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漫画紹介「咲 -saki-」

※再掲載記事です。

ジャンル:麻雀、既刊21巻

・あらすじ

世界の麻雀人口は一億人を突破し、学生の間でも毎年夏には大規模なインターハイが開催される世界観。

かつて中学生の頃に全国大会での優勝経験を持つ原村和は、高校でも麻雀部に入部し、麻雀漬けの毎日を送っていた。そんな中、ひょんな事から部室に連れてこられた人見知りの少女、宮永咲と対局する。当然和は勝利を収めるのだが、問題は勝敗や立ち回りなどではなく、点数。咲は元中学生チャンピオンの和を相手に、終始プラマイゼロの点数を維持し続けていた。

確率や理論を完全に無視した点数調整技術……もしも彼女がその力を勝つために使えたら……

・魅力その1、革命的な麻雀漫画

本来麻雀漫画とは、酒と煙草と生命賭けの博打が基本の過激な青年向け物語が全てでした。

そんな中、この漫画は麻雀という印象を百八十度覆します。この物語の中における麻雀とは、野球やバスケのように高校生が爽やかな青春をぶつけられるスポーツのようなものなのです。

通常の麻雀漫画にはあり得ない爽やかさは、麻雀漫画のハードルを大きく下げ、印象を明るいものに変えました。

・魅力その2、現代的な「燃えと萌え」

「燃えと萌え」というのは、「エロ・グロ・ナンセンス」と同列とされる、現代における漫画の魅力を語った標語です。この漫画ではその二つの要素が、とてつもなく高い領域に昇華されています。

「燃え」は当然、競技ものとしての熱さです。特に県大会決勝辺りの、圧倒的に強い相手を前に回想を挟みつつ意思の強さを描写し、当初から示唆されていた強みを生かした勝利を得ると、最高に王道で熱い展開が見られます。卓越した画力と巧みなセリフ回しによって、その熱さはさらに際立ちます。

敵としての「強さ」とそれを倒す「勢い」と「成長」は、青春漫画として十分に機能しています。

「萌え」はキャラクターの可愛さです。この漫画は競技ものなので、相手校が増えれば増えるほど、たくさんの人間が出てきます。舞台は女子麻雀なので、百人以上の少女がそれぞれ違う個性をもってして登場するので、キャラクターの分だけ可愛さが増えます。

そしてそのキャラクター達は、決して記号的なものではありません。むしろ記号的なキャラクターは一人として存在しません。

作者の小林立先生はすさまじい設定脳の持ち主で、メインキャラクターはもちろんのこと、本編においてほんの数コマ登場しただけの人物にも、細かいプロフィールが設定されています。誕生日だとか年齢だとかの数値的なものだけではなく、「この日どういうスケジュールで動いているか」というものまで綿密に練られているらしく、隙が全くありません。単行本の空きページはもちろんのこと、作者のブログでもその設定の一部が明かされたりします。

そしてそれは、設定だけではありません。たとえばこの漫画はアニメ化されていますが、漫画には描写されておらず、アニメのみのエピソードがあります。ですがそれはオリジナルエピソードというわけではなく、きちんと作者本人が監修しているらしく、原作では当然のようにそれが「起こった事」として進行します。漫画で描けない領域のお話を、こういう形で補完しているのです。

また、スピンオフでもその兆候があります。この漫画のスピンオフは「咲 阿知賀編 episode of side-A」「咲日和」「シノハユ the dawn of age」「立 Ritz」「怜 Toki」「染谷まこの雀荘メシ」などなど大量ですが、いずれも作者の目が行き届いているらしく、登場人物のイメージは決められているのでしょう。

ここまで来ると、もはや疑いようもありません。登場人物全てに魂がこもっているのです。だからこそ、可愛さもひとしおというわけです。

・魅力その3、ド派手な超能力麻雀

この漫画の麻雀描写はド派手です。麻雀漫画は動きが少ない分、牌を置く音に迫力があったりする事は多いのですが、この漫画はそういう次元ではありません。

指で牌を弾いて卓に叩きつけるくらいはまだ常識的で、イメージ映像で弓矢や拳銃を持ち出したり、卓を燃やしたり爆発させたり、リーチ棒を垂直に立てたり(文字通り立直)、モノクルを破壊したり等、見ていて全く飽きません。おそらく麻雀を全く知らない人でも読んでいて面白い漫画だと思います。

感覚としては「異能力者が麻雀をしている」というところでしょうか。なんというか、変身ヒーローと魔法少女と聖なるドラゴンと剣の勇者が一斉に戦いを始めるような雑多な感じ、贅沢です。

総評

一言で表すなら、新時代的。漫画としての方向性はおそらく唯一で、この漫画でしか得られない何かがあります。

一読の価値はあるでしょう。

私的好感度94/100、オススメ度80/100

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