山明先生の訃報に触れ、小1〜2の頃にプレイしていた『クロノ・トリガー』を思い出してiPhoneでやってみた。それほどゲーマーでもなかった私のゲーム遍歴を簡単に述べると、定番の『ドラクエ』や『FF』シリーズは通らず、『ポケモン』は赤・緑まで、あとは『スマブラ』や『ドンキーコング』や『おい森』をちょこちょこやったりやらなかったり、といった具合だ。だから、多種多様なゲームを経験した中で『クロノ・トリガー』が一番、と言っているのではない。けれども、それでも「『クロノ・トリガー』は最高だ」と世界に発信したい気持ちになったから、この記事を書いている。小学校高学年以降を対象としている『クロノ・トリガー』を、年上のきょうだいもいない私がなぜそんな小さい頃にやっていたかというと、当時住んでいたマンションの管理人さんの影響だった——しばしば管理人室でゲームをやらせてくれた、管理人さんの。

なにせ小1〜2だったので、当時はクリアすることだけに必死だった。それから30年近く経った今(書いててビビった。小1〜2の頃から30年近く経っているなんて!)、当時は十分に味わえなかったストーリーの面白さや感動、細かい仕掛けへのこだわり、音楽や映像の美しさを存分に味わっている。エンディング「時の向こうへ」(一番普通にプレイしたときに見られるやつ)におけるルッカとロボの別れのシーンでは、思わず私もオイルでアイセンサーが霞んだ。ちなみに最後は時の最果てにあるバケツから世界崩壊の日に行くのではなく、シルバードで突っ込むのが好き。「遙かなる時の彼方へ」が流れるなか、クロノとマールが風船にぶら下がって小旅行しているのを見ると、こちらまで幸せな気持ちになる。


以下、『クロノ・トリガー』の各時代が大まかにどんな時代だったのか、そこにクロノたちがどう介入したか、そしてその結果としてどんな変化が生まれたかを記していく。『クロノ・トリガー』の考察記事や動画は世の中に溢れているだろうし、おそらくというか絶対、本記事はそれらを上回るクオリティのものにはならないと思う。ちょっといろんなことが起こりすぎているので、自分の言葉で整理してこの作品を噛み締めるというのが趣旨である。このシリーズはあくまで自分用メモであることを今一度念頭に置いてもらいたい。あと、1度目の(古代での)ラヴォスとの対決では敗れ、クロノが一度死に、その後生き返ってラヴォスを倒すという一番オーソドックスなパターンを想定していることも断っておく(それ以外のパターンに文中で触れることもあるが)。また、「緑の夢」をはじめとするマルチイベントも基本的に抜きで考える(マルチイベントに文中で触れることもあるが)。

原始(B.C. 65000000)

人類と恐竜人が戦っている時代。この時代にラヴォスが地球に落ちてきて、それが恐竜人の絶滅につながる(一部生き残りが後の時代に「竜の聖域」で確認できるけれども)。

クロノたちはどう介入したか:
エイラやキーノらと出会い、グランドリオンの復活に必要な赤い石を手に入れ、恐竜人たちと戦い、倒した。

どんな変化が生まれたか:
赤い石を手に入れるとともに、ラヴォスの起源を知るという意味では重要な時代だが、クロノたちが行かなかったとしても、たぶんおおむね同じことが起きている。ただ、ティラン城に乗り込む前にラヴォスを倒すと、エンディング「ディノ・エイジ」で恐竜人たちが生きる地球の現代が見られるので、一連の流れの中で恐竜人たちを倒したことは、その後の人類の繁栄に一定程度寄与したのだと思う。クロノたちがこの時代にそもそも行っていなかったら、ゲートホルダーがキーノに盗まれることはなく、したがってそれが恐竜人に奪われることもなく、恐竜人は人類との戦いを経ずともラヴォスの落下とともにぬるっと絶滅していたのかも。

古代(B.C. 12000)

魔法を使える光の民が空中都市(文字どおり浮遊している大陸)に住み、魔力をよりどころとした高度な文明の恩恵に与り暮らしている一方で、魔法を使えない地の民は地上で質素に暮らしている、というかほとんど迫害されている時代。じつはこの魔力というのが、ラヴォスのエネルギーをジール王国の女王=ジールが利活用しているもの。王国と自らの永遠の繁栄を望むジールは、私欲のあまりエネルギーを海底のラヴォスから吸い上げすぎ、それがラヴォスの暴走、ひいては空中都市の墜落と崩壊につながってしまう。なお、その拍子にいわゆる“ゲート”が生まれ、ジールの長女サラ(?)、長男ジャキ(中世)、さらにはボッシュ(現代)、ガッシュ(未来)、ハッシュ(時の最果て)の3賢者が、それぞれ括弧内の時代に飛ばされてしまう。ちなみにこのジャキが後の魔王である。

クロノたちはどう介入したか:
幼少期のジャキと出会い、自分たちのうち誰かがもうすぐ死ぬという不吉な予言を受ける。ペンダントをアップグレードし、封印された扉や宝箱が開けられるようになり、それがシルバードの入手につながる。なげきの山に幽閉されたボッシュを救い出すと、ジールらの計画の危険性を知らされ、それを阻止せんと海底神殿に向かう。クロノ、死す。その後ダルトンにシルバードを奪われ、飛行機能も追加された状態で取り返す。

