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departure-Ep6

ep紹介: 読みずらい板書に苦戦したり、なんとなくアウェイな気分で過ごす大学生活。イギリス人はフライドポテトを食べすぎって話。


ジャガイモの話です。

ジャガイモはイギリスの主食だそうです。

実際、食事の際にチップス(フレンチフライ)を食べてる人多かったです。

カレー屋さんや中華のテイクアウェイでもメニューにチップスがある店がありました。本当にないとだめみたいです。

日本人が米がないとだめみたいな感じなのかな。

実家が中華のテイクアウェイをやっている友達が当時いて、中華料理やだけどチップスはよく売れるって言ってました。

PRETというカフェチェーンがイギリス全土にあります。
そこはサンドイッチとかサラダとか結構充実してて、旅行のときだけ特別に利用するお気に入りの店だったのですが、

そこには必ず、サンドイッチコーナーの近くにポテチのミニパックが積み上げてあって、多くの人がサンドイッチとポテチの小袋をランチに買っていくんですね。

サンドイッチをオカズにポテチを食べる感じなのでしょうか。わからないけど。

ポテチのミニパックはどこにでも売っていました。学校の売店にもテスコにも、自動販売機にも。良くないです。簡単に買えてしまうので。

ところで、イギリスのじゃがいもって何種類か定番があるらしいです。

ききじゃがいもをしたわけではないので、どれがどの味とか正確に覚えているわけではないんですが。

でも食べたイギリスのじゃがいもは、どれもねっとりしていた気がします。

で、甘いんです。日本のじゃがいもって、ほくほくしているイメージがあるけど、イギリスのじゃがいもはねっとり甘い感じでした。

イギリス人がジャガイモを毎食食べるのを好奇の目で見ていたわたしも、
今ではじゃがいもがないと生きていけません。

第6話 チップスとクリスプ

「今日まで話したことは、基礎の基礎です。」
ジェルで固めた黒髪天然パーマのアンドレア先生がギリシア語訛りで言った。

私は脳内の自動音声翻訳機能を使って英語を日本語に訳し、
顔を上げて板書を見上げ、彼の字の汚さにうんざりして下唇を噛んでしまう。

数直線の真上にArchimedean propertyと書いてあるが、アルファベットとアルファベットがくっついて潰れるみたいな走り書きをしているから、あーきめです?あーきメジアン?だかなんだかわからない。

「これは基礎で、土台だ、土台がダメなら全部がダメになる。ギリシャ料理でいうところのオリーブオイルなんだ。オリーブオイルがダメだったら、お母さんが鍋をひっくり返して怒る、なんだこれは!って」

それから、最近の人はすぐに計算器に頼って、関数の計算を怠るという愚痴に移行し、電子黒板の前をうろうろし始めた。
これによって、もっと板書は写しにくくなり、私はペンを投げて教室をぐるっと見回した。

教室の後ろの方に固まって座っているグループがある。彼らはみんなイギリス人でブロンドか赤毛か、またはダークブラウンの髪色をした男女で構成されている。むっつりとした表情で授業を聴いている。

そのうちのブロンドの男の子が椅子の背に体重を掛け、人差し指を上に向けながら手を上げた。

「Yes?」
とアンドレは彼を指した。

「テストの時、電卓は使用できますか?」
ブロンドの男の子は質問する。

「この授業のテストでは使用できません。けど、統計学では使用していいはずです。」

「他に質問ある人?」

今度は誰も手を挙げなかった。

「いないようなので、ここで授業を終わりにします。」

授業が終わると、生徒たちはバックパックを肩にかけながら、そそくさと教室を後にしていった。

私はというと、もう一度、板書を写し直そうとしたが、先生の字があまりにも汚くて本当に苦戦して、イライラしながら、最後の一行を書き終え、一番前の席で、取り残された気分になっている。

隣の席の男の子に、先生の字が汚くて曖昧なところを聞いてみる。

彼は快く、自分のノートを見せてくれた。

ずいぶん親切で優しい子だなあ と感心しながら、お礼を言って、自分の紫色のジャンスポーツのリュックにノートとiPadをしまって、教室から出た。

教室を出ると、開けたスペースがあって、そこは談話室になっている。

ソファーがいくつも置かれて、テレビもある。
先ほど授業が終わって1秒で教室を出て行った後ろの方に座っている男女のグループが一つのソファーに固まって座っておしゃべりをしている。

私は階段を降りて、図書館に入った。

本を探すふりをして、1つ、1つのブースの中を覗いて歩く。

本棚の後ろのブースに、アリス、タリファ、ナイジャ、バックパックを机に投げ出して座っていた。

「ハーイ、元気?」

適当に挨拶をしながら、3人に混ざる。

3人は申し訳程度にノートを開いて、勉強している雰囲気を醸し出しているけれど、話している内容は、ナイジャの彼氏についてだった。

「どこで知り合ったの?」
私が聞くと、

「高校で」
さっぱりと答える、ナイジャ

「彼も数学専攻?」

「いーえ、ビジネスと経済学」

今日のナイジャはフェイクレザーのジャケットに白のタートルネック、黒のタイトワンピースとタイツで、モノトーンでキメている。どれも正直、高価ではない、むしろ安物だと思うけど、おしゃれで感心する。

