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感想「ワンパンマン 原作第126~128話」

ワンパンマンの原作が更新されていました。これは非常に嬉しいです。いち漫画読者として、不定期更新の最新話ほど嬉しいものはありません。ましてこの「ワンパンマン」、web展開されている数多の漫画の中でも、最高に面白い作品です。

まずは紹介からさせてください。

・あらすじ

趣味でヒーローをやっている者、サイタマ。

怪人を倒すために鍛え過ぎたサイタマは、どんな怪人でもワンパンチで倒す張り合いの無い日々に懊悩していた。そんな中、自分と同じように怪人に立ち向かうサイボーグの青年ジェノスに出会い、次第にこの世界を取り巻くヒーローと怪人の構図を知る事になる。

しかしどんなに状況が変わろうと、どれほど世界が広くなろうとも、サイタマに匹敵する悪はいない。どんな怪人も適わない最強のヒーローの活躍劇。

・魅力その1、主人公が最強

この漫画の最もシンプルかつ特徴的な部分は、主人公のサイタマが最強である事です。

もちろん登場人物は、サイタマの他にもたくさんいます。

超能力者、武道家に剣士、天才科学者、不死身にロボットと、魅力的な味方ヒーローが目白押しです。

敵もただ腕っぷしが優れているだけではなく、ビジュアルからして不気味さと生理的恐怖感を与えてきたり、はたまたコメディー系の弱そうな化け物がとんでもなくトリッキーな動きをしたりと、非凡な発想から生まれた「怪人」として、驚異の存在として作中で活躍します。

が、あくまで最強はサイタマです。どんなに意外な展開が訪れようとも、それだけは全く揺らぎません。

根本的な話、主人公がいればどんな怪人も脅威ではありません。通常のバトル漫画なら、これほど興ざめなお話も無いでしょう。

ですがこの漫画、主人公以外のサブキャラが非常に魅力的であるため、主人公抜きにしろ、主人公が戦いの場に台頭するにしろ、面白いです。

何より、強さよりも心構えや精神の救済が求められるシーンも多く、ヒーローとはかくあるべきだ、という思想が作中で何度も登場し、単純な戦闘だけが見どころではないので、強くない人物も場合によってはサイタマ以上に大切な役割を果たしたりします。

この辺りは、実に王道の少年漫画と言えましょう。

型破りな設定が命題にありながらも、出オチになっていない良い作品です。

・魅力その2、バリエーションに富んだバトル描写

サイタマは鍛えた拳や肉体を武器に単純なパンチやキックのみで戦います。彼は最強なので、戦いに創意工夫を見出す必要が無いからです。

なのでともすれば単調になりがちなバトル描写ですが、その実非常にバリエーションに富んでいます。サイタマ以外の戦闘が魅力的に描かれているからです。

ヒーロー側も怪人側も、いろいろな戦い方をする人物が登場する兼ね合いで、群像劇のような様々な視点からバトルが展開されます。

単純なバトル漫画として見ても、非常に上質だと思います。

・魅力その3、非常に特殊な世界観

ワンパンマンの世界に蔓延る悪である「怪人」にはルーツがあります。例外もありますが大抵の場合、人間や動物、無生物などが悪意を持った個体に生まれ変わって怪人になります。特に人間の変異に関しては、「カニを食べ過ぎた」「電灯のヒモでボクシングをし過ぎた」などと言った非常に適当な理由から怪人化して、他人に危害を加える邪悪な存在になってしまいます。

その成り立ちは一見ギャグですが、よくよく考えると非常に恐ろしいです。どんな身近な悪よりも、いつの間にか自分が悪側に変異するかもしれないという恐怖は、決して小さくないでしょう。

そして事実、そういう悩みを抱える人物も登場します。

人間が簡単に怪人になる世界観は時間が経つごとに、段々とその混沌さを増していきます。

怪人の凶悪さ、強さの極端な増加。

人間対人間の構図。

神の存在。

先の読めない不穏な世界で繰り広げられるヒーロー対悪の王道的展開は、非常に面白いです。

総評

少年漫画として、読者が求めるツボを非常に心得ていて、しかもそれを的確に実践しているような漫画だと思います。国内でも有数の面白さを誇るこの漫画、既に知名度は非常に高いですが、さらに広まってほしいと思います。

私的好感度:97/100、オススメ度100/100

と、紹介はこんなところです。

さてこのワンパンマン、少し話がややこしくなるのですが、現在この漫画、二つの連載形態が同時に取られています。

一つは原作者ONE先生が作画も務める「原作版」。

もう一つはとなりのヤングジャンプで「アイシールド21」の作者である村田雄介先生が作画を務める、いわゆる「リメイク版」。

リメイク版は原作版の焼き直しのようなものなのですが、ONE先生が原作版で描き切れなかった描写が非常に濃密に描かれています。作画の村田先生は恐ろしいほど画力が高いため、とてつもない迫力の漫画が楽しめます。もっとも、その分連載テンポが非常に冗長だという見方もありますが。

一方で原作版は、未だ不定期で連載中です。

ファンとしては、どちらもチェックしておきたいところです。

さて、今回更新されたのは原作版。

以下、ネタバレ注意!

