【集中講義Ⅱ】フェザリーヌから見るひぐらし卒とエウア
はじめに
引き続き、うみねこについてを語ります。
前回の記事は以下のリンクをご参照ください。
さて、今回の議題は「うみねこ」における"フェザリーヌ"というキャラクターから「ひぐらし卒」を読み解く事です。うみねこ未プレイの方にオススメの記事ですが、その性質上うみねこのネタバレ全開なのでご注意下さい。
・フェザリーヌとは?
フェザリーヌとは、「うみねこ」EP5から登場する魔女です。詳しくは以下の画像をご覧ください。
画像内の説明を読めば、大方このキャラクターの事が分かるでしょう。しかし彼女の事をもう少し知るためには、まずはうみねこの世界について軽く説明が必要です。
・「うみねこ」の多層世界について
「うみねこ」では大きく分類して三つの世界が展開されています。
一つはゲーム盤の上の世界。
まさしくEP1の世界であり、殺人事件が起こる六軒島という舞台そのものを指しています。その正体は他の世界の人物によって創造されたフィクションの世界……すなわち劇中劇という事になります。
一つは現実世界。
1998年の右代宮縁寿が生きる世界であり、紛れもない現実です。一なる真実と呼ばれるこの世界はまさしくうみねこ世界のノンフィクションの世界であり、縁寿はこの世界の真実を求めています。
そして最後に幻想世界。
黄金の魔女ベアトリーチェが戦人と盤上での戦いを繰り広げる舞台であり、魔女と悪魔と魔法が幅を利かせている世界です。ファンタジーに満ちたこの世界の存在の是非を決めるのは、観測者の"愛"のみです。「愛が無ければ視えない」という、まさにうみねこ世界そのものを象徴した場所です。
これらの世界の優位性や実在性を語りだすと止まらないのでこのくらいの説明にしておきますが……フェザリーヌが登場するのはこれらのうち、幻想世界です。
・フェザリーヌとひぐらし卒の関係性
さてこのフェザリーヌというキャラクター……誰かに似てませんか?
あっ……
などと今更とぼけるつもりはありません。うみねこのフェザリーヌとひぐらし卒のエウア、並べてみればそっくりさんなのは一目瞭然です。
左:エウア、右:フェザリーヌ
恰好が巫女っぽい事。
紫髪の長髪で年齢を感じさせない風貌である事。
頭部のアクセサリーや肩の勲章が非常によく似ている事。
これらを踏まえると、この二人には確かな関係性が見えてきます。ここまで似せておいて関係ないは通らないでしょう。
という事で、エウアが一体何者なのかという点を考えてみましょう。
・ひぐらし卒での描写から
さて、まずはひぐらし卒におけるエウアの言動を簡単にまとめてみましょう。
①初対面である沙都子に対して初対面ではない素振りを見せ、「脊髄標本」という謎の単語を口走る
②沙都子に時間逆行能力(羽入よりすごいやつ)を与える
③時間逆行能力で仲間を殺害しまくる沙都子を見て下品に笑う
④精神分裂を起こした沙都子の人格(片割れ)が逃げ出そうとするのを止める
⑤自分の世界に侵入してきた羽入を「不完全な分身」と呼ぶ
⑥"繰り返す者を殺す効力を持つ"はずの鬼狩柳桜での一撃を受け、何故か死なずに幼児化する
⑦そのままフェードアウト
……
大体こんなものでしょう。
これらの言動を鍵として、一つずつエウアとフェザリーヌの関係を紐解いていきましょう。
・①初対面である沙都子に対して初対面ではない素振りを見せ、「脊髄標本」という謎の単語を口走る
……
まずは前半部分から行きましょう。初対面であるはずの沙都子に対し、知ったような口を利くエウア。これを上手い事説明する方法があります。
