ゼロの執行人地上波放送記念ということで当時私が勝手に監修&妄想してたことを再放送します

1 はじめに

 私はそこまでコナンに詳しいわけでもなかったのですが、今年のコナンは一味違うぞということで初めて劇場に足を運びました。

 とても子どもむけとは思えない内容で大いに楽しめたのですが、一部界隈からはちゃんと監修つけた方がいいんじゃないかみたいな話が出ていたようで、私も初見は同じ感想でした。しかし、ノベライズ版を買い、2回目も見るに至って、公式を100%信じた場合に筋を通すことは可能か?ということを私なりに考えた結果を以下記述したいと思います。

2 時系列
爆発事件発生
指紋で小五郎が容疑者に浮上、毛利探偵事務所がガサ入れされPCの捜査結果から容疑が固まる
①4月28日
夕方 小五郎、公務執行妨害で現行犯逮捕
夜  蘭、妃法律事務所で弁護士の相談
②4月29日
白鳥によって送検を知らされる
③4月30日
橘弁護士が妃法律事務所来訪、弁護人になる
小五郎が日下部検事から取調べを受ける =送検
夜 岩井統括「明日にも起訴」発言
④5月1日
コナン、警視庁?で安室と遭遇。「送検されたら拘置所」発言
橘弁護士が妃法律事務所に証拠を持参する
まもなく起訴発言
⑤5月2日
裁判所で公判前整理手続。公判期日が決定する
IOTテロ発生
小五郎が日下部検事から取調べを受ける
⑥5月3日
コナンから橘弁護士に裏付け捜査は間に合うのか発言
色々あって小五郎の容疑が晴れる
⑦5月4日
不起訴

 日付ははっきりしないところもあるんですが、順序としてはこんな感じだったと思います。
 これ以降はあむぴのPVなので割愛。

3 刑事司法の流れ
 日本の刑事司法においては、ざっくり以下の流れで手続きが進みます。
 逮捕→48時間以内に送検→24時間以内に勾留
 この勾留中に被疑者を取り調べたり、裏付け捜査をしたりします。まずは10日、時間が足りなければさらに10日延長。つまり最大20日間勾留されます。
 勾留された結果、検察官は被疑者を起訴するか不起訴にして釈放するか決めるわけで、これは検察官の「専権事項」です。
 起訴というのは、要は事件を裁判所で審理すると決めて裁判所に送る行為です。 起訴された後は、検察官は裁判で使う証拠を整理し、それを弁護人に開示します(証拠開示)。
 その後は公判期日の日程調整などをするわけですが、裁判員裁判のような重大事件や事案複雑な場合は公判前整理手続きに付されます。
 その後、公判を何回かやって、判決が出るわけです。

4 小五郎さんの場合
 今回、小五郎さんは色々ありつつも容疑が晴れて釈放されていますね。では、小五郎さんはどういう手続的ルートをたどって釈放されたんでしょうか。
 考えられるのは、
①逮捕→送検、勾留→不起訴
②逮捕→送検、勾留→起訴→公判前整理手続→公判→検察が公訴取消し(起訴を取り消す)→公訴棄却判決
③無罪判決
の3つのルートです。
 ただ、③は、橘弁護士が途中で弁護人を降りていること、事件の時系列が1週間足らずで法廷での公判活動をしている描写もないため除外していいでしょう。
 今回の小五郎さん、当然パターン①では…?という気がします。
 しかし、先ほど書いた通り、不起訴の場合、事件を検察庁限りで終わらせて裁判所に送りません。つまり、裁判所で公判前整理手続に付されることはあり得ないのです。
 つまり、小五郎のように、送検、勾留→公判前整理手続→不起訴という流れは制度上生じ得ません。となると、今回の映画で描写がある「不起訴処分」か「公判前整理手続」どちらかが、実は行われていないということになるのです。
分かりやすく言い換えると、実際は…
①逮捕→送検、勾留→(公判前整理手続らしきもの)→不起訴
②逮捕→送検、勾留→(実は起訴されてた)→公判前整理手続→公訴取消し(これをわかりやすく不起訴と説明した?)
のどちらかの流れをたどったと思われます。