・126話

ヒーロー協会の対抗組織として立ち上げられたネオヒーローズが、いよいよ戦闘を開始します。うさんくさい組織ですが……

冒頭で戦っているの「大哲人」は、リメイク版の単行本収録エピソードにて、童帝が戦闘力を測る機械を製作した回に登場したA級ヒーローですね。こうしてリメイク版の人物が原作版に登場すると、二つの作品がリンクしているのが分かってちょっと面白いです。いや、同じ作品なので当然といえば当然ではあるのですが。

その回にて、大哲人はA級における実力者、スティンガーよりも高い身体能力の持ち主であると判明しましたが……それでも災害レベル虎複数が相手だと勝てないというのは、かなり世知辛いですね。

そこに颯爽と登場するネオヒーローズ。装備の力は圧倒的なようです。

……というか、戦っているネオ微炭酸BOYSって、ガロウ編終了後にアマイマスクの後輩としてデビューしていた生意気なC級ヒーローでしたっけ。あんな適当なヒーローでもスーツさえ着れば強くなれるというのは、なるほどヒーロー協会よりも強力な組織というのも納得です。

しかしこれでは、ヒーロー協会のA級以下ヒーローの活躍の場が無さそうに思えます。彼らはネオヒーローズ編で淘汰されるだけのキャラになってしまうのでしょうか。いや、彼らもスーツを着ればまだ……

という事で126話では、ネオヒーローズの躍進が見られました。この回は物語においてネオヒーローズとヒーロー協会との差を描写するためには確かに必要な回ではあるのですが、同時に少し冗長な回でもありました。

そういう意味では、3話連続更新というのは非常に理に適っているやり方だと思います。必要だけどどうしても尺を取ってしまう回を連続更新の中に入れ込める事によって、読者側がその冗長さに辟易しないという効果が見込めます。ONE先生、プロとしてよく考えた構成をされています。

・127話

126話の続きですが……段々と流れが不穏になっていきます。

連携して危なげなくレベル鬼を倒した元自警団の活躍までは前回までと変わらずネオヒーローズの強さをよく示していますが……

暴力団組長リュウモン率いる武闘派集団は様子がおかしいようです。

明らかにヒーロー協会側のヒーローの敗北を待った上での活躍。そしてそれまで戦っていたヒーローをこき下ろすなど、ヒーローとしてあるまじき姿が描かれています。言った人物が元々褒められた人格者としてのリーダーではないのですが、それを差し引いてもネオ側に不審を覚えるシーンです。

この漫画では無免ライダーをはじめとして、強くなくとも勇気を振り絞った人物が正しいヒーロー像として描かれています。メタ的に見て、ネオヒーローズの綻びが見えてきました。

スイリューもいました。

スイリューはリメイク版からの逆輸入キャラですね。リメイク版では当初ちゃらついた性格でヒーローを見下す気質だったのが、怪人の襲来を通じて真面目にヒーローを目指すように変わります。

原作版ではそのエピソードが無く、相変わらずちゃらついた性格をしているようですが、怪我人の有無を配慮したりと、真っ当にヒーローをしているようで、必ずしもリメイク版の更生前と同じとは限らないようです。ネオヒーローズのリーダーで逆輸入キャラは彼だけなので、今後の同行が気になるところです。

さて次は、資産家のゼイダッツ氏ですが……

ここからの流れは秀逸だと思いました。

一度ネオヒーロー活躍の流れを見せておいて、しかも直前は終始余裕な態度を崩さなかったスイリューです。この流れだと、誰しもが楽勝を予想してもおかしくないではないですか。

それが次のコマでの衝撃的な敗北。それまでヒーローの敗北はあっても殉死はなかったこの漫画において、突然すぎる凄惨な殺害現場。

しかも敵の怪人である「肉団子コネコネ」。ふざけた名前と単純な人型デザインですが、非常に恐ろしい表情と戦い方から、言い知れない迫力を感じます。この敵、すごく魅力的です。

宗教家もやられたようです。こちらは描写無しなのでなんとも言えませんが、強い怪人にやられてしまったのでしょう。

そしてその後の金属バットのシーン。

元S級が強いのは置いておくとして、怪人に敗れたリーダー二人の死体を運搬するネオの職員の姿には、明らかに陰謀的な何かを感じます。

「肉団子コネコネ」がその後どうなったかは定かではありませんが、宗教家を殺害した怪人は、その後他の人物には目もくれず立ち去ったようです。明らかに異様です。こうなるとこの二人、ネオ側の陰謀で殺害されたとしか思えなくなってきました。