それは単純に、沙都子はエウアの事を知らないが、エウアは沙都子の事を知っているという説。これならば問題なくこの疑問を払拭できます。
でもそんな事あり得るでしょうか。確かエウアは「久しいな」みたいな事を言っていたと思います。つまりエウアは伝聞か何かで沙都子の事を知っていたわけではなく、明確に会って何度か話をした事があるという事になってしまいます。にも拘わらず、沙都子はエウアを覚えていない。もちろん作中において、沙都子が記憶喪失に陥った描写なんてありません。
それでもそんな事があり得るでしょうか。
……あり得ます。うみねこの多層世界理論を用いれば。
フェザリーヌと関連の無い事で申し訳ないのですが、思い出してほしいのはEP5におけるゲーム盤。ベアトと戦人がゲームを放棄した事により、ゲーム盤内の六軒島に新たな人物が現れました。古戸エリカです。
↑の人です。
何故かどこかで聞いたようなネーミングの彼女は、EP5から六軒島に派遣された新たな駒で、立場上ゲームを攻略する立場のベルンカステルの手下であり、それ故にプレイヤーである戦人と協力関係にあるはずの存在ですが、その実彼女は戦人の敵です。類稀な頭脳と変態的な言動で戦人を苦しめる強敵ですが……それはこの際置いておきましょう。
問題なのは彼女、ゲーム盤の駒でありながら自分自身が駒であると認識しているという事。そして駒の戦人に対しても敵意を剥き出しに挑発してきます。戦人はプレイヤーと駒とで繋がっていないため、ちぐはぐな様子になってしまいますが。
このエリカと戦人の例がまさに好例でしょう。
すなわち沙都子とエウアは共にゲーム盤の上の駒であり、沙都子は戦人のように駒としての自覚が無く、エウアはエリカのように駒としての自覚がある。そしてだからこそ、エウアは盤外で沙都子……あるいは沙都子を駒として操っている上位存在と何度か出会っているので沙都子の事をよく知っている。けれど駒の沙都子はそれを知らない。
どうでしょう。これならば①の疑問に決着がつけられるのではないでしょうか。
脊髄標本? 知らない単語ですねえ……
いや、後半部分は本当に分からないです。うみねことは縁もゆかりも無い単語なので。
強いて言うなら、別シリーズ「キコニアのなく頃に」と関係があるのでしょうか。Switchで発売してくれればプレイするのですが……ちょっとわたしでは確かめようが無いです。ごめんなさい。
気を取り直して、次に進みましょう。
・②沙都子に時間逆行能力(羽入よりすごいやつ)を与える
これは⑤と同じく、エウアと羽入との同一性を示唆する要素です。
二人は似ている……わけではありませんが、ひぐらし世界の中の異形はこの二人だけ(命とかは除くとして)なので、似ていないからといって同一性を疑う理由にはなりませんね。
左:エウア、右:羽入
さて、この二人の一体何が同一というのでしょう。それを考察するために、まずは羽入の事を考えましょう。
・羽入について
羽入は梨花の先祖です。角が生えている事から分かるように、元々人間ではありません。その正体は諸説あります。元々神様だった説とか、鬼が淵から現世に顕現した鬼だった説とか、宇宙人だとか、一つに絞るのは難しそうです。
ただ、スマホアプリ「ひぐらしのなく頃に命」では、元々雛見沢の土地神だった田村媛命というキャラが登場し、羽入の事を外から来た神と認める描写があります。
よってここでは羽入を元々神様であるとします。
↑が田村媛。可愛いですね。
羽入に話を戻しましょう。
つまり羽入は神様です。ではその神様とは一体どんな存在なのでしょう。
うみねこ的に考えるなら、それはまさしく魔女でしょう。時間逆行という魔法を使う、羽入はいわば時空の魔女という事ですね。
