年の瀬にまさかのダークホースが追い抜いた2022年映画ワースト10

2022年ももう終わり。ということで恒例の映画ベスト20……の前にワースト10をあげます!

いや本当、映画の順位のワーストの方をあげるなんて趣味悪いよなと我ながら思うんだけど、でもやるんだよ!ほらね、年明け前にいろいろとすっきりしたいしさ……。

そんなわけで自己満足以外のなんでもない2022年ワースト映画10スタート!好きな映画があったらごめんなさい!↓

10位 死刑に至る病

世間的にはなかなかの好評、配給会社クロックワークスの単独配給作品としてNo. 1の興行収入10億円を超えたこと、若者がこの映画を観て危ない大人にちゃんと警戒心を覚える内容なのは喜ばしいけど、後半の展開が面白みに欠けるし、ラストのオチも全く個人的な好みではなかった……白石和彌監督なら表面上のグロさよりももっと心を抉るような作劇と演出にできたと思うんだけどな。
あと岩田剛典の役どころが勿体無い。ガンちゃんの良さをもっと活かしてあげて…!

この映画の良いところ:PG12指定ギリギリな残酷描写、阿部サダヲを筆頭とした怖すぎる役者陣の演技。

9位 TANG タング

ピンチの作り方がいちいち野暮ったい、主人公の問題がメインの冒険とあまり絡まない、AIを扱ったSFとしても表面的、展開そのものが説得力不足と、チャレンジ精神の足りない脚本がイマイチな一本。クライマックスの「究極の選択」も「そういうことじゃないでしょ」と冷めてしまった。
作り手の生真面目さは伝わるので別に腹が立ったりはいないし、日本映画で本格SF活劇に挑む姿勢は応援したいし、二宮和也の演技が素晴らしかっただけに、もう少しなんとかして欲しかったなぁ……。

この映画の良いところ:コーヒーのくだりは微笑ましくて大好き。ブレードランナーっぽい街並みのCGも素晴らしい出来。クライマックスのあの有名俳優のハッチャケぶりも良かった。

8位 東京2020オリンピック SIDE:A/SIDE:B

ナレーションなしのストイックな作風なのはいいけど、いかんせんどちらも構成が退屈でどちらも普通に面白くないのが残念。いっそ『ザ・コーヴ』的なイヤな主張があることを期待していたら、そこもまあまあ無難な落とし所だし……。
コロナ禍の緊急事態宣言下でも五輪を強行する、あの異常な空気に満ちていた状況が、それなりにフラットな視点で描かれていたことは評価されるべきだと思うけど……そもそもの問題として、それを今さら映画館で観たくないとも思ってしまったかな。

この映画の良いところ: SIDE:Aのラストの「あの表情」には感動があった。 SIDE:Bのとんでもないオチも一周回って嫌いじゃない。

河瀬直美監督『東京2020オリンピック SIDE:A』上手いが危うい手法|日刊サイゾー
『東京2020オリンピック SIDE:B』良い意味で気味が悪い|日刊サイゾー

7位 ベイビー・ブローカー

まさか大好きな是枝裕和監督作をワーストに選んでしまうとは…!物語運びも演出もなんぼなんでも地味すぎて盛り上がらないし、赤ちゃんポストという社会的テーマを扱った作品としても表象的で、物語も含め「ぼんやり」とした印象が何よりも残念。
赤ちゃんの世話に悩んだり苦労するシーンがほぼなく、「シフト制で決めよう」というシーンだけがあるというのもなんだかなあと。『誰も知らない』であれだけ良い意味で辛い生活描写ができた是枝監督なら「もっとやれる」と思います。

この映画の良いところ:ほのぼのロードムービーっぽい雰囲気自体は好き。

6位 PLAN75

「75歳になると生死を自分の判断で決められる」という問題のある法案が反対意見があったはずなのに粛々と進められて、可決されても人々もなんとなく従っているという印象はリアルで良かった……のだけど、その淡々とした中でそれ以上の問題にあまり踏み込まないため、めちゃくちゃ退屈に感じてしまった一本。せっかくの盛り上がりどころのクライマックスも、強引で納得できないよ……!
あえて劇的な物語にしない方向性もわかるけど、それでも世間的に可決されてしまうほどの法案の魅力、その逆の倫理的に許されざる部分、その両方を劇中でもっと示してほしかったです。

この映画の良いところ:倍賞千恵子を筆頭とする役者陣、閉塞的な画作り、オープニングの惹きつける展開。

5位 バイオレンスアクション

試写で見ていたけどどうあってもポジティブな感想が言えなかったので完全に黙っていた一本。しっかり体術を見せないまま「早回し」をしてしまう、バトルに勝つ最低限のロジックの構築もできていない、とにかくアクション映画として致命的な内容。
原作漫画もちゃんと読んだけど、表面的な再現だけしていて後はおざなりで、映画オリジナルの物語部分にも納得できないという典型的なダメな実写映画。ギャグもだいたい滑ってた。

