異世界で第二の人生謳歌~0~

あばよ!世界!



その日、俺は大空に舞った。

様々な人に注目されている高揚感!この世の全てが過去のしがらみであったとすら思える解放感!自分が自然と一体になったかのような爽快感!

今まで感じたこともないような様々な万能感に包まれた瞬間だった。



そうか、こんな俺でも、こんな感情を抱けるのか・・・・・・

こんな感覚、長らく忘れてたなー

悪くない最期だ!



その数瞬の後、中村 耀介(なかむら ようすけ)としての生涯が幕を閉じた。

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走馬灯

とある田舎町に生まれ、パッとしない人生を送ってきた。
家は町でも珍しくない兼業農家。
貧しさを感じることもなく、どちらかというと中流レベルの生活水準。
欲しいものは何でも、とまでは言えないが比較的色んな物を買い与えて貰えたような気がする。

しかし、何かが満たされなかった。
両親と同じように、稼ぎに出て休日は家の農作業に従事する。
それが、この町ではごく普通。
誰もがそう生きる。
それが安定した幸せ。

そんな人生何が楽しい?
そんな生活で俺は満たされるか?
幸せじゃなくてもいい。
安定しなくても、苦しくても、心が満たされた生活を送りたい。

そういう想いが芽生えたのは、いつだったろうか……
読書という趣味を覚え、空想妄想の世界を貪るように求め始めたのがきっかけだったように思う。

俺も自分の妄想を形にして、真に心が満たされた人生を送りたい。

しかし、現実はそう上手くはいかないものだ。
こんな願望が叶えられるのは、所詮夢物語。
俺の恋い焦がれた、あの長方形の紙の束だからこそ成立する話。

跡継ぎになんか、なりたくない。
自分のやりたいことをしたい。
ある日思いきって、両親にそう告げてみた。
すると当然のごとく

「夢の為に生きるなんて時間の無駄だ。安定が一番幸せなんだ。馬鹿みたいなことを言わずに現実を見ろ。」
「跡継ぎとして生きないなら、お前は家の子としては認めないぞ。」

と返された。
そりゃそうだ。
みんなそれが常識として、疑わずに生きてきて、そこから外れた人間は、非常識の異端として扱われるんだから。
自分の子が異端児だと、世間体も悪く、自分達の居心地も悪くなる。
俺への風当たりが強くなるのも、親としては辛いことだろう。

子どもでも、そんなことは理解できた。
だからこそ苦しかった。
心の底から悔し涙を流した事なんて、後にも先にもあの一回きりだった。

そこからは、自分を捨てた。
感情も、人生の選択も。
全て、親や周りに任せてきた。
もちろん完全には無理だったが、意識的に周りに委ねる事で、無意味な人生の時間を消化していった。
進学先も就職先も、周りの意見に流れるように適当に進んだ。

でも、飽きが来たんだなー。
だって、そんな人生なら自然に死ぬまで待つってのが、一番時間の無駄なんだから。

ある朝、目覚めた瞬間急に
「よし、死ぬか!」
って、気持ちになった。
何か嫌なことがあったわけでもない。
ごくごく自然に、たまに家の大掃除しようと思い立つ時と同じぐらいのテンションで、この人生終わらせようと思った。

で、近くのビルまで歩いて行って、高所恐怖症の俺がビビることもなく、まるで散歩するかのように翔んだ。

最期だけは死ぬほど痛かった……
まあ、実際死んで、痛みもほんの一瞬だったけど……

あーどうせなら、一時期読み漁ったラノベのように異世界転生とかしちゃって、魔法なんか使えちゃったりして、今度こそ自由に人生歩んでみたいなぁ……

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