一方、タリファは、くるくるの髪の毛をお団子にして、ノーメイク、肌は何もしなくても綺麗だけど、目があまりにも大きいので、少しでも目を細めるとシワができる。 紺色のスケッチャーズにレギンスにオーバーサイズのtシャツ。

私はというと、H&Mのジーパンに、NEXTのサーモンピンクのセーター。他人のことなんてとても言えない。でも靴はドクターマーチンだから100点ということにしておこう。

今度はタリファが自分のタイプについて語り始める。

「レヒイがついている男性がいい。」

「レヒいって何?」
アリスが聞く

「レヒいはアラビア語で”ひげ”って意味」

「はーん」
アリスがそっけなく返事をする。

「レヒがついている男性と、ヤッハリーマタータが欲しい。」

「やっハリーマター、た?何それ?」
今度は私が聞く。

「スープだよ、じゃがいもの入った、じゃがいもをドロドロに溶かして、とろみのついたスープ。」

「美味しそうじゃん。」
アリスがいう。

「ちょっと、彼がいる。」
会話から抜けて、ひとりで音楽を聴いていたナイジャがタリファの肩を叩く、

タリファは本棚の奥を目を凝らしてみて、オーマイゴットって、唇を動かすだけで声を発せずに言って、2人だけで騒ぎ始めた。

「え?だれ?」
私は身を乗り出して、本棚の奥を見ようとした。

すると、本棚の奥のPCブースのところに、背の高い、ナイジェリア系の男の子が立っていた。黒縁メガネをかけていて、スタイリッシュな雰囲気と同時に知的な雰囲気も醸し出している。

「彼はルーカスだよ。」
タリファが教えてくれた。名前を覚えることが苦手な私は1秒で彼の名前を忘れた。

12時になって食堂が開いた。
広げた教材を撤収して、またリュックを背負って図書館を後にする。

ナイジャは、ちょうど彼氏から電話がかかってきたらしく、イヤフォンで電話しながら、私たち3人の後を4、5メートル離れて、ゆっくりついてくる。

「ずいぶん仲良いカップルなんだね」
私が言った。

「そうそう、この前、ナイジャと二人で買い物に行った時も、彼氏から電話がかかってきて、彼女、そのままずっと電話しながら先にモリソンまで歩いて行っちゃの、それだけ二人はいい友達ってこと。」
とタリファが教えてくれた。

食堂で私はチキンカレーとバスマティライスを選んで会計をし、タリファとアリスが座る席に着いた。

アリスは山盛りのチップス(イギリス英語でフライドポテト)を
タリファは自分で作って持ってきたサンドイッチとサラダを食べ始めている。

私が一口か二口、カレーを食べたところで、ナイジャがチップスとチキンカレーをトレーに載せて滑るように私の隣の席に座ってきた。

彼女は相変わらずイアフォンをつけている。けど、どうやらもう電話はしていないようで、音楽を聴いているのか、時々、小刻み頭を振ってリズムに乗っている。

「何?どうしたの?」

ナイジャは私を見て、イヤフォンを外した。

「いやー、なんというか、ここの人ってチップスをよく食べるよね。」

私はアリスとナイジャを交互に見ながら言った。

「チップスってフレンチフライのこと?それとも袋に入っているチップスのこと?」
タリファがニヤニヤしがら聞いてくる。

「フレンチフライのこと。アメリカで言うポテチはここではクリスプスって言うでしょ?」

「そうそう、ひなはイギリス出身じゃないから一応確認したの。」

アリスが何か意見を言ったが、何を言ったのか全然聞き取れなかった。

「たまに食べるのはいいと思うのよ、私は毎日食べるのはカロリーが気になっちゃう。でもケバブ屋さんのチップスアンドチーズは最高。」

私はレミントン・スパの リージェント・ストリートにある、ケバブ屋さんのチップス,外はサクサクで中はふわふわ、熱々のチップスの上に熱で溶けて糸を引くチーズが乗っているのを想像しながら言った。

「チップス アンド チーズにマヨをかけるのが最高」
アリスが言った。

「チップス アンド チーズ にマヨ?信じられない、それはやりすぎだよ!」
聞くだけで胃もたれする組み合わせだ。

私の意見を聴いて、アリスは口をへの字にしたが、
タリファはumm…とニヤけながら呟いてくれたので同意を得た気持ちになれた。

ナイジャは自分とは関係がないって顔をして、チップスを数本、カレーにディップして摘んで、食事を終わらせてしまった。そしてさっさとトレーを片付けると、別の学部の友達に会うと言って去って行った。

アリスもチップスを平らげると、タバコを吸ってくると言って、リュックを背負って行ってしまった。

私は午後の授業のためにコーヒーが欲しくなったので、食堂の隣のカフェに移動した。

タリファもついてきてくれた。

第6話を読んでいただきありがとうございます。PodcastとSpotifyでは音声でお楽しみいただけます。次回、第7話でお会いしましょう。


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