この映画の良いところ:言動が短絡的でサイコな城田優の存在感は一見の価値あり(これだけで下り幅が5位にとどまる)。ラストの落とし所自体は好き。

4位 ホリック xxxHOLiC

原作漫画を冒頭部くらいしか読んでいない身でも、原作ファンの落胆が伝わってくる内容。極端な役柄が多いとはいえ、これだけ実力派の役者陣が揃っているのに、なんでこんなにもキャラに魅力がなく、物語運びにも訴求力がないの?という疑問の答えは、ほぼ全てが「舞台的すぎる」からですね。それが見続けるのが辛いレベルにまでなってしまっている。
比べるのも申し訳ないけど、神木隆之介×松村北斗の組み合わせは『すずめの戸締まり』と一緒になのになあ……。最近は素晴らしい実写映画化作品が相次いでいるので、本作と『バイオレンスアクション』の監督には、自分の好きな作品を任されませんように。

この映画の良いところ:色合いが鮮烈な美術が素晴らしい。舞台で観たら素直に評価できたと思う。

3位 ファンタスティック・ビーストとダンブルドアの秘密

すみませんね…すみませんね(ファンタビファンへの怯え)。自分はジェイコブとクイニーのカップルが大好きなので、前作のあのラストから「一体2人はどうなっちゃうの〜!幸せになってほしい〜!」と首をながーくして待ってから観た結果、すごく雑なものをお出ししてきたので腹が立ってしまった
娯楽映画としてもぜんぜん出来が良くなく、終盤のカバンのくだりとか(相手に気取られないためとはいえ)作戦として意味不明だし、話運びもピンチの作り方もやっつけに思えてしまってぜんぜんハラハラしなかったよ……あまりヒットせず続編が打ち止めの可能性が高いようですが、ここで終わってもまあいいや的なまとめ方は良かったです(シリーズへの興味を失ったから)。

この映画の良いところ:ジュード・ロウとマッツ・ミケルセンの演技と愛憎入り乱れる関係性は大好き。クライマックスの舞台も良い。

2位 大怪獣のあとしまつ

2022年の映画界での話題をおおむね悪い意味でかっさらった作品。ギャグがつまらないだけでなく、女性蔑視的だったり外国への差別的なものもあってめちゃくちゃ不愉快。以下の記事で「伏線回収がわかりやすすぎる」と書いたけど、ギャグだけでなくその伏線の一部も「あれどうなった?」「知らね」な感じで投げっぱなしジャーマンしてくれるので、失望は怒りへ、やがて憎しみへと変わっていく感情の流れを構築してくれて実に素晴らしかったですね(般若の顔になりながら)。
いっそのことナンセンスコメディとして突き抜けてくれたら良かったのに、そこも「中途半端」というムカつきワードも示してくれてもう完璧。でも三木聡監督は同年公開の『コンビニエンス・ストーリー』はわりと面白かったです。

この映画の良いところ:リッチな画でナンセンスなことをするアプローチは理解できる。山田涼介や土屋太鳳など豪華役者陣は好演。あのオチも「悲しい選択」として解釈できなくもない。

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1位  Dr.コトー診療所

※以下、クライマックスがネタバレしているので、この映画をこれから観ようと思っている方は読み飛ばしてください。

大怪獣が「2022年ワースト1位決定!間違いない!」とスガスガしく思っていたら、それを年の瀬に追い抜いてくれるダークホースが現れるとは思いもしませんでした。
現実のコロナ禍ではより切実さが増している、医者の過労および医療現場の労働環境の問題を提示し、自己犠牲的な精神への批判も込められている、なるほどそれほどは現代的なテーマだと思っていたら、白血病が判明した医者がぶっ倒れながら重病人の手術をして(するな!)周りがそれを「頑張れ!頑張れ!」と根性論を持って囃し立てるこの問題提起からすれば最悪の展開に。医者は過労しても病気になってもただ頑張るのが尊いってか?今作られる映画だからこそ、そう受け取られる展開は絶対に避けなきゃダメでしょうよ!このクライマックスそのものにツッコミきれないほどの雑さがてんこ盛りでどうしようもない。
自分は常々、創作物で「ぜんぜん良い話じゃないのに良い話『げ』にする」「何も解決していないのに解決した風にする」演出が大嫌いだと思っていたら、本作のあのラストもそんな不誠実さに満ち満ちていて見事に当てはまりましたね。真面目に怒られてほしい。

この映画の良いところ:ロケーションが美しく、豪華俳優陣の演技も良い。ドラマを観ていなくても理解できる作りにはなっている。

その他、世間的に評判がよくない『嘘喰い』『モービウス』『バイオハザード/ウェルカム・トゥ・ラクーンシティ』『ジュラシック・ワールド/新たなる支配者』『雨を告げる漂流団地』『“それ”がいる森』『貞子DX』あたりは、正直自分もダメなところもあるとわかっていながらも好きな映画ですね。なんだか憎めないので。

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そんなわけで映画ワースト10は以上。2022年映画ベスト20はお正月にあげます!良いお年を!
※(追記)書きました↓
「仕事」もテーマになってくる2022年映画ベスト20|ヒナタカ|note


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