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こんにちは

こんにちは、と出迎えてくれたTさんの声は、むしろ息のように微かで、へん桃腺を辛うじて通過してきた空気の音がした。「カゼですか?」。

「昨日、飲んで、騒いで、その後カラオケ行って、朝起きたら、こんな声でした」。Tさんに同情し掛けていた自分を笑う。「遊び方が、若いですね」。

「炎症が治まるまで待つしかないって医者にいわれて」。Tさんが排出する空気の音が途切れ途切れする。「無理して話さなくていいですよ」。いよいよ笑う。

私たちの間に沈黙が流れて、私は、この人への愛着を口にはできずに、そして、「この人と、例えばもっと若い頃に出会いたかったな」と夢想する。

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