スパークの返金対応のはなし


某スパークの赤ブー対応の是非が問題になっていますね。

私は部外者なので、知らない情報もあると思うのですが、調べて知った限りの情報で検討したいと思います。

まず、問題になった規約はこちら。

【キャンセル・中止について】

■主催者は、天災等の不可抗力によりイベントの開催を中止する場合があります。この場合の既納金(オンライン手数料を含む)はお返しできません。

今回の台風19号は未曽有の災害であり、「天災等の不可抗力」に当たることは間違いないですね。赤ブーはこの規約に基づき、サークルに参加費返金をしないという決定をしたと思われます。

一方、民法ではこのような契約当事者双方に落ち度がない場合について、以下のように定めています。

(債務者の危険負担等)
第五百三十六条  ……当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債務者は、反対給付を受ける権利を有しない。

赤ブーは、天災という帰責性のない事由でイベント開催をするという債務を履行できなかった債務者にあたります。債務者である赤ブーは、反対給付(イベント開催という債務の対価)である参加費を受け取る権利がないことになります。つまり、受領済みの参加費は返さなければならない。

さて、このように規約と民法の言っていることが違ってしまっている場合、どちらが優先するのでしょうか。

原則としては、法律よりも当事者が合意した内容が優先します。ですが、この原則にはいくつか例外があり、その一つが消費者契約法です。

(消費者の利益を一方的に害する条項の無効)

消費者の不作為をもって当該消費者が新たな消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたものとみなす条項その他の法令中の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比して消費者の権利を制限し又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第一条第二項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。

消費者取引においては、消費者個人と事業者の間には情報力、交渉力に格差があることから、一度合意したことでも無効とする条項があります。その代表が上記10条。

要は、消費者契約において、合意した内容が法律に比べて消費者に不利な場合は、後からでも無効とすることができるのです。

今回、サークルは民法上は参加費を返してもらえますが、規約上は返してもらえない。規約のほうが民法よりも不利になっていますね。ですから、消費者契約法に基づき規約が無効となる可能性が出てくるのです。

ここで疑問に思った方もいるでしょう。一般参加者はともかく、サークルって「消費者」なのか?

消費者契約法上、「消費者」とは、個人(事業として又は事業のために契約の当事者となる場合におけるものを除く。)を言います。

「事業」とは、「一定の目的をもってなされる同種の行為の反復継続的遂行」を言いますが、営利の要素は必要でなく、営利の目的をもってなされるかどうかを問いません。

初参加や、めったにイベント参加しないサークルさんは事業者には当たらず、消費者として消費者契約法の適用を受け、規約の無効を主張できることになりそうです。

一方、継続的にイベント参加しているような、特に大手サークルさんは微妙かもしれませんね…

ですが、消費者契約法が消費者と事業者とを区別するのは、両者には契約の締結、取引に関する情報・交渉力の格差が歴然としてあり、消費者を保護する点にあります。そうなると、いくら大手サークルさんでも、主催である赤ブーとの差は歴然であり、消費者として認定される可能性はないとは言えません。

ところで、今回赤ブーは振替イベントを用意したり、参加コードを発行したりしていますね。これについてはどう考えたらいいでしょうか。

仮に消費者契約法の適用が認められ、民法どおりの処理が求められるとすると、当然返金対応ということになります。これに代えて参加コードを発行するとすれば、それは代物弁済(民法482条)ということになるでしょうが、これはあくまで債権者であるサークルの同意があれば弁済として認められるにすぎません。これら代替対応をもって当然に返金を免除されるわけではありません。

最後に、中止しても赤ブーには会場費や人件費がかかっているのではないか、保険に加入しているのではないかという声もあるようです。

保険に入っているかは赤ブーにしかわかりませんし、仮に加入せず会場費などの損害が出たとしても、それは債務を免れる理由にはなりません。お金がなければ返さなくてもいいんですか?それはビジネスで発生するリスク管理の問題であって、サークルには関係ありません。

ただ、返金を求めなければいけないということでもないので、赤ブーの対応に誠意を感じているサークルは無理に騒ぎ立てる必要もないんじゃないかな、というのが傍観者からの感想ですね。