どんな変化が生まれたか:
この時代も、クロノたちが介入せずともラヴォスは同じように暴走し、サラ、ジャキ、三賢者をそれぞれの時代に飛ばしていたのではないか。もっとも、それはクロノが(おそらくは制作陣の想定どおり)1回目のラヴォス戦に負ける場合の話であって、勝つのであればその後の歴史もガラッと変わることになろうが、その結果として世界がどうなるのかはどのエンディングのパターンからも窺い知ることができない。どちらかといえば、魔王が予言者として女王に近づき、自分の人生をめちゃくちゃにしたラヴォスを倒そうとしたことのほうが、たぶん重要。魔王はそのためにボッシュをなげきの山に幽閉し、クロノたちはそれに振り回される羽目になった…んだっけ? それとも最初からラヴォスのエネルギーを湯水のように使うのは危ないってなってたんだっけ? 忘れちゃった。それにしてもサラはどんな時代に飛ばされてしまったのでしょう。光の民にも地の民にも分け隔てなく接するいい人だったから、せめて飛ばされた先の時代では幸せでいてほしい。あと、ジール王国で光の民を手伝っていた地の民って、魔族の前身だったりする?

中世(A.D. 600)

人間と魔族が戦っている時代。人間の軍を率いるのは当時のガルディア国王=ガルディア21世、魔族の軍を率いるのが魔王 a.k.a. 古代から飛ばされてきたジャキ。10年前までは“勇者”こと騎士団長サイラスがガルディア王国軍の主戦力だったが、魔王に殺されてしまい、その場に居合わせた幼馴染のグレンはカエルの姿にされてしまう。戦争には人間が勝利する。結果的に魔族は人間に対して敵対感情を抱くように。

クロノたちはどう介入したか:
ルッカの発明したテレポッドという転送装置にマールのペンダントが反応し、マールは現代のリーネ広場からこの時代に飛ばされてしまう。クロノ、ルッカが後を追う。マールが当時の王妃リーネと瓜二つであることから、突如として現れたマールを人々がリーネと勘違いし、戦争の最中で魔王軍に誘拐されたリーネ王妃の捜索が打ち切られ、危うくガルディア王国の血筋が途絶えるところだったが、クロノらが修道院からリーナ王妃と大臣を救い出した。また、自分を庇って親友サイラスが命を落とし、失意の底にいたカエル fka グレンを再奮起させ、魔王との戦いに挑んだ。

どんな変化が生まれたか:
魔王軍を倒した!と言いたいところだが、仮にクロノらが介入していなかったとしても人間が勝利していた模様。ただ、魔王を倒すと現代のメディーナ村広場に祀られているのがビネガーの像になり、そのビネガーをも中世で倒せば、魔族は人間に対して友好的になる。あと、魔王の真の関心事が打倒・人間ではなく、ラヴォスを中世に呼び出してぶっ飛ばすことだったのは、古代でのやりとりで明かされるとおり。現代の魔族の間では「魔王がラヴォスを生み出した」「魔王が甦りラヴォスの力をもう一度利用できれば人間を倒せる」などと言い伝えられているが、クロノら介入前の歴史では魔王が自ら呼び出したラヴォスとの戦いに敗れ、結果として人間との戦争において自滅するかたちとなった? なお、中世でのクロノの活躍により、ガルディア城の食堂には「クロ・スペシャル」なるメニューが登場。

現代(A.D. 1000)

ガルディア王国建国1000年が盛大に祝われている時代。

クロノたちはどう介入したか:
一連の旅の起点。ヤクラ扮する大臣によってクロノが犯罪者に仕立て上げられるなどしたが、この時代には直接的には介入していない? あ、ヘケランは倒したか。あと、三賢者のうちの一人=ボッシュが飛ばされた先の時代なので、別の時代で集めた諸々を使い、ここでグランドリオンを復活させることになる。クロノの死後、彼の復活に必要なドッペル人形を手に入れるのもこの時代。

どんな変化が生まれたか:
この時代にも直接的な変化はもたらしていない。マルチイベントで虹色の貝がらをクリアすると、その過程で真の大臣を救い、大臣に扮するヤクラを倒すことになるが、それをクリアせずともラヴォスを倒せば千年祭のパレードは行われる。

世界崩壊(A.D. 1999)

ラヴォスの日。地球に寄生し地中にずっと眠り続けていたラヴォスが目を覚まし、世界が荒廃する。

クロノたちはどう介入したか・どんな変化が生まれたか:
まさに世界を滅ぼしたラヴォスと戦い、倒した。

未来(A.D. 2300)

ラヴォスが覚醒し地球を焼け野原にした301年後の、荒廃した時代。わずかに生き残った人間たちは夢も希望も抱かず、ロボットたちが勢力を強め、人間を蹂躙している。

クロノたちはどう介入したか:
アリスドームのドンいわく「『元気』の意味を教えてくれた」。クロノたちはここで最初にラヴォスの存在を知り、ロボを仲間にする。また、三賢者のうちの一人=ガッシュが飛ばされた先の時代なので、ここでシルバードを手に入れるほか、クロノ亡き後、彼を生き返らせるためのヒントをヌゥ(の姿を借りたガッシュ)から得て、実際に死の山でクロノを生き返らせる。

