▶︎ 環境と靴と身体 ◀︎

 靴の話となるとついつい足の話ばかりになってしまいますが、足は人間の身体の一部です。二足歩行の人間の足は地面・床と接する唯一の器官なので、地面の直接的な情報は足から全身へと波及していきます。この記事では地面や靴が身体に与える影響について書いていきたいと思います。


Ⅰ.不安定は疲れる

 まずは地面の状況が身体にどんな影響を及ぼすかを考えてみたいと思います。平らに舗装された歩道と雪道や石だらけの河川敷では、どちらを歩いた方が疲れやすいでしょうか。後者を歩いた方が疲れやすいことは簡単に予測できると思います。雪道や河川敷では転んで痛い思いをしたくないので、身体を緊張させる、重心を下げる、歩幅を狭くする、手を広げるなどの対策をして転ばないようにします。結果として心も身体も疲れてしまいます。極端な例でしたが、人間は不安定な場所を歩くと疲れやすい傾向にあるということは言えると思います。

Ⅱ.靴も環境

 靴は履くものなので身体の一部となりますが、靴の上に立つと考えると環境の一部とも言えます。そのため平らに舗装された歩道でも靴が不安定な状況を作り出す可能性があります。例えばぶかぶかの靴や足を覆う部分が柔らか過ぎる靴を履いて歩くと靴の中で足が動き回って安定しません。また靴が捻れていたり、インソールで意図しない動きを作られる場合も身体にとってはイレギュラーな出来事になりかねません。人間のバランス能力は優れているので雪道ほど顕著に現れないと思いますが、小さなイレギュラーでも身体のどこかにしわ寄せが来ている可能性はあります。もしかしたら肩こりの原因が靴にあったなんてこともあるかもしれません。環境の一部を作る人間としては責任を感じます。

Ⅲ.安定観

 では身体に良い影響を与える靴はどんな靴なのでしょう。ここからは個人の見解ですという注意書きのもと、今回は “安定” という視点で考えていきます。人間の身体は、物体としては縦長で重心が高く支持面が狭いマッチ棒のようなものなので不安定です。しかしそこに神経系や骨格筋が働きバランスをとることによって安定がもたらされます。そのため安定するには正確な情報を受け取り、それに対して適度な筋活動で応じることが必要です。人間の身体を物体として安定させたい場合には支持面を広げることは有効だと思います。しかし生体としての安定を考えると、足には体重を支える役割を担う部分があるのでまずはそこでしっかりと支えて、正確な情報のやりとりができるような環境を作ることが第一歩だと考えています。そのためには中底の設計が重要なのでかなり神経質になります。最終的には仮縫いでのお客様との双方向的なコミュニケーションの中で調整していく必要があると考えています。さらに足を覆う部分で足の遊びをどうコントロールするかという視点からも安定を考える必要があります。

終わりに

 日常生活では靴を介して立ったり歩いたりしている場面も多いので自分が履いている靴はどんな感じだろう、自分が作った靴は履いている人の身体にどんな影響を与えているのだろうと考えてしまいます。


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