都合の良い女がバカを見ないという美談を『ウソ婚』で美談に終わらせたくない
さぁ、『ウソ婚』。
Sexy zoneの菊池風磨くん主演のドラマとしては、テレビ東京の春クールドラマ『隣の男はよく食べる』に続いての放送。
『隣の男はよく食べる』は24時スタートの深夜枠でしたが、今回の『ウソ婚』は23時スタートとちょっと早くなりました。
カンテレ火曜夜11時。
中島Sexy封印健人出演のテレビ朝日系火曜21時『シッコウ!!』を観て、1時間休憩して、23時から『ウソ婚』というセクシー火曜日です。
まぁ実際はTVerの見逃し配信で翌日観ましたが。
で、『ウソ婚』。
原作が女性向けコミック、と聞いてちょっと警戒していました。
いえ、だいぶ警戒していました。
『隣の男はよく食べる』が女性コミック原作で、共感して観られる層がかなりピンポイントだと思われたので、今回も同じ路線だったらどうしよう、と思って。
都合の良い女がそれ以上に努力しなきゃ対等に恋愛できないのか?
『隣の男はよく食べる』はバリキャリで30代半ばまで恋愛せず仕事一筋で来たOLが、思いがけずフリーデザイナーの10歳年下の男の子にアプローチされて付き合うんだけど……という展開。
テーマが「10歳年下の男性と本気で恋愛しても良いですか?」。
ここでずっと違和感を感じていたんですよね。
いや、この令和の世の中で、女性が10歳20歳年下の男性と付き合ったらまずいの?
相手は成人してるし児童福祉法違反でもないよね?
そして「30半ばの女性は賞味期限を過ぎているからいろいろしんどい」という描写は30半ば以上の女性にはきつかったのでは。
それが日本における女性の商品価値の現実なんだよねぇ……という。
このドラマを観たあと、10歳年下の男性と真剣恋愛しよう、と思った30半ば以上の女性がどれだけいたんだろう?
30過ぎてここまで仕事がんばってきたのに、男女関係において「理性を捨て、賞味期限が切れていることを自覚しながら盲目的に男性を信じないと恋愛の資格がない」ことを突きつけられたら、誰がいまさら。
しかもですな、このバリキャリOLさんは料理が上手い設定。
フリーデザイナーの10歳年下男はバリキャリお姉さんの作ってくれるお食事が大好き。
なに、お母さんなん?
という全女性の心の叫びを代弁してくれて、ドラマ中のバリキャリOLはちゃんと「彼にとっての私の価値って結局手料理?」という疑問を持ちます。
なのに最終回は「彼がおいしくご飯を食べてくれる今を大事にしよう」で終わっちゃった。
結局育ち盛りの息子を持つお母さんなん?
いや、演じた風磨くんが悪いのでもバリキャリ役の倉科カナさんが悪いのでも、原作やドラマが悪いのでもないと思います。
この原作が刺さる層は極端に狭く、「都合の良い女でもいいから年下の彼のそばにいたい」というしんどい恋愛が現在進行中の層にはクリティカルヒットでしょう。
だから深夜24時なんていう、偶然にテレビつけるなんてことはまずない時間帯の放送だったんでしょうし。
健気なはずなのに価値が低いとみなされてきた「都合の良い女」がダメじゃなくて長所のひとつなんだよ、というスタンスは良かったと思います。
ただ、都合が良い女という一種の努力のうえにまだ「そんな私だから一生懸命相手を信じなくちゃ幸せになれない」という結論を重ねて終わってしまったところが、不安でしかないのです。
これ、そのまま行ったらDVまっしぐらでは?
