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ザ・ハーダー・ ゼイ・フォール:報復の荒野

※2021年11月に公式LINEにて配信されたコラムを編集し再掲したものです。

親愛なる友だちへ、ひねもです。

今月公開された”ザ・ハーダー・ゼイ・フォール:報復の荒野”を観た。

ラッパーのジェイ・Zがプロデュースし、ウィル・スミスの会社が制作したというほぼ黒人しか出てこない異色の西部劇。

最新のヒップホップがガンガン流れて、西部開拓時代に実在した人物たちがたくさん登場する。

音楽は文句なくカッコいい。

しかし歴史上の人物が時系列めちゃくちゃに登場するのはどうなんだろう...と思って観てましたが

“これはテレビゲームで言うところの大乱闘スマ ッシュブラザーズだ”

というコメントを見て納得。


細かい事は抜きにしてマリオもゼルダもピカチュウもドンキーコングも同じフィールドに出てくるのって最高じゃん!って。

オールスターキャストシステムだ。




観ていて黒人がカウボーイ?ガンマン?と違和感を覚えてしまうのがこれぞ白人側による刷り込み。

それは昔の西部劇の影響によるところが大きい。

実際の西部開拓時代は3~4人に1人は黒人の力ウボーイが居たらしい。


“カウガール”もいた。

ちなみに混同しがちだがカウボーイとガンマンは全く違う職業。

カウボーイ=ガンマンではない。

”ガンマン”という専門職は無く、銃の扱いに長けた人がそう呼ばれただけ。

ちなみに“ガンマン”と呼ぶと悪党のイメージが強く、アメリカ本国では通常は”ガンファイター”もしくは”ガンスリンガー”と呼ばれる。

このコラムでは以後も日本風に”ガンマン”と呼ばせてもらう。


ガンマンの職業はバラバラ。

有名どころで言えばワイアット・アープやパット・ギャレットは保安官、ドク・ホリデイは歯科医、オールド・マン・クラントンは牧場主、バッファロー・ビルは興行主。元軍人も多い。

ブッチ・キャシディやサンダンス・キッド、ビリー・ザ・キッド、ジェシー・ジェイムズなどは無法者だが毎日ずっとドンパチやっているわけではない。

元々は農園で働いたり、狩猟(バッファロー狩り)や、駅馬車の御者をしたりと様々な仕事をしていた。

賞金稼ぎというキャラクターも西部劇にはよく出てくるが、実際は専業ではなく何らかの仕事と兼業だったのではないだろうかと思う。

そうした生活の中で銃を使った強盗や決闘などで活躍したことで”ガンマン”として名を馳せただけ。


“カウボーイ”は牛を集めて遠く離れた場所まで運ぶ職業。

市場や大陸横断鉄道の中継地である街までなどの移送を請け負う。

移動には何日もかかる。

道中は過酷で牛泥棒や強盗に襲われる危険性があり、またバッファローを狩るためなどの理由から銃を携帯する場合が多かった。

ちなみに牛を育てる人や、牧場で働く人をカウボーイと呼ぶ事は当時はなかったらしい。

西部開拓時代が終わるとカウボーイはノスタルジックなロマンをかきたてる存在として劇や小説の主人公として取り上げられるようになる。

後世の創作物からのイメージで”カウボーイ=ガンマン”や”カウボーイ=白人”と刷り込まれてしまっている。

先程も書いたが実際には6000-9000人ほど黒人のカウボーイもいたらしい。


最近、1800年代中頃のゴールドラッシュや捕鯨を題材にした本を何冊か読んだ。

それらを読むとアジア系の人もたくさん当時の港町にいたらしい。

なので、もしかしたらアジア系のカウボーイやガンマンもいたのかな?とも思うのです。

後世に伝わらなかっただけで。


実際の西部開拓時代の話しはこれくらいにして西部劇に話しを戻す。


“ジャンゴ繋がれざる者“は黒人カウボーイが主人公

”マグニフィセントセブン”ではアジア系のナイフ使いが大活躍

数は少ないがこういった作品もある。

観てはいないが、他にも”デスペラード・イン・ウエスト”や”黒豹のバラード”など黒人ガンマンが登場する作品はいくつかあるらしい。

今回の”ハーダー・ゼイ・フォール”は登場人物が黒人ばかりという新感覚の西部劇。

ストーリー自体は極めてオーソドックスな西部劇で、主人公は両親を殺した悪党に報復する。しかし、その悪党が実は兄弟で…という。

歴史上の実在した人物たちが架空の物語の中で大暴れするというのも見どころのひとつ。

また、白人が住む街は建物も全て真っ白だったりと随所に皮肉も効いている。

銀行強盗のシーンで白人達を壁に集めてピストルを向けながら主人公ナット・ラブが

”時代は変わったな?だろ?“

と問いかけるシーンは鳥肌が立った。

あとはラストの負の連鎖を立ち切るところ。

時代の歯車がガチンガチンと動いた音が聴こえた気がします。

いつかきっと黒人もトランスジェンダーもインディアンもアジア人も違和感無く登場する西部劇が観れるようになるのだろう。


ブラザー&シスター、世の中は複雑で難しい。
そして素晴らしい。

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