5 監修ミスの可能性
 私も正直一瞬そうおもいました。でも、今はミスじゃないと信じています。 最大の鍵は、コナン君の「送検されたら拘置所に行く」発言です。

 そもそも、小五郎さんは何の罪で送検されたのでしょうか?
 小五郎さんは、4月28日に「公務執行妨害」で現行犯逮捕され、翌日か翌々日には送検されています。現行犯逮捕された公務執行妨害のまま送検したのか?それとも殺人(未遂)で改めて逮捕状を取り、殺人罪で送検したのか?
 ここで注目すべきが「送検されたら拘置所」発言です。
 今回の事件では、ゼロは小五郎を言いなりに出来る地検公安部の支配下に置こうと画策しています(だから送検を急いだ)。その目的を達成するには、実は公務執行妨害のままで送検しただけでは不十分なのです。
 運用上、警視庁が逮捕した被疑者は、送検後も拘置所ではなく逮捕した警察署の留置施設に勾留されます。つまり、今回も公務執行妨害のままで送検してしまうと小五郎は警視庁の留置施設にいるままになってしまい、自由に出来ません。
 ただし、警察官ではなく、検察官である日下部が殺人罪で逮捕し勾留すれば、検察庁は法務省の管轄なので小五郎は拘置所に移ることになりますし、警視庁から引き離せます。
 一般的な感覚として、警察官に逮捕され、被疑者として取調べを受ける期間は「警察署」にいると考えるのが通常でしょう。今回の映画の脚本家は相棒も担当し、警察物を得意としていることからもその感覚は持っていたはずです。
 にも関わらず、脚本家はコナン君にあえて「送検されたら拘置所」と発言させています。
 となると、刑事手続について熟知した上で、今回の事件の舞台裏(小五郎を検察の支配下に置きたい)を踏まえて描写しているとしか私には思えませんでした。
 つまり、公式を信じろ!!

6 今回はどうだったのか
 話を戻して、今回の物語では
①逮捕→送検、勾留→(公判前整理手続らしきもの)→不起訴
②逮捕→送検、勾留→(実は起訴されてた)→公判前整理手続→公訴取消し(これをわかりやすく不起訴と説明した?)
 つまり、①公判前整理手続きが偽物なのか、②不起訴という説明が偽物なのか、どちらなのでしょう。
 ちなみに、通常検察官が起訴前に証拠を開示をすることはあり得ませんが、今回は橘弁護士が協力者として別ルートで証拠をもってきた可能性があり、ここは設定と矛盾しないところです。
 結論から言うと、私は今回はパターン①の可能性が高いと思います。
 根拠は二つ、描写との整合性と手続を偽装する必要性からです。

7 描写との整合性
 そもそも、今回の事件では逮捕から小五郎さん釈放まで1週間しかありません。起訴まではいいとして、公判前整理手続きをして、起訴を取り消して、判決して…という時間的余裕があったのか疑問です。また、パターン②の場合、公訴棄却判決を言い渡されることになりますが、小五郎さんが裁判所に出廷している描写もありません。
 以上のことはあむぴと劇場版のお力で何とかなるとしても、公判前整理手続の様子が決定的に矛盾しているのです。小五郎さんが問われている殺人罪は裁判員裁判事件です。裁判員裁判では裁判官は3人いるはずなのです。にも関わらず公判前整理手続で裁判官が一人しかいないことはどう考えてもおかしい。
 そもそも、一度起訴してしまうと有罪判決が出てしまうリスクがあり、ゼロとしては必要以上の『違法作業』は避けたいはずです。

8 手続きを偽装する必要性
 公判前整理手続が行われているかのように偽装したとして、その目的はなんでしょうか。
 今回、ゼロは小五郎さんを窮地に陥れることによってコナン君を動かそうと画策しています。とすれば、公判前整理手続を偽装して公判が迫っていることを強調することで、コナン君を焦らせることが真の目的だったとすると、一応の筋は通ります。
 それにしても、起訴されてもいない事件の公判前整理手続が行われているかのように偽装するって、どう考えても裁判所の協力も必要なんですけど、これも「公安的配慮」なんでしょうか。安室透、おそろしい子…

9 妃英理弁護士の立ち位置
 これまで検証してきた通り、ゼロは目的達成のために司法制度すら偽装する違法作業をしているわけですが、怖いほど頭が切れるはずのコナン君、どうやら事件と司法制度との矛盾には気づいていらっしゃらないご様子。
 これは、妃弁護士の存在が大きいのではないかと思われます。コナン君は橘弁護士のことは元々信用していないようですが、小五郎さん(というか蘭)の身内である妃弁護士については絶大な信頼を寄せていると思われ、妃弁護士が突っ込まない以上、問題ないものと考えて今回の手続が偽装されている可能性に気付かなかったのでしょう。
 そもそも、風見は協力者として橘弁護士を送り込んでいますが、初対面の彼女がコナンたちと信頼関係を築けるとは限りませんし、彼女だけでは弁護活動を完全にコントロールできる確証はありません。
 となると、妃弁護士も今回のゼロの計画に一枚かまされていたのではないでしょうか?
 当時の質疑応答で出たのですが、英理さんが小五郎さんはともかく蘭ねえちゃんを泣かすようなことをするのか?そこが最大の疑問です。
 ですが、英理さんが最初から公安に協力していたとは限りません。計画が走り出してから巻き込まれる形で協力させられていた可能性もあります。英理さんとしてはこんな計画ふざけるなという話ですが、もう事件が起きてしまっている以上、いっそのこと公安に協力して確実に小五郎さんが釈放されるように動いていたのかもしれませんね。
 英理さんが完全に公安側についているとも言えないのは、橘弁護士の人物調査を指示していることからもわかりますし…

 以上、こんな話をくら寿司でしていたのでした。

当時お付き合いいただいたおともだちの皆さんありがとう