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お気に入りのワンピースを何年も着るということ

去年記念日に着たワンピースを、今年の記念日にも出して着た。髪は伸びたしコンタクトをしてネイルもちょっと奮発して。電車で2駅のところ、栄えた通りのちょっと裏にある静かでお洒落なカフェに以前私がプレゼントした服を着た夫と行った。


衣替えのタイミングでお気に入りの服を見かけては、「記念日もうすぐだな」とか「この服を買ってあげたあの土地にまた行きたいな」とか思うようになった。お気に入りの服を何年も着るということが、思い出が繋がってこんなにもあたたかな気持ちになるなんて知らなかった。


1年に1回しか着ない、お洒落着洗いが必要で、シミがつこうものならすぐに手入れしなければならない。あぐらもかけないし、気軽にその辺に座ったりできないし、大きなリュックも背負えない「めんどうな服」を着るのが、こんなにたのしいなんて知らなかった。



最近仕事が忙しい。仕事の日は髪の毛を後ろでピチッとひとつに結んで、いつものメガネでパソコンをカタカタと叩く。コピー用紙やトイレットペーパーが届けば段ボールを開けて、潰して、廃棄置き場に持っていく。作業途中に電話が鳴れば小走りするし、とにかく動きやすさが大事。


動きやすい服が好きだし暮らしやすい。そういう服というのは、可愛くないし綺麗じゃなくて、そういうものだと思ってた。


私はとにかく服装迷子だった。


所謂女の子っぽい格好、と言うのは今ではもう古いのか。スカートやフリフリした服を着ていた幼稚園時代の写真から、小学生になるとスカートがなくなる。母と買いに行くのは"BOYS"コーナー。ショートカットが自分の髪型だと思っていて、小学時代のほとんどはショートカットだ。


中学生になり、私は"BOYS"コーナーから"MENS"コーナーへ進級した。身長が伸びるのが早く活発だったのも相まって、女子の友達から「日野ちゃんかっこいい!男の子だったら彼氏にしたい」なんて言われたりして。そんなことはどうでもいいのだけれど。


"MENS"コーナーへ進級した私も、中学校の制服はスカートを着る。この頃から、「私は女の子なのだし、もう中学生なのだし、"LADYS"の服を着た方がよいのでは」と思うようになった。母はあまり言ってこなかったけれど、父は時々「こういうのは着ないのかい?」と、彼なりにやんわり"LADYS"のスカートとか、ピチッとした感じの身体のラインが分かる服を勧めてきたりした。


着たいと思って買ってもらった服を、着たい時に、うきうき選んで着ていたように思う。ただ少しずつ「もったいない、もっとかわいい服着ればいいのに」と言われた時のもやもやが溜まっていって、それが20代の私の服装迷子全盛期に繋がっていく。


高校生になり、中学生の時よりもさらに制服のスカートを短く折って着た。好きだった、かわいいから。短く追って春や秋に大きめのカーディガンを着て、2.3センチしかスカートが見えない感じにするのが好きだった。鏡を見る度「かわい!いやぁかわいいわ、ふふふ」となるのが楽しかったから。


でも、年に1回ぐらいの頻度でやってくる"私服での集まり"で、どうしたらいいか分からなくなってくる。中学生の時の延長で「私の一張羅」を選んでみるけれど、それは"MENS"で、高校生になった15歳の私は"MENS"でいいのだろうか?と。


今は"ユニセックス"という言葉がかなり浸透してきているし、コーナーも増えてきているように感じる。でもあの頃は、"MENS"か"LADYS"か。つまり"男"か"女"、パキッと分けられていたから。「どっちかに決めなくちゃいけない」と思ってしまって辛かったんだな。


当時の私にとって、落ち着くのは"MENS"だったし、"LADYS"はなんだろう、しっくりこなかった?「私が着るものじゃない」と思ってた。


多分そう思ってた理由に思い当たる節はあって。私は周りに「日野は男だもんな!」と言われ続けて過ごしてきて、いつのまにかそれが嫌だと思い始めたことに蓋をしたまま暮らしていたら内面化されてしまったんだと思う。


なんの話をしていたんだっけ。まぁとにかく、高校生ぐらいから「年相応の"LADYS"を着なければならない」焦りと、「動きやすくて好きな"MENS"を着たい」気持ちがこんがらがって。15歳から20代が終わるまで、毎年服を買っては翌年には着なくなり捨てを繰り返した。


結婚してからはどんなテイストを着ても今年こそはと思って。今年こそは「周りがどうとか気にしない!好きな服を買って着る!」と決めたとて、強く意識しすぎてなんだか中途半端なところに着地する。


だけど一昨年と去年着た服を、今年も着てる。夏だけでもなんか急に成功した気がする。今年はあんまり服を買ってない気がする。なんでかなぁと考えてみたら、バランスよく着たかったんだと思った。


かわいくて上品で年相応なワンピースを週1回は着たい、そしてあわよくば夫に食事に誘われたい。仕事にはちょっとカチッとしたフォルムの服を着ていきたい、動きやすさはそのままに。平日休みは「🐈️」みたいなゆるっとしたTシャツを着たい、電車になんて乗れない近所のスーパーに行って残りの時間はソファでころがっているような。土日のどっちかは、少しだけ電車に乗れるけど乗らなくてもいいようなラフでお気に入りな服が着たい。


こんなバランスが私にはよかったみたいだ。年相応もあった方がたのしい、年相応を無視したってたのしい。


お気に入りのワンピース、今年もそれぞれ着よう。お気に入りのワンピースが着て出掛けたくなるように、ふざけたTシャツを着てスーパーのアイスをほおばりながらソファに転がろう。



おわり🐈️

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