雨の匂い
『雨が降るとなぜか気が滅入るんだよな…』部屋の中から窓の外を眺めているとふと昔のことを想いだした。
『そう言えば…昔は雨が好きだったっけ…』
子どもの頃って、お気に入りの長靴をはいて、お気に入りの傘をさし、お出かけするのも楽しかったし、ちょっとくらい濡れるのも平気だった。
それがいつの頃からか「雨って嫌だな…」と思うようになり、だんだん気が滅入るようになった気がする。
「その境目ってどこからだろう…」そんなことを考えながらコーヒー片手にベランダに出て外を眺めていると雨の匂いがした。
ちょっと気になったので調べてみると雨の匂いのことを「Petrichor(ペトリコール)」というらしい。語源はギリシャ語の「石を意味するpetro(ペトロ)」と「神々の体内を流れている霊液」を意味するichor(イコール)」の造語からできた言葉でギリシャ神話の中ではオリュンポスの不死の身体に流れる「神血」をさす。
「そうか、雨の匂いは神様の血の匂いなのか…」しとしとと降る雨を見ながらホットコーヒーをすすっていると
「なにしてんの?はい、線香花火」突然彼女が後ろから近づいてきた。
『そうだ、君がいなくなったあの日から僕は雨が嫌いになったんだった…』
視線の先で今にも消えそうな線香花火の光がゆらめいていた。
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