都合の良い女がそれ以上努力したら闇に落ちるという現実はどうすればいいの?という答えがないところで終わっちゃったから腑に落ちないんですよ。
さて、ここから『ウソ婚』第1話の話題に入ります。
多少ネタバレがありますのでご注意を。
こんなにがんばってるのにどうして幸せになれないんだろう?が女の悩み
『ウソ婚』のヒロイン長濱ねるちゃん、いや役名八重ちゃんはとってもとってもお人好し設定。
バスでは妊婦さんに席を譲るために実際に降りる予定のバス停より手前で降り、職場では派遣仲間が派遣切りにあったら自分が身代わりに辞めます。
結婚目前の彼に「海外に転勤になった。付いてきてほしいけど来てくれても自分のことに精一杯で君の相手はできない」と言われたら、これは別れてほしいんだと察して自分から別れを切りだすし。
いるよなぁこういうお人好し。
自分でもお人好しだなぁって分かってる八重ちゃんは、だけど皆が幸せになればいいやって思ってます。
そして自分がいつも貧乏くじを引くのは、自分の人生での努力が足りなかったからだ、と。
世のがんばりやさん女子がなぜがんばるのかというと「自分の人生での努力が足りない」と思ってるから。
努力が足りないと思う根拠は「皆は幸せなのに私は貧乏くじをひく」。
なぜ自分だけ貧乏くじを引くのかというと、お人好しだから。
お人好しがすぎるから。
お人好しがすぎる女性を「都合の良い女」と呼びます。
都合の良い女族は、心のどこかでは思ってるんです、「どうしてこんなに人のためにがんばっても幸せになれないの?」と。
だけどそんなこと思っちゃいけないと思ってる、「良い女」だから。
可愛い長濱ねるちゃんが生来の超お人好しのせいで貧乏くじを引きまくる『ウソ婚』第1話を観て、世の都合の良い女たちはテレビの前で叫んだでしょう。
「凡人たち、長濱ねるちゃんのご好意に甘え過ぎたその態度はなんじゃ!」と。
なお、妊婦さんにバスの席を譲る件では妊婦さんが凡なのではなく、その妊婦さんに身体をぎゅうぎゅう押し付けたおっさんが凡です。
お前が盾になれ。
こうして、菊池風磨と渡辺翔太目的で火曜の夜21時にテレビをつけた都合の良い女たちは、これから3ヶ月間長濱ねるちゃんの幸せを願うことになるのでしょう。
私とて、すでに風磨くんはともかくただひたすらねるちゃんの幸せを祈って観たいと思っています。
男たるものひたすら女性に好き好き言ってなんぼ
で、その風磨くんよ。
このところ悩みながら男として自信をつける系の低音の役が多かったように思うのですが、元気なトーンが戻ってきましたよ。
本人もドラマ関連のインタビューで「今回自分に求められているのは吹っ切れた演技で、そこは原作と違うかも」的なコメントを出していただけあって、陽キャでしたね。
多分原作はもっと感情見せないドSな影のある感じなのでは。
初めの配役で「どSでモテモテのイケメン若社長」って見た時に「これはただのコントになるのでは」とよぎった不安は、実際に初回を観て払拭されましたわ。
例えば風磨くんが中途半端にカッコつけてボールドの「洗濯大名」をやってたら、観てられなかったと思います。
生まれつき洗濯大名かと見えるくらい吹っ切ってたから良かったのよ。
で、今回のどSイケメン若社長は自分勝手なモテモテ男の部分はコントなんだけど、幼なじみのねるちゃんのことが好き好きなところががっつり吹っ切って陽キャ。
良かった、デザイナー10歳年下男みたいに「俺を信じてもらえないのはどうしよう」とうじうじ悩まなくて。
どうせ女遊びしまくりで信用なんてない役なので、ここはねるちゃんが自分のことをどう思ってるかどうかなんて気にせずひたすら好き好き言っててほしいところ。
『ファイトソング』の時のひたむきな陽キャよ再び。
まぁ今回は初恋が叶うのかな?
