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【BARS】"cold"と"hot"を用いた対比表現(Nipsey Hussle - "Keys 2 the City")

【今回のポイント】

No shame in my game
I did my thing on the coldest streets
Who's the hottest on the West?
All you niggas know it's me

恥じることなんてない
俺は身も凍るようなストリートで自分の仕事をした
西海岸で一番アツいのは誰だ?
お前らみんな 俺だって分かってんだろ

 ◆2行目には、ストリートの冷酷さを表す語として"cold"の最上級"coldest"が登場
 ◆3行目には、「イケてる」「魅力的な」を表す語として"hot"の最上級"hottest"が登場
 ◆まったく逆の意味の言葉を2行連続で配することにより、それぞれの意味が際立つ効果的な対比表現

今回の動画でお伝えした内容はここまでです。この先、動画の内容に関連する内容をお読みいただけます。英語の話かもしれませんし、音楽の話かもしれません。何が出るかはお楽しみ!

【今日の一言】

今回扱った「Keys 2 the City」はかつてブログでも対訳しているので、よかったらご覧ください。

以下、ニプシー・ハッスル(Nipsey Hussle)逝去に際してブログにアップした記事を転載します。ブログで全文お読みいただけるので有料部分は設けませんが、気に入ったらご支援いただけると嬉しいです🏁💙

ファットバーガーとSlauson Donuts

ここ数年、サウスセントラルLAに行くとどこもかしこも工事中だ。レイマート・パーク(Leimert Park)からスローソン・アヴェニュー(Slauson Avenue)との交差点までクレンショー・ブルヴァード(Crenshaw Boulevard)を走っていると、特に工事現場が多いことに気づかされる。あるUberのドライバーは、2028年のLA五輪に向けてサウスセントラルのジェントリフィケーション(gentrification = 低所得者住宅地の高級化、中産階級化)が進んでいるのだと教えてくれた。近々、クレンショー沿いを走る鉄道=The Crenshaw Lineが開通するのだとも聞く[1]。

そうしたなか、クレンショーとスローソンの交差点付近には、The Marathon Clothingという洋服屋がある。ちょうどその辺りで育ったラッパー=ニプシー・ハッスル(Nipsey Hussle)が有する、同名のクロージング・ラインの店舗だ。そこから徒歩2分の場所に位置するファットバーガーの制服は、そのニプシーが手がけたものだという[2]。The Marathon Clothingでは、スローソンを挟んで同店のほぼ真向かいにある、スローソンのランドマーク的存在ともいえるドーナツ屋さん=Slauson DonutsのデザインがあしらわれたTシャツ[3]も取り扱っている。

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The Marathon Clothing (2015年9月筆者撮影)

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ファットバーガー内に飾られた写真(2015年9月筆者撮影)

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Slauson Donuts (2015年9月筆者撮影)

改めて考えると、ファットバーガーの制服を手がけることとSlauson DonutsのTシャツを作ることの両方を成し遂げたあたりに、強烈な"ニプシーみ"を感じる。彼はビジネスの才覚をいかんなく発揮して自身のブランドを立ち上げ、大手レーベルとの契約条件にもとことん拘り、2013年から仮想通貨にも興味を示すような、典型的なフッド出身のラッパー像には当てはまらないような人間だった。サウスセントラルの外の世界にどんどん足を踏み入れ、地元の仲間たちにも違う景色を見せようとしていたように感じる。一般的に警察嫌いで有名なギャング(クリップス)出身でありながら、暴力を止めるための話し合いの場をLAPD(ロサンゼルス市警察)と設けていた[4]というのだから驚かされる(し、そんな彼が命を奪われたことに胸が痛くなる)。

そして、それと同じかそれ以上に、やはりコミュニティの人でもあった。ニップは自身の曲中で、59thストリートと5thアヴェニューの交差点付近にある祖母の家にまで言及し、そこに足を踏み入れたことのないリスナーの頭にも光景が浮かぶくらいヴィヴィッドにフッドの日常を描写していた。いつも軸足をフッドに置き、かつての自分と同じ境遇にいる人々をインスパイアしようとしていた。The Marathon Clothingの店員のお兄さんに「ニプシーはよくここに来るの?」と尋ねたところ、「もちろん」という答えが返ってきたことがある。彼がどれだけ地元の人々にとって身近な存在であり、そして愛されているかは、旅行でその地を訪れていただけの私にも容易に想像できた。

ニプシー・ハッスルが開いてくれた扉

そもそも私を、LA旅行でハリウッドでもサンタモニカでもなくThe Marathon Clothingに足を運ぶようなちょっと変わった人間にしてしまったのも、ニプシー・ハッスルだ。ヒップホップを聴き始めた頃、同じ趣味を共有する友人が身近にいなかった私にとって、インターネットは唯一の情報源だった。そこでは「90年代が至高。最近のヒップホップはゴミ」という意見を多く目にした。ネットを入り口にヒップホップを聴き始めた方の中には同じような方が少なくないのではないかと想像する。御多分に洩れず私も(90年代のヒップホップも新譜もそれほど聴いたわけではないのに)その意見に賛同し、「ピコピコしたトラックはヒップホップじゃない」「オートチューンは頭が痛くなる」などと口走っていた。

