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創作)ドリームスフィア 2 回想

 僕が生まれたのは白い部屋に並べられた樹脂製の透明な保育カプセルの中だった。らしい。
 生まれたときの記憶なんて覚えているわけがないが、人口の100%がそうやって生まれてきているらしい。システムにより管理され、必要なときに必要な分だけ人間を出産生産することで、環境のバランスを保っているのだ。

 保育施設には、中学校の社会科見学で一度だけ中に入ることができた。

 「世界の人口はコンピューターによって細かく管理されている、というところは授業で習ったと思います。では世界の人口は今何人でしょうか。わかる人は手を挙げて。はい、0035693297ナナツさん」

 全ての人間は番号ナンバーで管理されているため、10桁の番号が固有名詞になる。ただ、10桁の数字列から適当にもじった愛称で呼ばれることが多い。

「はい。99億9999万9567人だと思います。あっちのパネルに表示されてますよ」

「正解です。よく気が付きましたね。あちらのパネルに赤い文字で表示されているのが現在の世界の人口です。そして、それらはすべて、ここの保育施設で作られて世界中に発送されているんですよ」

 見学者が立ち入れる区域ゾーンと立ち入り禁止区域ゾーンの間は樹脂アクリル板で隔てられていて、僕らは樹脂板に頬をくっつけるようにして奥を覗きこんだ。
 樹脂板の向こうには白い大きな部屋があって、直径30cmほどのボールが等間隔に並んでいた。

「皆さん見えますか。この部屋が培養ルームです。ところで皆さん、自分の家族が死んでしまったとき、どうしますか?」

00ゼロに連絡します」

 00ゼロとは、世界中のあらゆるシステムをつかさどるAIだ。その昔、世界中で紛争が絶えない状況をなんとかしたいと立ち上がった1人の研究者が作ったと言われている。彼の作ったAI「ドリームスフィア」はまたたく間に世界から貧困をなくし、戦火を鎮めた。
 そのAIをモデルに改良を重ねて作られたオウル、それらで構成されたAI機関が00ゼロだ。

「ナナツさん、よく知っていますね。その通りです。家族が死んでしまったときは00ゼロに連絡すると00ゼロから保育施設に報告され、完璧に計算されたタイミングであなたたちの家に新しい家族が届くのです」


「今日はたくさん学ぶことができましたね。学校の中では分からないことをたくさん知れたと思いますし、様々な感想を持ったと思いますあなたたちの命には等しく価値があります。00ゼロが見出した価値であり、あなたたち自身が見出す価値です。自分の命を大切にする気持ちをどうかこれからも忘れないでくださいね。」

保育施設の前には、建物の外観にそぐわない古めかしい銅像があった。

「この銅像は、00ゼロの起源であるドリームスフィアを開発した研究者”0066リム”氏を讃えて作られたものです。彼が作ったドリームスフィアはあらゆる願いを叶えたといいます。そのおかげで世界から戦争がなくなり、今の平和な世の中になりました。彼はとてもすごいことを成し遂げたのです。彼はもう亡くなっていますが、彼の世界平和を望む遺志は今も00ゼロの中に生き続けています。」

 人に憧れをもったのは初めてだった。誰にもできなかったことを1人で成し遂げた研究員がすごくかっこいいと思った。



 
 時が経ち、オカルト雑誌のライターという職を手に入れた僕は、社の方針でドリームスフィアについて取り上げると決まったときに真っ先に志願した。



 




 

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