▶︎ 足と靴と木型 ◀︎

 足は身体の一部であり、靴は毎日のように履くものなので改まった説明は必要ないと思います。それと比べて一般的な認知度は下がると思いますが、足と靴の間には “木型” という足型があります。靴には革靴、スニーカー、パンプスなど色々ありますが、ほとんどの場合は木型を土台にして作られていくので、足と靴と木型には切っても切れない関係があります。この記事では三者の相関関係について書いていきたいと思います。


Ⅰ.三要素の相関

 足と靴と木型は相互に循環する関係にあります。足は木型の見本となり、靴の中で汗をかいて動きます。靴は木型によって形と容量が決められ、足を受け入れます。木型は足を独特に再現しており、靴の土台となります。

足と靴と木型の相関関係

 三者のうちどれか一つでも変化すれば他の二者にも影響が及びます。例えば成長によって足が大きくなれば靴が窮屈になるので、靴の土台となる木型を大きくする必要があります。単純に言い換えると靴のサイズを大きくしたということになりますが、『サイズを変える=木型を変える』ということになります。また靴にスパイクを付ければ足から地面に伝わる力の効率が良くなるので早く走れるようになり、さらにその効果を最大限に発揮できるサイズ(木型)を選択することも重要です。このように一つの要素の変化は他者を巻き込んでいきます。

Ⅱ.それぞれの個性

 先に挙げた三つの要素はそれぞれ成り立ちの違う独立した個体なので異なる性質を持っています。中でも足は唯一の生体なので構造や運動、生理現象などとても複雑な個性があります。今回はより簡単に三者の個性を捉えるために一部分の動きに着目して書いていきたいと思います。
 足は、歩いているときには指の付け根の関節が特によく動くことが分かると思います。靴は足の動きを受けて、同じく指の付け根あたりで曲げられます。木型は靴の土台となる役割があり木やプラッチックなどの硬い素材で作られているので全く動きません。これらは当たり前のことですが、ここを整理することは靴作りの重要なポイントの一つだと考えています。

Ⅲ.個性の衝突と仲裁

 この章では前章に引き続き指の付け根の動きに着目して書いていきます。まず “動く” ということには時間の経過距離の変化が伴います。そして指の付け根は回転する動きなので運動の軸があります。これらのキーワードについて考えると三者の個性によるミスマッチが生じることが分かります。足と靴は動くので距離の変化が生じますが、木型は動かないので距離の変化が生じません。一つ目のミスマッチはこの距離の変化の有無です。もう一つは運動の軸のミスマッチです。足と靴はどちらも動きますが、運動の軸が一致しません。これによって距離の変化の方向や長さに差が生じます。


足と靴の運動軸

 靴は木型を土台にして作っていくいので、動かない木型はあらかじめこれらのミスマッチを想定して設計する必要があります。つまり木型は足を忠実に再現するのではなく、靴を履いて生活する上で起こりうることを想定して設計するということになります。このミスマッチを想定せずに作られた靴を履くと動きの中で無理が生じ、足の裏や踵が痛くなる可能性が高くなります。今回は指の付け根の動きに着目しましたが三つの要素の間にはこの他にも色々なミスマッチがあると思っています。

終わりに

 靴の作り手は対象者の足を作り変えることができないので、木型と靴から足(身体)にアプローチすることになります。そのとき目の前の身体に起きている反応を手がかりにし、足と靴と木型の相関関係を考えながら調整していくことが重要だと考えています。

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