さて、魔女。ここでうみねこにおけるとある逸話を思い出してみましょう。
・フェザリーヌとベルンカステルの関係について
フェザリーヌはかつて、ベルンカステルを駒として弄ぶ魔女でした。
ラムダデルタ曰く、フェザリーヌはスタートとゴールが繋がったすごろくを作ってしまい、しかもあろうことかそのすごろくに飽きてベルンをそのまま放置してしまったのだとか。
ロジックエラーに陥ったベルンは精神を病みながらも終わりのないすごろくを何とかしてクリアし、それによって魔女になったと言われています。
さて、今更ですがちょっとベルンの姿を見てみましょうか。
……
もはや言うまでもなく古手梨花そのものですね。一応尻尾が生えてるかどうかの違いはありますが、どう見ても梨花です。
ベルン=梨花とすると、梨花はベルンの人間時代の姿であり、フェザリーヌが作ったスタートとゴールが繋がったすごろくは雛見沢。
これがゲーム盤ならば、梨花の敵……すなわち鷹野にも配役がありそうなものですが、これはゲーム盤ではなくすごろくなので、敵はいないと見てよいでしょう。
では梨花はゲーム盤の中で一人ぼっちだったのでしょうか。
いいえ、梨花は普通の人間なので、繰り返す事が出来ません。繰り返せなければ、フェザリーヌのゲーム盤は成立しません。
つまり梨花の他にもう一人、梨花とは異なる「ゲームシステムとしての特別な役割の駒」がすごろくの上に置かれていたのです。
それこそが羽入というわけですね。
特殊な能力が必要なので神としてキャスティングした結果、田村媛が割を食ったと考えるとなかなかに因果的ですね。
羽入が駒であると考えるメリットはもう一つあります。すなわち、羽入は何故梨花から離れて活動でき、かつ誰からも視認されないという圧倒的なアドバンテージがあるにも拘わらず、梨花のために黒幕を探ってあげなかったのかという問題がいとも簡単に解決できるという事です。
とりもなおさず、羽入はゲームシステムとしての駒であるため、フェザリーヌにゲームを壊す言動を禁じられていたという非常に論理的な答えが出来ますから。
さて、長くなってしまいましたが……まとめると以下のようになります。
梨花はフェザリーヌから見捨てられた駒で、羽入は雛見沢というすごろくのためのゲームシステムとして、やはりフェザリーヌの駒である。
ではこれを踏まえて、改めてエウアと羽入の同一性を考えましょう。
・エウアと羽入の同一性とは?
すなわち、エウアもまた羽入と同じくフェザリーヌの駒という事でしょう。それでこそ、「分身」という表現が適切だというものです。
エウアをフェザリーヌの駒と考える根拠として、最も単純なのは名前です。
例えばエリカ。ベルンカステルの駒である彼女の本名は、古戸エリカです。先ほどはとぼけましたが、古戸エリカが古手梨花をもじった存在である事は語るまでもないでしょう。
同じように羽入もまた、フェザリーヌの名前にFeather(羽)とin(入)が入っているのが認められるはずです。
ではエウアは? エウア自身、沙都子が名付けた名前であるため、そういうもじりは見受けられないような気がしますが……
ここでフェザリーヌの本名を思い出しましょう。
フェザリーヌ・アウグストゥス・アウローラ……
入ってますね、これは間違いない……
……
…………
……………………
すみません、これはさすがに強引でした。
実際、「じゃあフェザリーヌの駒の古手梨花はどうなんだ?」と言われると答えに窮しますし。その青き真実は致命傷です。
でも時間逆行能力を持たされた羽入が特別な駒ならば、やはり同じ能力を持ったエウアもまた、羽入と似た役割の持ち主である事を認めなければならないでしょう。
ではエウアの役割とは?
