最愛ドラマの加瀬先生はえらいぞという話

個人的見解ですが、エンタメに登場する弁護士の描写で一番リアリティあるのはきのう何食べた?のシロさんであるという認識を更新するときが来たかもしれない。

それがめちゃおもろなドラマで、しかも大好きな井浦新さんが演じてるなんて、僥倖としか言いようがなくて私はとてもうれしい。

というわけで、みんな大好き加瀬先生の弁護活動の軌跡をここに書き留めたいと思う。


事実経過

①岐阜で優が身柄拘束。これは任意同行で、取り調べも任意。

②優が被害者を池に突き落としたことを自白(ポケットにデータ持ってた→所持品検査してない?)

③傷害致死で逮捕

④20日勾留

⑤不起訴(厳密には処分保留釈放の可能性が高い)

事実関係① 任意聴取段階での加瀬先生の弁護活動

1 覚えていないことは覚えてないと言うようにアドバイス。

→捜査弁護の基本。優には責任能力に疑いがあるので、取調官の誘導に乗らないよう完全黙秘の方が間違いはないが、いい意味で普通で、良心の呵責から自白したがっている優にはどっちにしろ完全黙秘は無理。これが限界だったのでは。

2 任意聴取には応じさせ、その代わり同行して適宜面会したり休憩を要求したりする。

→任意である以上、そもそも出頭させないという手もあるが、あまりに非協力的だと逃走のおそれありと逮捕状を取られてしまうリスクが結構ある。優は独身で定職についていないので、逃走のおそれが高い類型の人間なので、これは現実的なやり方。

事実関係②以降 逮捕勾留段階での加瀬先生の弁護活動

1 頻繁な接見 

→おそらく重大事案で優は黙秘しているため、接見禁止がついていて家族や友達との面会は認められていない。初めて逮捕勾留される被疑者(しかも否認)にとっては、かなりつらい状況であり、そんな状況で取調官に雑談などで優しくされるとほだされてやってもいないことを自白してしまうことが結構ある。唯一接見できる弁護人が雑談や身の回りのことに配慮してあげるのは結構大事。

あと、弁護人が接見を希望すると取調べ中でも中断しないといけないので、長時間の取り調べを防ぐことが出来る。

2 動画解析 

→逮捕前からかかわっていたことが功を奏し、証拠が弁護人にもあるのは結構つよい。それによって、優が被害者と突き落とした場所と死亡していた場所が違う+先に被害者が手を出した証拠を確保。

3 記憶障害の診療履歴

→これは優の自白を無効化する証拠なのでなるはやで出すべき。しかも、器質性の記憶障害は責任能力を揺るがせかねず、捜査機関特に検察官は無視できない。しかも今後何か事件の証拠が出てきてしまっても、責任能力次第で不起訴に持っていける。

4 検察官面会

→これ、超えらいぞ制作陣!! 結構勘違いしている人多いけど、起訴不起訴を決めるのは検察官なので、弁護人が直接働きかける相手は警察じゃなくて断然検察官である。アポなしで面会は難しいけどね笑

5 加瀬先生のケースセオリー

・優が被害者を突き落としたが、そのせいで被害者が死んだわけではない(優の突き飛ばしと死亡との因果関係の否定)

・突き飛ばした事実については傷害になりうるが、最初に手を出したのは被害者なので正当防衛

ドラマ的には優が突き落とした後に被害者を死なせた真犯人を探そうと考えがちだが、別にそんなことは必要ない。優が突き落としたせいで死んだわけじゃないかも、という疑いを生じさせればいいだけなので、そこに弁護活動のリソースを全振りした加瀬先生は超正しい。実際に何が起きたのかを解明するのは捜査機関の仕事であって弁護人の仕事ではないのである。

6 雑感

これまで、加瀬先生はインハウスローヤー(会社の法務だけやる)人なのかなあと思っていたのだが、刑事弁護をある程度やり慣れてる(上記の弁護方針の的確さ+検察官とも顔見知りっぽい)とこを見ると、事務所に所属してて真田の仕事以外もやってる感じなのかな。