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身分詐称

「ヒロミツくんももうすぐ社会人だねぇ。」
「そうですね~。実家の方に帰ることになりました。」

あと1年通う予定だった行きつけの美容室を僕は失った。
1年目の留年が決まった時はあと1年お世話になります~なんてヘラヘラしていたが、留年はせいぜい1年だという認識を当たり前のように突きつけられて、とっさに来年度からの身分を詐称してしまったのだった。

在学6年目の春。幹線道路沿いのかつて行きつけだった美容室をバイクで過ぎ去って駅前の美容室に行く。

「就職活動中なのでさっぱりした感じでお願いします。」
「学生さんでしたら割引しますね。」
「あー...いや、大学院生なんです。」

事前に学生割引があることは確認していたが割引対象が22歳以下だったのでネット予約の際に通常料金を選択していた。就職活動をしているということから大学4年生(22歳)だと思われたのだろう。
初回入店時に書くアンケートを見れば僕が22歳でないことは明らかなので大学院生ということにした。

今日も僕はかつて行きつけだった美容室をバイクで過ぎ去って駅前の美容室に行く。

「今日はお仕事おやすみですか?」
「あー...コロナでリモートなので結構自由なんです。」

初回の来店から2ヶ月。2度目の来店となったこの美容室で、案内された椅子に座るなり僕は社会人になっていた。


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