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博士の愛した数式 小川洋子

久しぶりに、手元に置きたいなぁと思う本に出逢いました。

小川洋子さん著『博士の愛した数式』です。

この映画が公開になった時は
寺尾聡さんの風貌と
印象的な題名だけが頭の中に残り
そのまま、記憶の片隅にそっと置いてしまった作品でした。

映画を観ることも
本を読むこともなく
そのまま知識としてポケットに入れてあったのですが
縁あってこの夏、図書館で借りて読むことが出来ました。

いつも本は図書館で借りて読むことにしていて
家には、とても気に入っていて何回も読むことが決定している本しか置かないように努めています。
開くことなく置いておかれる本は可哀想で
なるべく増やさないようにと。

『博士の愛した数式』は、これは手元に置いて
好きな時に読みたい本だなぁ!と久しぶりに思えた1冊でした。


この作品は2006年に公開されています。
主人公の博士を演じるのは寺尾聡さんで
この人なしには、この映画は成立しなかったのではないかと思うほど
イメージぴったりの適役です。
ここまではわたしも知っていました。

ただ、本を読む前に全キャストを知ってしまうと
その役者さん達の姿が頭の中で動き回ってしまうので
わたしは本を読み終わるまで
この映画のキャストを調べるのはやめようと決めていました。

昨日、本を読み終わったので
さっそくネットで映画の情報を調べてみました。

「家政婦の役は誰なんだろう?」
そこがわたしの一番の関心事で
読みながら
「わたしならどの女優さんに演じてもらいたいかな?」
と、ずっと考えてきました。
予想は全て外れていました。

深津絵里さん。

「ああ!そうかぁ!この人がいたなぁ!この人以外ありえないなぁ」

家庭的な温かみと
謎めいた煌めきの混在する大好きな女優さんのひとりですが
思いつかなかった!

未亡人の役を浅丘ルリ子さん!
なんという説得力!!

ルートは吉岡秀隆さん。

ここまで俳優が揃ったら
もう、名作ですね…


『博士の愛した数式』には
わたしの大切にしたいことのすべてが描かれているような気がして
なんども泣きました。

涙がとまらないシーンもありました。

こんな美しい作品を今まで頭の片隅に放置してきた自分に驚く。
もったいない…

でも、もしかすると
今のわたしだからこそ
しっかりと胸に響くタイミングなのかもしれません。

そう思い直して
この作品に出逢えたことをあらためて感謝しました。


記憶とは?
真実とは?
永遠とは?
存在とは?


むかし、数学よりも国語の好きな学生だったわたしに
中学校の数学の先生が言ったことを思い出しました。

「答えは、ひとつに決まっているわけじゃないんだ。
もっと深淵なものなんだ。どうぞ数学を愛してください」

子どもだったわたしには
理解することができなかった言葉も
長い時を経て、心に沁みてきました。

この言葉をかけてくれた数学の先生は
後に校長先生になり引退して
今は実家のお寺の住職をしていらっしゃいます。

美しい数学の世界の真実を
別の方法で
多くのかたに伝えていらっしゃるのかもしれません。



わたしがこの本の中で一番ステキだなぁと思ったシーンは

「直線は、目に見えない場所にしか存在しない」
という話を博士がするシーンです。

家政婦に、定規を使ってチラシの裏に直線を描かせるのですが
その方法だと、紙の限界が直線の限界になります。
ほんとうの直線を表すには足りません。

また、どんなに鉛筆の先を細く削っても
鉛筆の先の分だけ、幅ができてしまう。
幅があったら、それはもう直線ではありません。

真実の「直線」は胸の中にしか存在しない。
真実は、目に見えないところに存在し続けるもの。


わたしは
この世に存在する、様々な知識や教えを
疑うことなく
「これが正しい答えなんだ」と受け取ることが多いのですが
ひとつひとつ紐解いていくと
そこには美しい哲学や
新しい姿を見つけることができるのかもしれません。


時々、歩みを止めて
読み直したくなる1冊でした。





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