見出し画像

世阿弥が書き残した「犬王」

ミュージカル・アニメーション映画「犬王」はご覧になりましたか?

主役の犬王は観阿弥・世阿弥と同時期に活躍した実在の能役者です。

犬王は観阿弥や世阿弥が活動する大和(現在の奈良県)猿楽ではなく、近江(現在の滋賀県)猿楽の比叡座に所属していました。永徳二年(1381年)北野神社で犬王の能が行われた時、観客が拝殿の屋根にまで上がったという記録があるほど、その芸には人気がありました。

後に道阿弥(どうあみ)と名前を変え、応年20年(1413年)5月9日に亡くなったと言われています。(『常楽記』より)

映画「犬王」の原作は、古川日出男氏の「平家物語 犬王の巻」です。
映画で能楽監修を担当された宮本圭造氏(法政大学能楽研究所教授)にコメントをいただきました!

「歴史上の犬王は優美な芸風で人々を魅了し、世阿弥にも多くの影響を与えました。今回監修を務めるにあたり心掛けたのは、まだ古典芸能と化していない時代の能の躍動感を感じていただくということ。
能楽堂の閉鎖的な空間ではなく、四条河原や参詣客でごった返す清水寺、あるいは金閣を思わせる水上舞台などで繰り広げられる犬王の圧倒的な舞台をお楽しみください。

能を見慣れた方からすると、あまりに斬新でファンタジーに富んだ舞台に驚かれるかもしれませんが、ところどころ室町時代の能の上演形態を忠実に復元して、現在の太鼓台の代わりに太鼓持ちの役者を登場させるなど、学術的な考証もさりげなく織り交ぜています。
そのあたりにも注目していただけるとうれしいなと思います」

世阿弥の伝書から犬王とはどういった人物像だったか、一部ご紹介します。

●「却来華」より

「天女の舞、舞の本曲なるべし。是を当道に移して舞事、専らなり。近江の犬王、得手にてありし也」

犬王は、世阿弥の伝書から、舞が得意だったことがわかりますね!

●「申楽談儀」より


「申楽談儀」は世阿弥の息子・元能(もとよし)が父の言葉を書き記したものです。

「犬王は、毎月十九日、観阿の日、出世の恩也とて、僧を二人供養じける也。観阿、今熊野の能の時、申楽と云事をば、将軍家御覧初めらるゝ也。世子十二の年也。」

犬王は毎月十九日、観阿弥の命日に、自分が世に出ることができた恩人のためにと、僧を二人呼び供養をした。将軍家がはじめて猿楽をご覧になったのが、観阿弥の今熊野の能だからである。このとき、世阿弥は十二歳であった。(『現代語訳 申楽談儀』より)

映画では破天荒で独創性の強いキャラクターとして描かれていますが、たいへん律儀な人物でもあったようです。

現代語訳 申楽談儀 

こちらの『現代語訳 申楽談儀』では犬王のことを書いた部分もありますので、ぜひご覧ください。

映画「犬王」は、能楽実演監修に亀井広忠師、ほかにも現在活躍する能楽師が参加しています。

和楽WEBさんに「犬王」のインタビューがありました!
こちらもあわせてご覧ください。
「犬王」とは何者か?アニメ監修を担当した研究者と能楽師に聞いてみた

まだご覧になっていない方は、ぜひどうぞ!

世阿弥時代の能は、現在演じられているスピードより、3倍くらい速かったのではないかとも言われています。現代から遠く隔たった世阿弥時代の能に思いを馳せてみませんか。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?