どんな変化が生まれたか:
ラヴォスを倒した結果、未来は明るいものになった。明るい未来の姿は一部のエンディングで垣間見ることができる。

抜けている要素はいろいろある、というか語り尽くそうと思ったら本1冊書けそうだけど、大まかにはこれくらいで。


それ以外の所感もつらつらと…

古代と中世が魅力的——そう、音楽も

どの時代もそれぞれに魅力的だし、現代の千年祭なんて画面の中で一日中遊んでいたくなるくらいだけれども、特に好きな時代を挙げよと言われたら、古代と中世かなと思う。

古代はものすごく昔の時代なのに、現代に勝るとも劣らない豊かな文明があるのが印象的。ただ、それが何をよりどころとしているか考えると悲しい時代でもある。そういう部分も含めて好き。この時代のBGM「時の回廊」は、そういう複雑さ・悲しさを見事に表現したものだと思う。これに歌詞を付けている人を見つけたんだけど、これまた見事にこの時代のことを言い表していて、思わず鳥肌が立った。

中世が好きなのは、独特の少し淀んだ空気感があるのと、現代の面影を街並みから感じられるから(現代に中世の面影が残っている、という言い方のほうが時系列でいえば適切だが)。この時代のBGM「風の憧憬」を清水翔太さんが自らの楽曲でサンプルしていることを最近知った。なんでも、『クロノ・トリガー』の大ファンなのだとか。清水翔太さんの「風のように」の公式音源はYouTubeに無いので、元ネタのほうをどうぞ。

そう、この2つの時代、BGMも本当にいい。どちらも『クロノ・トリガー』サントラの中で1, 2を争う人気曲らしいけど、それも頷ける。あと俺が好きなのはエンディングの「遙かなる時の彼方へ」。今日はYouTubeでいろんなアレンジを聴き漁ってた。

マルチイベントをどれだけ進めるか

上にも少し書いたように、このゲームは本筋と関係ないところにもいろんな拘った仕掛けがあるのが魅力的なんだけれども、それらをどれだけ進めるべきか迷う場面が多々ある。

たとえば、ルッカのお母さん=ララのスカートが機械に巻き込まれてしまう事故で、当時多くのプレイヤーにトラウマを植えつけた「緑の夢」。ネットで攻略法が簡単に分かる今となっては「LALA」のパスコードを打ち込めばいいだけなのだけれども、歴史を書き換えないのが正しい歴史のような気もして…おそらく制作陣もそっちを想定していそうな雰囲気。知らんけど。

同じことがビネガーについてもいえる。グランドリオンを手にしたカエルと共に魔王を倒すのは、ストーリーを進めるうえでも必要だし、実際にクロノらが介入せずとも魔王軍は負けていたわけだからいいんだけど、ビネガーを倒して魔族の反人感情まで変えちゃう?っていう。憎まれ続けるのが勝った側である人間の果たすべき責任なのでは?っていう気もしちゃうんだよね…。

あと、これは本筋の話だけど、魔王って倒すのと仲間にするの、どっちが正解なんでしょうね? 仲間にしたほうが後々の攻略が楽になるけど。そもそもそれぞれの場面にどんなパーティで臨むのが(戦術的な意味でなくストーリー的な意味で)正解なんだろうって迷うし、だからこそいろんなパターンを試そうとやり込むことになるわけなんですが。

「あたたかく大きな存在」

ゲートはラヴォスの強大な力によって時空が歪められて出来たものと思っていたが違うかもしれない、と、エンディングでルッカが言う。

もっと違う……
あたたかく大きな存在が
いろんな時代を私達に
見せたかったんじゃないかな。

ルッカ(『クロノ・トリガー』より)

この「あたたかく大きな存在」、大人になってから『クロノ・トリガー』をプレイしていて食らってしまった要素の一つである。

そもそも『クロノ・トリガー』には故・鳥山明氏のほか、坂口博信氏、堀井雄二氏が携わり、〈ドリームプロジェクト〉と銘打たれていた。そりゃあそれだけ凄い人たちが才能を結集させれば凄いものが出来上がるでしょ、と思うかもしれないが、凡人には考えられないような才能の持ち主が手を組んで凡作を作り上げるのを、我々は何度目にしてきたことだろう? そう考えると、この名作RPG『クロノ・トリガー』を完成させたのも、クロノらにいろんな時代を旅させたものと同じく、ラヴォスをも超越するような、何か大きな存在だったのではないかと考えてしまう。

クロノたちとは違う世界に住んでいるけれども、その「あたたかく大きな存在」を信じてみよう——時を越える旅を共にした仲間たちがゲートの向こうに行くのを見送りながら、そして、変わらずそこにある故郷を風船にぶら下がって見下ろす二人を見ながら、一時的にでもそんな気持ちにさせられるのは、私だけではないはずだ。

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