それにしても風磨くんの仕事のバディ役の渡辺翔太くんがねるちゃんに恋したらどうしよう(原作読んでないので分からない)。
その泥沼は回避してほしい、しゃれにならない。
「人のために良かれと思ってつくウソ」は結局自分のため
ねるちゃん、いや役名八重ちゃんに爆モテ若社長風磨くんが「お前、昔からウソつきじゃん」と言い放つシーンがありまして。
もしやその後に実は八重ちゃんがものすごいウソばっか言う妄想女というエピソードがあったらどうしよう、と思ったのですが、八重ちゃんウソつき発言はここで終わるのです。
お人好しで善良な八重ちゃんがウソつきってどういうことよ、と思いつつ観ていたら、ふと「あ、そういうことか!」と気が付きました。
八重ちゃんウソつき発言の真相が。
超お人好し八重ちゃんはバスで妊婦に席を譲って降りたくもないバス停で降り、同僚のために辞めたくもない仕事を辞め、彼のためを推しはかって別れたくもないのに別れよう、と言います。
(また、この彼氏が「君は結局俺のことが好きじゃなかったんだろう?」と言い出す。自分への愛を試しただけかね?めんどくさい男だな。別れて正解では)
八重ちゃんは人の幸せのためにウソをついていきます。
相手が「それはウソだ」と気づかないようなものすごい気遣いのうえで。
人を不幸にしないために自分が嫌な目に合おう、という八重ちゃんの善良さは疑うところではないです。が。
ウソをつく前提にあるのは「辛い妊婦さんを見てられない」「苦しむ同僚を見てられない」「決断を避けたがっている彼を見てられない」という、自分が相手の苦しみを見たくないという思い。
自分の素の思い(席に座って目的のバス停で降りたい、仕事を続けたい、彼と別れたくない)は他人を苦しめる、と思ってるから、苦しむ他人を見ないためにウソをつきます。
ここが都合の良い女たち共通の問題点で、「自分の本心は相手を苦しめる」から本心を殺して相手の希望を演じ、代償として気に入られようとするわけです。
ただ、他人から見れば「苦しむ他人を見るのが辛いから本心を出さない女性」は都合が良い女なので、そのままでいいよ良い人ねと放置されます。
だが、ここで幼なじみの爆モテ社長風磨くんがねるちゃんに「昔からお前はウソつきだった」と言って、ねるちゃんも反論しないところが大事な伏線。
第1話のハイライトです。振り返るハイライト。
ねるちゃんだって実はわかってるはず、お人好しは相手の苦しみに直面したくないがゆえのただのウソつきだと。それが幼なじみにはバレてることも。
が、その幼なじみの爆モテときたら、大きな仕事先を維持するために既婚だとウソついていて、そのウソを通すために八重ちゃんを利用しようとしますから。
自分の利益のためにお人好しの幼なじみを都合の良い女として利用するとはなんてやつだ!
とならなくて良かった。
爆モテが八重ちゃんフォーエバーラブで。
あまりに出来すぎた設定で韓国ドラマのようだけど、八重ちゃんの幸せのためならこの際なんでもいいです。
まとめ:思いやりがあり人の役に立つのがデフォルトの世界線があっていい
結局ここまで書いておきながら風磨くんの役名が思い出せません。
なんだったっけ?
あ、匠くんでした。
匠くんにプライドはなくていいから大事なものを守りたい感があるのがすばらしく良いです。
プライド以外に大事なものがなくてプライドを守る(あるいは守ってもらう)のに必死な雑魚、失礼繊細な男性を現実でもドラマでもさんざん見てきて、それを母のように愛し包むのがオンナの道とされてきてうんざりしている現代女性の積年の願いがここに。
ほんと男性のプライド維持が女性の腕の見せどころという時代はいいかげんに終わりにしてほしい。
グチってしまった。
八重ちゃんがウソついてまでお人好しを通すのに八重ちゃんのウソが尊いのは「相手の役に立てるなら」という思いやりがあるから。
いっぽう爆モテ匠が八重ちゃんを自分のウソに付き合わせるのがしかたねぇなぁと思えるのは、そもそもウソが自社の経営維持のためで、さらに「行き先のない八重ちゃんを助けるため」、だったらいいなぁと。
今のところ、こやつは自分のためなら人もだませて、幼なじみの弱みにつけこんで家に引きずりこむ困ったちゃんですね。
というわけで、都合の良い女の典型・八重ちゃんと今のところ自分のことしか考えてない爆モテが、「相手も自分も助ける思いやりの極意」にたどりつき、世の都合の良い女たちに福音をもたらすのかどうか。
そしてショッピーどういう役どころなんだろう。
陽キャをあきれて見守るショッピー(普段通りか?)と共に、ねるちゃんに幸多かれと祈り観続けたいものです。
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