どうもネオヒーローズというのは、ヒーロー協会とはまた別の方向に腐敗しているような気がします。少なくともヒーロー側はまだそれに気が付いていないようですが……果たしてネオの目的は一体何なのでしょう。

また怪人協会のような組織が現れるのでしょうか。そうなると、ポチや精子の立場も大きく変わってくるように思えます。

前回と同じように戦闘ばかりの回でしたが、非常に面白い回でした。

・127話

ブラストの息子、ブルーの戦闘シーンからですね。

サイボーグのような戦い方をする彼ですが、レベル鬼の強さに驚き気を引き締める辺り、根は真面目でひたむきなヒーロー気質のようです。リーダーに相応しい真面目さです。

反面、強さの面はまだ少し不安がありそうです。他のリーダーと比べても遜色無いほどには強い彼ですが、ヒーロー協会のS級と比べる強さは無いように思えます。この描写だけではなんとも言えませんが、精子が語っていたネオの脆さも分かるような気がします。

さてここで、満を持して主人公のサイタマ登場ですが……

何故主人公が戦っていないのか。

ここまで全部戦闘の流れだったのに、ぶった切ってまでギャグをやるとは……いや、面白いからいいんです。それにサイタマが戦ったら終わっちゃいますからね。

ヒーローネーム被害者の会。ここにきて存在感を強めます。

でも確かに、これは協会側が悪いです。なんですか「どすけべ」って。抗議もされますよ、そりゃ。しかも見たところ本人に覚えは無いようでさらに酷い。ほとんど名誉棄損のようなものではありませんか。人気商売の側面もある下級ヒーローで「どすけべ」は致命的でしょう。「赤鼻」が可愛く見えます。

サイタマもご立腹の様子。なんだかんだこの人、気にするタイプですよね。

「組織ごとぶっ潰すぞ」が洒落になっていません。サイタマなら可能ですし。やりはしないでしょうが。

このデモ活動を見て、何とも言えない顔をするシッチがかわいそうです。彼はかなり真面目に働いていた役員の一人なのですが……

さてしかし、コメディーもここまでです。レベル竜、しかも5体一気に登場だそうです。

ここ最近、レベル竜の登場が頻繁ですね。アマイマスクが戦ったピエロもレベル竜……しかも精子を相手に立ち回れていたアマイマスクが、変身しなければ歯が立たないほどの強力な怪人でした。S級ヒーローでも一人では勝てないほどの怪人がレベル竜です。それが5体ともなると、いよいよ世紀末な感じがします。

元々不安定なワンパンマンの世界において、ますます怪人側の勢力が強くなっていく中、本来精子が言う通り、ネオと教会は争っている場合ではないはずですが……

しかし登場したレベル竜、いずれもデザインが秀逸です。

「ヘビースモーカー」は絶妙なクリーチャー感が不気味です。

「シュウゴウタイ」は概念的な生物かも定かではなくて、気持ち悪いです。

「闇の大家族」、適当そうですが何故か強そうです。

「ウナギドラゴン」に関しては、「ムカデ長老」みたいなものでしょう。

そして「機神ミラー」。「機神」を冠するきなくさい怪人はこれまで何体も登場していますが、レベル竜はこれが初めてです。彼らはいずれも「組織」と繋がりがありそうで、「ミラー」の登場は組織の力がレベル竜まで行きついた事を表していると言ってもいいでしょう。

そして「ミラー」は明らかに人工的な登場です。それが他の竜と同時に登場したという事は……やはり怪人側が繋がっていると見た方がいいのかもしれません。

そもそも「組織」が人間側の運営で成り立っているものとは限りませんが……不穏です。実に面白そうです。

これまでのネオの戦いを見る限り、虎には一般ヒーローでも問題無いようですが、鬼にはリーダー、および団結の力を必要とするようです。

竜相手にはどうなるのでしょう。場合によってはリーダーでも勝てない事もあるでしょう。そしてその場合、ネオ側はどういう手段で事態の解決を試みるのでしょう。現在5体中4体は教会側のヒーローが対峙しているようですが、これも変わるのでしょうか。個人的にはスイコとほぼ同じ位置で警報を聞いていたサイタマにも参戦してほしいところです。

総評

更新された3話ともに濃厚な戦闘回でしたが、次回以降はこれよりもさらに激しい戦いが予想されます。先が読めない大規模な戦いは、ネオと教会に留まらず、人類対怪人にもなりそうで非常に楽しみです。

126~128話の満足度:90/100

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