そんななかで出会っていたく気に入った「最近のヒップホップ」が、ニプシーの「Keys 2 the City」だった。私はそれを機に「最近のヒップホップも悪くないじゃん」と考えを改め、新譜にも少しずつ手を伸ばすようになっていった。歌詞の内容に目を向けるようになったのもこの頃で、それが後の「『good kid, m.A.A.d city』の舞台を巡る旅」につながり、道すがら上述のThe Marathon Clothingにも立ち寄り、フーディやTシャツやスナップバックを購入した。ニプシーの「Keys 2 The City」に出会っていなかったら、大げさでなくケンドリック・ラマー(Kendrick Lamar)を聴いていなかったかもしれないし、カリード(Khalid)やSZAの国内盤ライナーノーツも書いていなかったと思う。ニプシーの音楽と出会えたことは、自分にとってそれくらい大きな意味を持つものなのだ。

長期的ビジョンと次世代への眼差し

上述のとおり「Keys 2 the City」をきっかけにヒップホップ・リスナーとしての姿勢を改めた私だが、必ずしも常にニプシーのビジョンを理解し、それに共感していたわけではなかった。幻のメジャー・デビュー作『South Central State of Mind』[5]がお蔵入りになって #Proud2Pay というキャンペーンを打ちつつミックステープを売り続けるニプシーに対し、「そんなことよりメジャー・デビューしてしまえばよかったのに」と思っていたのも事実だ。彼の描いていた青写真がもっともっと大きなものであることを知ったのは、2017年12月、デビュー・アルバム『Victory Lap』(2018年)のリリースを控えた彼のインタビューを聴いてからのことだった。

実はこのインタビューは、当時道に迷っていた私の進むべき道を指し示しもしてくれた。会社勤めの傍らでライターとしての活動を続けるなかで、自分の時間と気力と体力を100%投入できたらどれだけ幸せだろうと考えなかったわけではないし、実際にそういう話を頂いていた。そんな折に上掲のインタビューを聴き、今はまだ自分のブランドを築くことに拘るべき段階だと気づかされた。振り返ってみて、その判断は正しかったように思う。もちろん、そう判断したきっかけはニプシーのインタビュー以外にもいくつかあったが、ここでも彼の言葉が私にとって大きな意味を持つものであったことは間違いない。ヒップホップという共通項を持つとはいえ、LAはクレンショーの、地元の人々の幸せを願い動いていたラッパーの言葉が、東京の会社員兼ライターを動かすとは、なんとも不思議なものだ。

ニプシーが亡くなったことは残念でならないけれども、少しだけ安心させられることがある。生前彼がコミュニティのためにやっていたことが、いかに長期的なビジョンと幅広い視野と愛に基づくものであったかを理解する人がたくさんいて、そしてそれを知らしめるメディアや個人もまた少なくないということだ[6]。ニプシー自身はやりたかったことの半分も成し遂げられずにこの世を去ってしまったと思う。それでも、ニップの音楽や言動にインスパイアされ、彼と同じようにコミュニティのために活動する次世代の若者が、きっとまた近いうちに現れるのではないかと期待が持てる。

生前、ニプシーはしばしば自らのハッスルを「マラソン」と形容していた。彼のマラソンは終わってしまったが、幸いなことに我々のマラソンはまだ続いている。ニプシー・ハッスルの新曲が聴けないと思うと寂しくて寂しくて仕方がないし、残されたローレン・ロンドン(Lauren London)や2人の子供のことを思うと胸が痛くなるが、彼が教えてくれたことを胸に、自分はどんなコースをどのように走るか考えたい。

Rest in Power, one & only Nipsey Hussle. WE LOVE YOU!!!

〜出典〜
[1] The most anticipated transit projects opening in time for the 2028 LA Olympics - Curbed LA (https://la.curbed.com/2017/8/4/16098474/olympics-transit-future-subway-rail)
[2] Nipsey Hussle Welcomes Fatburger To Crenshaw With Custom Uniforms - MTV (http://www.mtv.com/news/1722886/nipsey-hussle-fatburger-uniforms/)
[3] Wildwest - Black (Playground X TMC) – The Marathon Clothing (https://www.themarathonclothing.com/collections/shirts/products/wildwest-black-playground-x-tmc)
[4] Nipsey Hussle Planned To Meet With LAPD About Ending Gang Violence | Vibe (https://www.vibe.com/2019/04/nipsey-hussle-planned-to-meet-with-lapd-about-ending-gang-violence)
[5] Nipsey Hussle Announces Album Date | Rap Radar (http://rapradar.com/2010/07/20/nipsey-hussle-announces-album-date/)
[6] JIROさんのツイート: "Nipsey Hussleの動画に日本語字幕をつけました。これがHipHopです。その1… " (https://twitter.com/JIROtokyo/status/1112853160450637824)

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