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無愛想と微笑みのギャップ、大戦の歴史

もう一度行きたい国を聞かれたら、間違いなくトップ3に入るのはポーランド。特に、趣ある町並みが心地よいクラクフ(Krakow)の街を挙げるだろう。
初めての東欧、旧社会主義国。留学していたオランダが属する北西ヨーロッパとは、国民性も文化も大きく異なる国。

振り返れば、思い通りにいかないことの多い旅行だった。オランダからの飛行機は遅延に遅延を重ね、予定より7時間遅れて到着したり、急遽予約したホステルに酔っぱらいが乱入して騒ぎを起こしたりと、話のネタは尽きない。

それでも、一番印象に残っているのは、ポーランドの人々の無愛想な接客と、私がつたないポーランド語で「ありがとう」と伝えたときのにやりとした微笑みのギャップだった。

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オランダをはじめとする北西ヨーロッパでは、笑顔が一つの武器になる。オランダ語が話せなくても、レジの店員にニコっと笑って「Hi」と話しかければ、大抵は同じように返してくれる。
旅行先のイギリスでも、フランスでも、なんならアジアやアメリカでも、私はこうやって現地の人とコミュニケーションの足がかりを作ってきた。しかし、ここポーランドは初めてその「笑顔」が通用しない国だった。



チケットのやりとりや、レジでお金を払うときの、なんだか釈然としないかんじ。「コミュニケーションを取れた」という実感が得られなくて、今までに感じたことのない文化だった。
不快だったというわけではなくて、初めての体験にびっくりしていた。「笑顔でやり過ごせない国なんだ、ここは」という発見。西欧と東欧の違いは?と聞かれたら、私は真っ先にこの点を指摘するかもしれない。

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ポーランドという国は、ドイツとソ連という大国に挟まれて、常に侵略の危機にさらされ続けた国だった。首都のワルシャワにある「ワルシャワ蜂起博物館」で見た地図は、ポーランドが辿った苦難の歴史を物語っていた。
時代によって敵国が変わり、戦火に翻弄され続けてきた国。初対面の笑顔が通用しないその国で、博物館で学んだ歴史に一人で思いを馳せていた。

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旅行の際には、できるだけその国の言語の「ありがとう」を覚えて行くようにしている。ポーランド語では、「Dziękuję(ジェンクイエン)」。(音声を聞いてアクセントも覚えるのがコツ)
英語でやり取りしている間は無愛想だった店員も、最後に「ジェンクイエン」と言うとニッと微笑んでくれた。この瞬間、「ああ、やっぱり旅行っていいな」と思う。実際に足を運んで、現地に放り出されるから得られるささやかな達成感。

異国の地で、どんなに小さくても「自分でできること」が増えていくのが、旅の醍醐味だと思う。
次にポーランドを訪れるときは、どんなコミュニケーションが生まれるだろう。次はもう少しだけ、挨拶を覚えて行こうかな。

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