001:ネトゲとの再会

 私ヒナは、突然2ヶ月の時間を持て余すことになった。仕事が多忙を極め、体調を壊したのだ。診断結果は適応障害。2年前にも同じことになったので、またか、というのが率直な感想だった。

 2ヶ月間休職することになった私は、少々の罪悪感を抱きつつも、この休暇を有意義に使いたいと思っていた。例えば忙しくて手が回っていなかった部屋の掃除や、毎日の自炊の徹底。自分を見つめ直すために日記をつけたり、丁寧に時間を使いたいと思っていた。

 しかし気持ちが憂鬱になったり、体がついていかない日が多く、目標はほとんど達成されなかった。何もできないと余計に自分を責めてしまい、悪循環に陥っていた。結局、何かやろうという気持ちが自分を追い詰めているのだろうと自己分析した結果、もういっそ、思いっ切り遊んでしまおう、という考えに至った。


 手を出したのは、人気のオンラインゲームだった。もともとオンラインゲームが好きだったが、時間を費やさないと満足できなくなったり、ハマり過ぎて生活が疎かになることを危惧して、長いこと遊んでいなかった。

 そういった懸念もあったため、オンラインゲームとはいえほぼソロでマイペースに遊ぼうと決意してのスタート。近年のオンラインゲームはかなり久しぶりだったが、これが面白い。長く続いているタイトルなので楽しめるコンテンツが豊富だし、初心者に優しい仕様になっていてサクサク進めるのも魅力だった。

 気付けば、朝から晩までプレイするようになっていた。


 しかし、ソロで遊ぶと決意したにも関わらず、やはり人と遊びたくなってきてしまった。そもそもオンラインゲームなのだから、他のユーザーと遊ぶことを前提にしたコンテンツがいくつも用意されている。オートマッチング機能もあるが、フレンドやギルドメンバーと遊べばより楽しいだろう、と考えてしまうようになった。ただでさえメンタルの不調で休職中だというのに、ネトゲあるあるのややこしい人間関係に巻き込まれては大変だ。しかし私もネトゲ経験者。失礼にならない程度に淡白に、割り切ってゲームをサッパリと楽しめば問題ない。そう思い、まずはギルドに所属してみることにした。

 その後の展開は早かった。ギルドメンバーとワイワイしたり、ふとしたきっかけでフレンドができたり、更にフレンドのフレンドとも仲良くなり、どんどん輪が広がっていった。そこまでコミュニティは広げないようにはしていたが、何気ない会話や、初心者には助かる情報交換など、人と交流するのがとにかく楽しかった。

 よくよく考えてみたら、仕事が忙しくてろくに人と交流していなかった。ネトゲとはいえ人との交流をすることで、私は前向きな気持ちを取り戻しつつあった。

 そんな風に私が前向きになり始め、オンラインゲームにのめり込み出した頃、ティアと出会った。今思えば、心に隙があったのだろう。こうして歯車は、少しずつ歪に動き出したのだった。


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