創作)ドリームスフィア

第1章 奇跡の球体

 世界中のありとあらゆる有名人、政治家、資本家がそれの完成を見守ってた。
 それを作ったのは一人の老人だった。
 年季の入った木製の作業台。老人は雑多に散らばる工具を無造作にどかし、完成品を入れた箱を置く。
 世界中が、彼の手元に注目する。
 静寂の中、彼は箱を開けた。
 箱の中のそれは、両手で包んでも包みきれない大きさの球体スフィアだった。

 喝采が巻き起こった。

 全人類が待ち望んだもの。
 あらゆる願いを実現させる装置。
 それは、ドリームスフィアと呼ばれた


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 居酒屋の喧騒の中ではどれだけ騒いでも睨まれることはない。
むしろ騒いでいない人間の方が異質とまで思える。
そんなわけで、日頃の鬱憤を晴らすには最適な空間だった。


「だからさー、俺ずっと前から言ってたんだよねぇ。名前はリムボールにするってさー。ってのになんだてめーおい、ドリームスフィア夢の玉って。怪しさMAXじゃねーかよ。え?おい」

「知らないですよ。偉い人たちが勝手に決めちゃったんだから。それにリムボールリムのキン玉ドリームスフィア願いの玉だったら僕だってドリームスフィアマシな方を選びますよ。あと僕はその時まだ生まれてもないですし」

「んだとこのやろ。俺が考えたぱーへくとな名前が気にいらないってのか。製作者の俺の名前が入って何が気に食わねえってんだよ」

 目の前で酔っ払っている老害の名前ナンバーは0066「通称:66リム」。かつて世間を騒がせた“ドリームスフィア”の開発者だ。

「だからな、俺は言ってやったんだよ。”それはただのキン玉で、願いを叶えるなんてぱぅわーは無ぇぞ”ってよ。だってぇのに聞きゃしねぇ。札束置いて勝手に持って行っちまってよ。挙句に”聞いてた話と違う”とか言って乗り込んできやがってよ。こっちゃ最初からずっと言ってただろ、ってハナシだろ。そもそも、俺はただ金属球キン玉を磨くのが大好きなだけなんだぞ」

 彼が金槌カナヅチ一本でひたすら叩いて作り上げる球体はあまりの精緻さから”真球なのでは?”と噂になり、ついには各国の研究機関も乗り出してきて、精密な検査の末に「真球である」と認定された。有史以来、多くの数学者の心を折ってきた「真球は存在しない」という事実。それをハンマー片手に打ち破ってみせた男の正体とは…

「いやもうずいぶん昔のことになるんだけどよ、まだ俺がちいーちゃかった頃よ。忘れちまったけどなんとかいう有名なやつのオモシロ動画で”アルミを叩いて丸くしてみた”みたいなのがあってよ。それが仲間うちでえれぇ流行ってて面白そうだったもんだからよ、親父オヤジのハンマー借りてよ、作ってたらなんかハマっちまったのよ」

「そんなのが流行った時代もあるんですね。でも、リムさんが作った球体スフィアはなんかすごいパワーを持ってたらしいじゃないですか。ただハンマーで殴ってできるものではないでしょう。あれってどうやって作ったんです?」
 
 当時の世界最高峰の研究機関が調べても材質は純粋なアルミニウム。本人の言っているとおり、一般的なアルミニウム箔から作られたことは証明されている。
 しかし、リムが作り出した金属球は知能を持っていた。ただ叩いただけで作れるような代物しろものではない。それこそ魔法や錬金術のようなパワーが働いたとしか思えない。

「知らねぇよ。なんか叩いてたらできたんだよ」

 だから、何度も言うが、ただ叩いてできる代物ではないのである。


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