東京マラソンの返金対応のはなし②

特に続く予定もなかったのですけど、前回記事にコメントをいただきましたのでちょっと続きます。

コメントというのはですね、今回の東京マラソンは一般ランナーが出られないだけで、中止にはなっておらず、そもそも規約適用されないのではないか───

す、するどい~~!!!(単純に気付かなかった)

確かに、主催も「東京マラソン2020については、マラソンのエリート及び車いすエリートの部のみを開催する」、「東京都内における複数の感染者が確認される中、多くの一般ランナーが参加する本大会を実施することは困難である」と中止するという言い方はしていないですね。

一方、参加料返金についてはエントリー規約に基づくと言っています。しかし、エントリー規約を見ても参加料については中止の場合の規定しかないんですよね。

そうなると、あり得るのは

①主催としては「一般ランナーも含めた」東京マラソンは中止と考えている。

②募集要項のその他に「1) エントリー規約に定める理由による大会中止の場合を除き、参加料の返金は行いません。」とあるので、それに基づいた処理を単純にエントリー規約に基づくとした(誤記か雑かどっちか)。

の二択でしょうか。まあ、②でしょうね……

でも、ちょっとおもしろいご指摘だったのでもう少し考えてみます。

今回の件で、東京マラソンに出場できなくなったのだから、一般ランナーのほうから解除して参加料の返還請求をすればいいのでは?という意見を見ました。

残念ながら、現行民法では履行不能+債務者である主催の帰責性が必要なので、当事者双方に落ち度がない場合は解除できません。解除ができないために、反対給付をどう処理するか、というところで危険負担の考え方が出てくるのです。今回ですと、一般ランナーに大会参加させるという主催の債務(=義務)がどちらの落ち度もなく履行不能になったときに、反対給付である参加料が発生するかという話ですね。

ちなみに、改正民法では、債務が履行不能の場合はどちらにも責任がなくても契約解除ができるようになります。要は、一般ランナーのほうから解除をして、原状回復として参加料の返還を求めるというやり方があり得るのです。ただし、相手に帰責性がない場合は履行不能を理由とする損害賠償請求(交通費やホテルのキャンセル料など)はできません。

気になる方は解説書など読んでみてくださいね。

ちょっと話がずれてしまいましたが、そもそも履行不能って、どういうことでしょうか。不能といえるかは、物理的に不可能な場合(例えば今回のケースだとコースとなる道路が陥没して走れないなど)に限らず取引上の社会通念に照らして判断されます。これは実務上当然の前提とされてきましたが、改正民法で明文化されることになりました。

東京マラソンは、フルマラソンと10キロのコースがあるようです。フルマラソンに絞ってお話しますと、エリート(車いす含む)の定員は130名。それ以外の3万7000人以上が今回出場できなくなったわけです。

エリート約130名が走る大会と、3万人以上のランナーが走る大会。改めて見るともはや全くの別物という感じがしますね。

原状、コロナウィルスの感染は未知の部分が大きく、多数の人が一定の場所に集まる行事やイベントは次々に中止になっています。130人規模の大会なら、人口密度が低く、更衣室の消毒などの一定の管理が可能ということで、パンデミックを起こさずに履行することが可能だが、3万人以上となると混乱なく大会を開催することが不可能という判断なのでしょう。

先ほどお話ししたとおり、履行不能は社会通念(常識のようなものと思ってください)に照らして判断しますから、マラソン大会で言えば、参加者の規模によって判断が変わりうる相対的な概念です。一般ランナーありとなしではまったく大会運営の仕方が異なるでしょうし、一般ランナーの有無で履行不能の判断が分かれるのは当然でしょう。むしろ、エリートのみなさんすら大丈夫かな?と個人的には心配なくらいです。

東京マラソンを全体としてとらえると、今回は厳密には一部履行不能であって全部履行不能(中止)ではないということになりましょうが、同じ「東京マラソン」という名称でも、ここまで違うものであれば、一部履行不能であっても、エントリー規約の「中止」に準じて判断したとしてもさほど的外れでもないのかも、とも思いました。

感想文か~?まとまらずすみません。どろん。