もちろんそれは、すごろくのゲームシステムです。
それはもちろん、雛見沢という既存のすごろくを舞台にした、「ひぐらしのなく頃に業」という全く新しいルールのすごろくなのです。
これならば、沙都子に時間逆行能力を譲渡した理由付けになります。何せ彼女はゲームシステム、沙都子に時間逆行能力を与えるのは彼女にとっての利益不利益とは何ら関係のない、彼女自身の使命なのですから。
・③時間逆行能力で仲間を殺害しまくる沙都子を見て下品に笑う
これはエウアがフェザリーヌの駒である事を示唆するものでしょう。
エウアの容姿はフェザリーヌと非常によく似ています。これはそれだけエウアがフェザリーヌの分身として優秀である事の表れでしょう。そして当然、見た目が似れば中身も似ます。
エウアが再三口にする「鑑賞に値する」とは、観劇の魔女としてのフェザリーヌが退屈を紛らわすために物語を鑑賞するのに通じています。
また、うみねこ本編のフェザリーヌは理性的で落ち着いていますが、ベルンの言い分によると、かつてはベルン以上に残虐な魔女だったという事です。下品な笑いはその辺りから来ているのでしょう。
・④精神分裂を起こした沙都子の人格(片割れ)が逃げ出そうとするのを止める
これはエウアがゲームシステムとしての駒であるがゆえの行動でしょう。
今回のすごろくでは、沙都子という明確な敵がいます。つまりは沙都子を駒とするプレイヤーが存在するという事でしょう。そうなるとフェザリーヌがどういう立場なのかちょっと分かりにくくなってしまいますがそこを掘り下げると脱線するのでちょっと置いておきましょう。
要するに沙都子は半ばプレイヤーに操られている状態にあるという事です。
ここでうみねこEP4を思い出してください。
ゲーム終盤、戦意を削がれたベアトが戦人との勝負を中断し、その後希望を失った彼女は自ら負けを認めようとします。
しかしそれでも、傍観者であるラムダデルタは中座を許しませんでした。プレイヤーは勝負が終わるまでゲームを降りる事は出来ないのです。
つまりかつてベアトがラムダにされたように、沙都子はエウアにゲームを降りようとするのを禁止されたのです。
時間逆行能力の代償といえば間違ってはいませんが、理屈としてはそういう事です。
・⑥"繰り返す者を殺す効力を持つ"はずの鬼狩柳桜での一撃を受け、何故か死なずに幼児化する
そもそも鬼狩柳桜とは一体何なのでしょう。
伝説では、羽入が梨花の先祖からその攻撃を受け、肉体を失ったという事でした。
でも羽入は肉体こそ失いましたが、別に死んではいません。梨花以外から認識されなくなりましたが、言動は自由でした。祭囃し編や命ではちゃっかり生き返っています。
作中において"鬼狩柳桜が繰り返す者を殺す効力を持つ"というのは、実のところ羽入がそう言っているだけなのです。
つまり鬼狩柳桜はすごろくの勝利条件の一つとして導入された舞台装置というだけで、実際的な効果は適当という可能性も十分にあるわけです。
実際どうなのかは知りません。エウアが小さくなった理由は分かりません。でも少なくとも矛盾点ではなくなったのでよしとしましょう。
・⑦そのままフェードアウト
これはもう、梨花と沙都子の戦いが超次元バトルと化してしまい、もはや時間逆行能力云々は完全に必要なくなったからと解釈するしかないでしょう。
ゲームシステムとしての駒であるエウアは、ゲームが崩壊した時点でそこにいる意味は無いわけですし。
じゃあなんで羽入はエウアに対してあんなに憤っていたかというと、多分羽入はフェザリーヌから今回のゲームの趣旨を聞かされていないからでしょう。だって羽入は今回のゲームにおいて、完全に不必要な駒ですから。むしろ説明があるわけがないのです。
まとめ
さて、いかがだったでしょうか。
「ひぐらし業・卒」に登場したエウアという謎に満ちた不可思議なキャラクターをうみねこ的に読み解くと、このようにある程度の納得ができる答えが得られます。
まああくまで考察というか半分妄言みたいなものですが、こういうのもたまには楽しいものです。
これを読んでうみねこに興味を持った方がいらっしゃいましたら、ぜひぜひプレイしてみてはいかがでしょうか。
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