#2303282
「今年もお疲れ様」。アサヒ生ビールのCMが年末の風景を切り取る。充実した1年を過ごした若者が、満ち足りた笑顔で乾杯をしている。
知ってる。あれは、購買意欲を刺激するためのフィクションに過ぎない。でも、画面の向こうがまぶし過ぎて、彼女は、TVから目をそらして天井を見上げる。
4人定員の病室のカーテンの向こうからは、音もしない。この1年頑張れなかった人たちの年末の時が過ぎてゆく。手持ち無沙汰に彼女は、目薬に手を伸ばす。
「ここか」と狙いを定めて絞った薬液の1滴は、瞳を外れあえ無く頬を流れ落ちてゆく。遠い。自分の体なのに、遠い。世界は、年年、遠ざかってゆく。
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